第四十七話 目標変更《ターゲットチェンジ》
停止装置は都市内部に設置されている接続端末と同じ接続暗号が必要だ、
逆に言えば都市内部の接続端末に接続する為の、
接続暗号があれば動かす事が出来る。
勿論、暗号は人間が記憶したり、通常の記録媒体に記録させたり出来ない風にしてある。
単純に接続暗号は、特定の媒体に記録されたものを使用しなくては、
認識しない様にしてある。その特定の媒体と言うのはカード状にしてある、
形状記憶合金と言う物で作られたそれは、
一定の温度で記憶された形状に戻ると言う性質を持っている。
その形状が暗号になっている。
ただし、停止装置の停止をする場合だけは接続暗号は必要無い。
つまり、停止させるだけなら接続暗号を記録したカードは不必要だ。
そう、停止させる事が出来るなら………
停止装置の操作室の中で、二人の瓜二つな少年と少女が会話している。
??? 「あぁーあ、つまんなぁーい」
??? 「もう、つまらないなんて言わないの」
その二人はまるで日常会話でもしているかの様に気楽に声をかけあっている。
だが、その操作室にあるメインモニタは警告画面によって真っ赤に染まり、
緊急事態を示すランプまで点燈している。明らかに異常が発生している事を知らせているのだが、
その二人はそれらを意に介する事無く、日常的な会話をしているかの様な雰囲気で会話している。
??? 「でも姉さん、こんな害虫がうじゃうじゃ居る場所に、
何で俺達が来なきゃいけないんだよー」
??? 「もう、どうして貴方は……良い?私達は兄様を行動不能にして回収する事が目的なの、
それで、兄様は害虫の住む都市に隠れたみたいだから、
その都市を破壊しつくして兄様を炙り出そうって事なの」
??? 「それは判ってるけどさー、姉さん、俺さぁ………」
少年が会話の途中でふと扉の方に顔を向け、ニタリと笑みを浮かべた。
少女の方も扉の方に顔を向けて、左腕に紫電を纏わせニタリと笑みを浮かべた。
??? 「ミィーツケタ」
……その笑みが口が頬まで裂けた笑みに変わった時には二人の姿は消えていた。
燐 「ここよ、この扉の奥が第十二番停止装置よ………」
扉の前に設置されていたパネルを名無しと凛は無言で眺める。
名無し 「これは…」
扉を開けるための操作パネルにはべっとりと赤黒い血と頬の辺りらしい肉片がこびり付いている。
それ以外にも廊下の片隅には骨だけになっている人間の残骸も存在したし、
廊下全体に赤黒い液体がぶちまけられている。
燐 「起動してない……」
そして、停止装置は完膚なきまでに破壊されており、起動していない……
すなわち、電源供給の停止は停止装置が原因ではない。
名無し 「何でだ?発電装置は停止していないんだろう?だったら何故?」
燐 「わからないわ…通信機は使えないし……」
名無し 「それじゃ……どうすれば…」
燐 「仕方ないわ、トラップが発動した原因を調べましょう。確かメインサーバは……ん?」
通信機 『ジジッ…ザザザッ…こち……シェル…ザザッ…避難…ジッ…全……』
突如、通信機からミクロの声が聞こえてきた。
燐と名無しは素早く目配せをして、名無しは部屋の入り口から廊下を伺う。
燐はスイレンを寝かせてあるソファの横で通信機の声を聞き取る事に集中する。
通信機 『都市…ジジッ……維持限界…ジザッ…ジッ…繰り返す…ジジッ…
避難民用シェル…ジジッ…内部に…ザザッ…が進入…ジジッ…
シェルター内部にて感染者が発生、非戦闘員は全滅、都市の現状維持限界です…
戦闘員は速やかに脱出経路の…ジジッ…都市内部の生存者は…ジジッ…避難を…』
燐 「これは…緊急放送?…非戦闘員が全滅……まさか…そんな…」
通信機から聞こえてくる情報を聞き、そしてやっと気がついた。
都市中央部にて行われている戦闘音が聞こえなくなっていた。
通信機 『戦闘員は脱出…ジジッ…の確保を…ジザザッ…生存者は…ザザァーーッ』
突然、通信機は雑音のみに切り替わり、以後周波数を幾度も指定チャネルを変更するが、
通信機が発するのは雑音のみ……
シェルター内部で感染者が現れた……通常であれば感染症状は第一段階の狂人のはずだ。
その程度であれば治療薬の投与で治す事が出来る…それすらも出来ずに全滅?
狂人は人間とは身体性能自体は通常の人間と変わらない。
その為、感染者が1人2人居た程度であれば直に鎮圧出来るはずだ。
即ち今回の場合、第二段階の死体人まで進んだ人物が?
だかそれはシェルターに侵入する際に選別されるから無いだろう…
なら、第一段階から治療が遅れ第二段階になった?その可能性は高い…
だが、死体人は著しく移動速度が低下する。
シェルター内部にた至る所に防衛用のボウガン等が設置されていたはずだ。
4~5体の死体人であればそれで事足りる…じゃあ、何故?何故全滅等と言う自体に?
………まぁいいわ、今は脱出する事を考えないと…手動操縦で装甲車を動かして転送装置を使って…
駄目ね、転送装置は電源の停止の所為で動かないし……
とりあえず、この場で留まっているのは得策ではないわね、
そのうち、臭気を嗅ぎ付けて死体人が集まってくる。
燐 「都市外部への脱出をするわ」
入り口から廊下を伺っていた名無しは突然の燐の言葉に驚き、食って掛かる。
名無し 「は?何でだっ!生存者を見捨てるのかっ!」
燐 「残ってるのは自力で脱出出来る奴らばかりよ」
燐は半ばやけくそにそう言い放ち、それからスイレンを器用に背負って名無しの方を向き直った。
燐 「第一目標である都市内部の情報の入手は終了。
第二目標の都市内部の生存者の救出は失敗、
第三目標、都市外部への脱出を遂行するわ。」
名無し 「……失敗?」
燐 「そう、非戦闘員が避難していたシェルター内部にて感染者が発生したわ。
詳しい原因は不明だけれども、非戦闘員が全滅。
戦闘員は各自脱出する様にって通達があったわ。」
名無し 「……そ…んな…」
燐 「ショックを受けるのは判るけど落ち着きなさい、ここで私達まで死んでしまったら
元も子も無いわ、とりあえずここから一番近い都市に避難する為に行動しましょう」
都市からの脱出……都市内部は魔物と死体人で溢れている…この都市は燐にとって庭の様な物だ。
そう、どこをどう行けば良いのかなんて直に浮かぶはずだった……都市が通常の状態であれば…