第四十一話 別行動
擬態蛭を殲滅する事には何とか成功した。スイレンが途中でショックから立ち直り、
直に「落雷」と「噴火」を同時詠唱&発動し、
擬態蛭を、纏っていた護法結界の付加された防弾防刃チョッキごと、焼き払った。
室内で噴火を使用するのは危険なのだが、そこまで気が回らなかったらしい。
咄嗟に名無しが吸魔弾で自分達の方まで流れ出てきた
魔力によって作り出された擬似的な溶岩と業火を消した為、怪我人は出なかったが…
一応、念の為に名無し自身も「着火」で擬態蛭の亡骸を焼いておいた。
そして、白影が言うには、ここに留まるのは得策ではないし、
それに擬態蛭が居ると言う事は他の魔物も居る可能性があるという事でもある。
白影は隠密行動に優れているので、白影は一度クルシス達の所へ戻り、
名無し達3人はゲートを起動させて都市内部に侵入すると言う感じの行動をする事になった。
大型ゲートの管理の為の小隊が全滅させられた。
更には、擬態蛭が擬態していた人間の着用していた防弾防刃チョッキや
装備していたM4カスタムはこの都市で使用している物と違う型番の為別の都市の者であろうとの事だ。
どうしてこの都市のゲート管理室兼、ゲート守備隊の拠点にやってきたのかは不明だが
言える事は擬態蛭は水辺に生息する物で、生憎と廃都市は水辺等と言う物は存在しない
その為、誰かが意図的にここに放った可能性がある。理由は判らないが…
とにかく、大型ゲートの管理小隊が全滅しているのに都市内部から様子を見に来る気配がない。
それもおかしいのだ、小隊からの連絡が途絶えた場合、速やかに様子を見に来るのだ
それがないと言う事は都市内部で何かあった…
最悪の場合、擬態蛭が都市内部に侵入しており、中は地獄絵図になっている可能性も捨てきれない。
その話を聞いた時、スイレンはショックを受けた様だが直に希望に縋り付いている。
燐は息を呑んだ後、機関銃の様子を確かめ、白影は短刀を取り出して此方に差し出してきた。
白影 「名無し、お前が唯一白兵戦が得意だ、この短刀は炎系魔術の媒体に使える」
名無し 「えと…ありがとう」
その差し出してきた短刀を受け取る。長さは30センチ程、鞘には華美な装飾は一切無く、
その刃は研ぎ澄まされており実用性のみを極めた短刀であるのが伺える…
名無し 「高価な物じゃないのか?」
白影 「俺が自作しただけだ、焼灼止血を行う時に使う為にな」
確かに、この刃なら焼灼止血を行うのに適しては居るだろうが…
そもそも魔物の攻撃を喰らった場合、魔物の毒が体を蝕む場合があるので、
すぐさま治療及びに治療薬の投与を行わなければ最悪、魔物になってしまうのだが…
白影 「応急処置用だ、安心しろ」
此方の表情から考えている事を読んだのか白影が声をかけてきた。
燐 「さて、そろそろ休憩も終わりにしましょうか、白影、連絡は任せたわよ」
機関銃を背負い、垂直二連装散弾銃をいつでも撃てる様に持ち、燐が立ち上がる。
スイレンもそれにつられて自分の身長程もある杖を両手で持ち立ち上がった。
名無しは短刀をサバイバルショルダーバッグに入れ、立ち上がる。
それを見た白影は一瞬名無しの顔を見たが
「武器として扱い慣れていないと思う」と伝えると白影は何も言わずにいてくれた。
白影 「じゃあ、俺は行くがお前達も十分注意しろよ、人影を見つけても不用意に近づくなよ」
白影は対人恐怖症に陥りそうなありがたい忠告を言うと、一瞬でその場から居なくなった。
いや、実際には目の前に居るのだが、存在が感知できないのだ。
視界の中には入っているのだが、そこに誰か居ると意識できないので
白影は視界の中に居ながらも誰にも見つけられず誰にも邪魔されずに行動ができるのだ。
そんな白影が歩き出すともうどこに居るのか判らなくなる
此方は白影姿は捉える事はできても、それが白影だとは思わないし思えない
そもそも人間であるか以前にその姿を捉えても意識できないのだ。
一種の強制暗示を周りに振りまいて、自分の姿を捉えられなくする物とは少し違う。
それだと、自我を持っていない魔物には通用しない。
白影の場合は文字通りで存在を“消す”。魔力を使って己の存在感やそこに存在している証拠、
例えば体温や気配、果ては体内の電気信号に至るまで全てを
魔力を使って作り出した別空間に封じ込めるのだ。
しかし、白影自身の肉体と意識は此方に留めて置くのである。
その為、特殊な計測機器を使ったとしても白影の存在は感知できないのである。
魔力漏れも全く起こさないので、魔力を頼りに探す事も出来ない。
勿論、弱点もあるが、その弱点を突かれる程、白影は甘くない。