第三十八話 襲撃
名無し達の出立を見送ってから15分程立った時に唐突にアリスが警告音を鳴らした。
アリス 「生命反応を発見しました、種族は人間、数は12、武装をしているようです」
固定機関砲のレーダー機器を確認してから、秋春が声をかけた。
秋春 「何だ?警備隊の奴らじゃねぇのか?」
風鈴 「ありえないチュ、警備隊の人数は一個小隊だから三分の二以上が転送装置から
離れる事はないはずチュ」
見た目の割に落ち着いた意見を風鈴が述べる。
秋春 「……っつー事は?敵か?」
その言葉を聞いて秋春が眼を細めた。
風鈴 「それはまだわからな――ッ!?」
ブシュッっと言う音がし、風鈴がふらついて手摺りを掴んだ。
秋春 「どうし―――チッ!敵かっ!!」
秋春は風鈴を抱き寄せて獄炎円陣で飛来する弾丸を焼き尽す。
風鈴 「痛いチュ…」
抱き寄せた風鈴の脇腹の辺りに穴が開き、血が流れ出していた。
弾丸は貫通していったのか前と後ろの二箇所から血が出ている。
秋春 「チッっくしょう、治癒魔法なんて使えねぇぞ」
咄嗟に服を捲くり傷口を確認し、威力を抑えた火炎で傷口を焼く。
風鈴 「チュッ~~~!!」
ジューッと肉の焼ける音がした瞬間に風鈴の体が跳ねたのでそれを押さえつける。
秋春 「我慢しろっ!」
とりあえず傷口を焼くと言う強引な止血を終えてから、風鈴を車両の中に運び込む。
車両に乗り込み、入り口を閉じた後に獄炎円陣を解く。
秋春 「敵は12人か…俺を攻撃したのは突撃銃じゃねぇか?」
秋春 「スナイ…パーも…居るチュ」
止血はしたが傷が深いのだろう、風鈴が喋るのも辛そうだ。
秋春には治癒魔法は使えない。
確かミラーズは医者だった気がする、さっさと風鈴をミラーズに押し付けて
急襲をかけてきた奴らを焼き払わなくては。
クルシス 「秋春か、今さっきアリスが言った通り…風鈴!どうしたんだその怪我!」
車両内部で機器を操作していたクルシスがこちらを振り返ると同時に驚き声を上げた。
秋春 「狙撃された、よっぽど下手糞なのか腹ぁぶち抜きやがったがな」
風鈴 「お腹じゃ…なか――ッ!…ったら、私死んでるチュ」
クルシス 「無理に喋るな、おいミラーズ!風鈴が撃たれた!怪我の治癒を!」
クルシスが荷台へと続く扉へと声をかけると、ミラーズが慌てた様子で現れた。
ミラーズ 「怪我の治癒をするわ!そこの空いてる座席に座らせて!」
秋春 「わかった」
空いている座席に風鈴を寝かせる。
ミラーズが風鈴の服に手をかけ様として、クルシスと秋春を睨む。
クルシスと秋春は一瞬、疑問を浮べ顔を見合わせる。
ミラーズ 「風鈴は一応女の子なのよ?」
ミラーズのその一言で思い出したかの様に二人は慌てて荷台の方へと向かう。
秋春が一瞬足を止めてミラーズに声をかけた。
秋春 「あぁ、傷口だが焼いて止血しといたぞ」
ミラーズ 「はぁ?焼いた!?何で焼き止血してんのよ!あれは裂傷とか切り傷に使うものでしょ!」
秋春 「傷口見てみろ、理由が判る」
秋春はそう言うと荷台の中に入っていった。
それをしっかりと見届けた後、風鈴に声をかける。
ミラーズ 「風鈴、服脱がすわよ?」
風鈴 「チュ…」
苦しげに風鈴が声を返すが承諾か拒否か判別がつかない…
とりあえず承諾と受け取り帽子を外し、上着を脱がす。
ミラーズ 「はぁ、秋春の選択は正解なのね…」
傷口を見てミラーズは溜息をついた。
弾丸は貫通していた、弾丸自体は鉛玉だったのだろう、だが魔力が付加された魔弾だったらしい。
へその3cm程右横の所を弾丸が貫いている。
それは良い、弾丸が体内に残っていなければ単なる治癒魔法で治癒が可能だから、
弾丸の当たった箇所から半径2cm余りの皮膚がまるで荒い鑢に削られたかの様になっていて、
その上で高温で短時間の間に焼いたかの様に火傷の後が残っていた。
弾丸自体の種類は削取弾だろう。
魔弾のレベルが低かったのと、風鈴自信の魔力抵抗、それと、
着用していた護法結界の付加された衣服のおかげで、比較的傷は浅い。
削取弾の効力は、着弾した場所、対象を内側から構築組織を抉ると言う効力である。
単なる人間が喰らえば、着弾した部分から、貫通後の部分までが、挽肉になるのだ。
銃跡以上のダメージを与える事が出来、通常の医療では治療できない傷を与えるという事から、
基本的に使用が禁止されているはずなのだが…
先程脱がした風鈴の服を一瞬一瞥して、秋春の判断能力を評価した。
風鈴が被弾、被弾箇所はお腹の辺り、弾丸は貫通、血が流れるのは当たり前である。
だが、その出血量が異常に多い事を一瞬で秋春は見抜いて止血を行ったらしい。
鑢で削られたかの様な部分は、もし焼き止血を行っていなければ
ミラーズが手当てを開始する頃には出血多量で命を落としていただろう…
そんな事を考えつつも、横から差し出された毛布を折りたたんで風鈴の胸の辺りに被せる。
ミラーズ 「ありがと、もう大丈夫なの?」
お礼を言いつつ、毛布を渡してくれた相手に尋ねる。
スミレ 「もう大丈夫」
一瞬だけスミレの顔を見る。
眼を泣き腫らして真っ赤にしている以外は表情も無く無理をしているのか否か判別はつかないが、
とりあえず大丈夫だろうと判断し、スミレに指示して風鈴の治療を開始した。