第五幕:以心伝心
月明かり。
静寂。
丁子油の匂い。
張り巡らされた、緊張の糸。
刀の手入れをしてる、この時間が好き。
誰にも邪魔はされたくない。
風のない部屋。ろうろくの灯が揺れた。
紡がれていた糸が、不意に途切れる。
「またここにいたのか……」
『今、話しかけるな』
睨んだけど、本人は気にする事なく俺の前にどっかりと座った。
(……ムカつく)
でもいつもの事だと思って諦める事にした。
俺が一人になりたい時。
話しかけられたくない時。
決まってコイツは俺の隣でベラベラ喋って、いつの間にかいつも俺の真ん中にいる。
不思議な奴。
「最近、松山の稽古見てやってるらしいじゃん?」
「は? アイツが俺のを勝手に見てるんだろ?」
「おんなじじゃん」
「全然ちげーだろ……」
(……馬鹿だ、コイツ)
「翔太、自分が努力してるトコとか他人に見せるの嫌いだろ?」
「当たり前じゃん」
「そんな翔太が松山にだけ見せるの許すなんてさ。そういう事だろ?」
(案外、馬鹿じゃないのかも)
ちゃんと分かってる。
不器用で言葉に出来ない俺の分まで、ちゃんと。
「確かに松山の太刀筋、綺麗だし。才能もあると思う」
「何が言いてーんだよ?」
「でも珍しいじゃん? なんかあった?」
(聞きたかったのは、それか……)
わざわざ俺が一人になる時間を狙って。
気を使ってるつもりかよ。クソ。
「別に。何もねーよ」
「ふーん」
信じてないって顔。
ずっと一緒にいるから、何を考えてるかなんてすぐ分かる。それは多分コイツも一緒。
納得いかない様子だったけど、これ以上聞く気はないらしい。
俺がこれ以上何も話さないって分かってるから。
ホント、コイツといると楽。
「お前ら似てるよな!」
「は?」
「だから、翔太と松山」
「俺のがカッコイイだろ?」
「いや、顔とかじゃなくてさ……」
そこまで言って、黙り込んだ。
(……なんだよ、気持ち悪ぃ)
「昔のお前にそっくりだろ? 思いも……境遇も」
「…………」
何でも分かるってのは時に残酷だな、隼人……?