紫紺の男
広大な敷地に、純和風の屋敷が佇んでいる。その屋敷に二匹の狼が入っていった。一匹の背中には、スーツの男が乗っている。
もう一匹が屋敷の主を見つけ、口を開いた。
「紫苑様」
「お帰り」
二匹の狼――金狼と銀狼を着流しの男が迎え、にっこりと微笑む。
彼は紫苑亮。
金狼、銀狼の主人である。
「彼を僕の部屋へ運んで?」
亮は、スーツの男の様子を見て、そう促した。
金狼は、亮の部屋に敷かれた布団にゆっくりと彼を降ろす。
「金狼、銀狼。もう戻っていいよ?」
亮がそう言うと、二匹……いや、二人は立ち上がり人間の姿に戻った。
「ありがとう。葵、光」
「いえ」
彼らは人間と狼のハーフ。普段は葵と光として人間の姿で生活している。
さっそく亮は男の胸に手を当てて、静かに目を閉じた。
すると男の身体を暖かい光が包み込む。
「んん……」
「気付いたか?」
「ここは……?」
「もう大丈夫。ここは安全です」
その言葉を聞いて、男は安心したようにもう一度眠りに落ちた。
***
「いやぁー助けるのがギリギリ間に合ってよかったね!」
「よかったね! じゃねーよ。あのおっさんの自業自得だろ? そんなんだから鬼王の奴に狙われんだよ」
「コラ! 翔太!」
渉が咎めると、翔太はバツの悪そうな顔で舌打ちをした。
「で、彼の様子は? どう?」
「体調はあと二日くらい安静にしてたら戻ると思う。それにもう絶対命を投げ出すような事しないって僕に誓ってくれたよ」
「そっか」
亮の言葉を聞いて、翔太だけは納得いかないように鼻で笑ったが、皆は胸を撫で下ろした。
「紫苑様、そろそろお部屋に戻られた方が。お身体に障ります」
「大丈夫だよ、光」
そう言いながらも、立ち上がるとふらりとよろけた。
「葵」
「うん。紫苑様、行きましょう」
葵が部屋まで亮を支えて歩く。
元来病弱な体質の亮は、屋敷から出る事なく、自室の床に伏せている事が多い。
ただ、触れると傷や病気を治すという不思議な力も同時に持ち合わせていた。
「これからも俺達の使命は世界から闇を取り除くこと」
「おう!」
「鬼王の好きになんかさせねーよ」
***
暗く、じめじめとした洞窟に、着物の女が足を踏み入れる。
「鬼王様……」
女――夜叉姫が名前を呼ぶと、黒ずくめの洋装の男が振り向く。その右目は眼帯をしていて、表情は読み取れない。
「覚醒には失敗したようだね?」
「申し訳ありません。また奴等の邪魔が入りました」
「まぁいい。強い光は濃い闇を生む。次のターゲットを見つけた」
「今度こそ、鬼王様の気に入る闇を手に入れてみせますわ」
「楽しみにしている」
「……あ、ッ」
鬼王が夜叉姫の華奢な腰を引き寄せ、その首に口付ける。
着物の帯がはらりと地面に落ちた。