やさしいウソ 1
バレンタインデイ。
それは、
一年に一度、君が僕に嘘をつく日。
そして、僕が君に嘘をつく日。
「あ、いたいた。」
毎年、この日になると、君は約束もしていないのに僕の所へやってくる。
とびっきりの、優しい嘘の形を持って。
「お前、こんな日に別の男の所なんて来ていいのかよ?」
2月14日。
いわゆる、チョコレート会社の策略的日であり、
世の恋する奴らが浮かれる日のことだ。
しかし、俺にとってはそんなものはどうだっていい。
別にいまさらチョコを貰えるって浮かれる歳でもない。
え?幾つになっても貰えるもんわ嬉しいって?
若いねぇ、お兄さん。
そう。
そもそも、本来ならば俺がこいつに浮かれてはいけない日のはずなんだ。
「え?彼氏?
うん、さっき渡してきたよ。
んで、あんたにはこれ。
一個余ったの。」
はい。っと、
まるで借りていた漫画を返すように、俺の前に一つの包みを差し出す。
シンプルな空色のラッピング。
毎年そうだ。
君は可愛げもない、そのシンプルな包みを俺にくれる。
でも、知ってるよ。
君が、ピンクとかハートとかそういう女の子っぽいものなんかよりも、
着飾っていないその色が一番好きだってこと。
でも、俺はそれすらも知らない振りをして言い返す。
「え~、余りモノかよ~。
俺、今日たくさんもらったんだよ?
ニキビ出来たらどうしてくれんのさ~。」
毒吐きながらも、その包みを優しく受け取る。
そう。
きっと子猫とかを抱きよせるなんかよりもずっと優しく、愛おしく。
今年はどんなチョコだろう。
去年はブラウニーで、一昨年はトリュフだった。
その前は、生チョコ。
そして、そこには必ずピンクのチョコレートで小さなハートがひとつ、
こっそりと描かれている。
俺ね、それが俺のだけってこと、知ってるんだよ?
何年前だったかな・・・
君の友達が彼女だった時のことだよ。
君から貰ったという友チョコ見せてもらったんだ。
包みはピンクのハート柄で、いかにも女の子っていうものだった。
そして、中身は
一緒・・・ココア味のクッキー。
でも、彼女のにはなかった。
小さなそのマークが。
思わず口元がにやけたのを今でもはっきり覚えているよ。
え?その彼女?
確かその3ヶ月くらい後に別れたよ。
理由もいまいち覚えてないけど、
多分、互いに合わなかったんだ。
ねぇ、そういえばさ、
俺も人のこと言えないんだけど、
君も誰かと長く付き合ったことなかったよね?
別に誰彼構わずってことはしないし、
ちゃんとそれなりの恋だったけど・・・
「君なしじゃ生きてゆけない!」
みたいな情熱的な恋はしたことない。
そんなあいまいな恋ばかりをしてきた。
・・・そう。
きっと、君も、だよね?
あの時から、ずっと。
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