表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

口上

 突然強い風が、狙ったように襲いかかる。いち早く異変に気付いた女は掴んでいた男を突き飛ばし、自分の身の安全を確保した。

 男は投げ飛ばされ来るはずの痛みを覚悟したが、いつまで経ってもその痛みは訪れなかった。恐る恐る目を開ける。 


「もう大丈夫だ」


 頭上で声がする。誰かがふわりと支えてくれているのだと、やっと気付いた。


(助かった……?)


「安心して、お眠り?」


 男は朦朧とする意識の中で、その声を聞いた。


金狼きんろう! 銀狼ぎんろう!」


 黄金色と白銀色の美しい毛並みの狼が二匹、颯爽と現れる。


「彼を紫苑しおん様の元へ。早く!」

「御意」


 金狼と呼ばれた狼の背中に男を乗せると、二匹は走り出した。





「君の好きにはさせないよ、夜叉姫」


 夜叉姫と呼ばれた着物の美人は、チッと舌打ちをすると、声の主を凍るような冷たい瞳で睨み付ける。


「またお前達か。懲りない奴等め」

「懲りないのはそっちだろ! いい加減諦めろっての」

「世界を闇に染めるまでは……諦める訳にはいかない」

「何度でも止めてやる。我ら心刀組がいる限り!」


 夜叉姫の前に、白衣白袴にそれぞれの色彩に染め上げた陣羽織の男たちが立ちはだかる。


「灼熱の炎を纏いし紅き侍 紅隼人くれないはやと!」


 赤の陣羽織には、『紅』の文字。切れ長の涼やかな目で、しかしその胸には熱い闘志を燃やしている。


「水龍の魂を受け継ぎし蒼き閃光 氷雨翔太ひさめしょうた!」


 青の陣羽織には、『氷雨』の文字。刀を一振り肩に掛けると、自信に満ちた顔でニヤリと笑った。


「花嵐に舞いし風の遣い手 撫子風磨なでしこふうま!」


 桃色の陣羽織には、『撫子』の文字。絹のように真っ白な肌に、大きく吊り上がった目。額に結んだ鉢巻が風に揺れている。


「黄砂が吹き荒れし大地の番人 向日葵渉ひまわりわたる!」


 黄色の陣羽織には、『向日葵』の文字。両手に持った小刀を逆手に持ち変えて、ニッと笑うと八重歯が見えた。


「太陽に包まれし光の戦士 梔子一弥くちなしかずや!」


 橙色の陣羽織には、『梔子』の文字。自分の背よりもはるかに大きい槍を一回し。キッと睨むその目には強い意志を秘めている。


「緑の息吹溢れし弓将軍 若草千早わかくさちはや!」


 緑の陣羽織には、『若草』の文字。柔らかな微笑みとは裏腹に、冷酷な判断も下す心刀組の策士だ。



「お前達の相手はコレで充分だ。鴉!!」


 夜叉姫は着物の胸元から人型の紙切れを取り出す。ひらりと宙に投げるとソレは、瞬く間に黒ずくめの忍者へと姿を変える。

 その隙に夜叉姫は嘲笑うような微笑みだけを残し、踵を返した。


「おい、待て! 夜叉姫!」


 追い掛けようとした渉の足元に手裏剣が刺さる。


「深追いは禁物。今はコイツ等何とかした方が良さそうだぜ?」


 目の前は既に夜叉姫の置き土産――鴉達に囲まれていた。


「さっさと片付けるぞ」

「楽勝!」

 

 それはほんの一瞬だった。

 辺り一面を光が包みこみ、次の瞬間二つに引き裂かれた紙切れが地面に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ