第四幕:遠見の角に好手あり
「最近どう?」
「みんなと一緒に稽古出来るから、毎日楽しいです」
「そう。良かったね」
『はい!』と健斗は元気良く笑って答えた。 その様子から、充実してる日々が手に取るように分かる。
(この笑顔を絶やしてはいけないんだ、きっと)
「次、亮さんの番ですよ?」
「え? あ、ごめん」
亮は慌てて目の前の将棋盤に視線を戻す。
そして一手指すと、そこに来るのが分かっていたかのように、すぐに次の一手が指された。
健斗らしい、真っ直ぐでワクワクするような攻め方だ。 それでいて芯が強い。
「翔太は、相変わらず?」
「あー……まぁ」
これまでの事を思い出して顔を歪めた健斗に亮は思わず笑みがこぼれる。相変わらず翔太は子供が苦手らしい。
「でも……」
「でも?」
最近は自主練を見せてくれるという。 ただ何も言わずに。その背中を見て学べ、と。
「へぇ……。あの翔太がね?」
「でもその後の道場の掃除とか健ちゃんがしてるんでしょ?」
「はい」
葵の質問に笑顔で答える健斗。
亮は一弥が『健ちゃんが翔太に苛められてる』と騒ぐ意味がやっと分かった。
「それでもいいんです。近くで翔太さんの技見れるだけで……」
翔太の稽古する姿を思い出したのか、健斗はうっとりとため息をついた。
(こんな可愛い子に惚れられちゃうなんて、翔太も隅に置けないね)
(……でも待てよ。 確か、翔太って?)
「王手!」
「……へ?」
「王手です」
「まままままままって!!」
「ダメですよ。待ったはなしです」
いつの間にか局面は進んでいて。
(あーん! どうしよう! このままじゃ負けちゃう)
「……クッ、はははは!!!」
それまで黙って聞いていた光が、お腹を抱えて笑った。