第三十九話 警備隊
廃都市内部に侵入してから30分が経過した。
現在位置は廃都市の大通りに並ぶ様にして建っていたビルの、
四階のデスクワークの為の部屋だと思われる場所に居た。
ここの都市は廃都市であり、窓ガラス等は殆ど割れていたが、この部屋の窓は割れていなかった。
理由はここに寝泊りしていた人達が居たからであり、
その生活をしていた事を示す様々な物が落ちていた。
携帯食料の容器や寝袋、そして衣服や突撃銃や散弾銃等の武装。
他にあった物は……焼き溶かされた通信機の残骸と、数人分の人骨である…
そして、部屋の中は多少の熱気と、人を焼いた臭気が篭っていた…
燐 「炎系の魔法ね、護法結界が施された衣服が残ってる…」
その人骨が纏っていた護法結界?の施されていたらしい警備隊のコートを燐が漁っている。
白影 「人体だけを焼失させるとは…器用であるな」
白影が少し場違いな感想を述べるが、名無し自身もその意見には賛成である。
スイレン 「酷い…」
部屋の中には争った形跡は無い、そして人骨は一箇所に集められて居た。
集められたと言うより、そこで初めから焼いていたかの様である。
この部屋の中には結構な量の可燃物が存在するが、そのどれにも引火していないし、
床自体も焦げていない、あるのは肉が焼け落ち、白骨化した人の骨のみ。
周りに影響を与えず、特定の対象のみを焼く魔法…対象焼失…
燐 「あったあった、防火構造で助かったわぁ~ちゃんとカードキー見つけたわよ」
コートを漁っていた凛が何かを見つけて掲げる。
それは黒い色の、厚さ1.5mmの80~90mm×50~60mm程度の大きさのカードであった。
白影 「防火構造でなくとも焼ける心配は無かったと思うが」
確かに白影の言う通りである。
対象焼失と言うのは、自分が選んだ対象のみを焼失させる炎系の難易度の高い魔法である。
対象物、例えば人間や動物等を指定すればそれ以外の物を焼かずに対象だけを焼ける。
実際は癌治療の為に作られた魔法だが、使い方次第では、
この部屋の様に、他の物を一切焼かずに人の命を奪う事が出来る。
燐 「それで、この状況の報告をしたい訳だけど、通信機は焼失してるわねぇ…焼け残ってるけど」
表面の合成樹脂が融解して、中の基盤も焦げ付いている大型の通信機が窓際に鎮座している。
それを見ながら燐が今度は腰のポーチの中から小型通信機を取り出す。
燐 「と言う訳でこの小型通信機を使おうと思ったけど、繋がらないのよね」
燐の言う通りで、先程から通信機を使って通信を行っているが、応答は無い。
名無しやスイレン、白影が持っていた通信機も同じ様に応答が帰ってくる事は無い。
白影 「つまり、クルシス達に何かあったという事ではないか?」
スイレン 「だったら早く戻らないと!」
白影の言葉にスイレンが過剰反応するが、凛がすぐさま宥める。
燐 「落ち着いて、まだ何かあったって決まった訳じゃ…な…い……」
だが、言葉の途中で凛は耳を澄まして何かを聞き取ろうとし始めた。
体が勝手に動き、魔力で聴覚の強化を行った…
下の階層から4人分の足音が聞こえる…だが、足音を消している様な感じの歩き方だ…
名無し 「下から4人上がって来る」
カチャリカチャリと合成樹脂で出来た何かと金属の金具のぶつかり合う音が微かに聞こえる。
その音から相手の武装は主に銃…突撃銃であると予測し、
直に自動式拳銃を引き抜きかけて、一瞬考えた後、Faithfel-02を引き抜いた。
白影 「仲間では無い様だな…合図が無い」
白影が皆に注意を促す、下の階層から上がってきた足音はこの部屋をまっすぐ目指している。
警備隊の仲間であれば、魔力の微弱に周りに発散し位置を仲間に伝えると言う事をするはずである。
しかし、今この部屋に向かってきている人物達はそんな事はしていない。
むしろ、魔力を内に封じ込めて、居場所がばれない様にしようとしている。
だが、魔力の封じ込めに集中し過ぎて足音が微弱に漏れている、
一流ではなく、二流か三流であろう…
燐 「油断は禁物ね…」
聞き耳を立てていた燐はいつの間にか垂直二連散弾銃を持っていた。
普段使っている機関散弾銃は背負っている。
この狭い部屋の中で機関散弾銃を取り回すのが難しいからであろう。
白影は月影を取り出して矢を番えている。
スイレンは杖を取り出して強化詠唱をほんの些細な魔力も漏らさずに行っている。
自分はFaithfel-02に魔弾を精製していく。