第三十七話 調査《サーチ》
都市に到着した…が、厳密に言うとちょっと違う。
地下都市上部に存在する廃都市に到着したのだ。
影潜魔法都市の真上に位置するこの都市は、
コンクリート製の集合住宅やビルばかりだったため、
その外装が剥がれ落ち、植物がそれを覆っている状態の集合住宅があったり、
半ばからへし折れた鉄骨製の電波等等があったりなど、
ゴーストタウン等と言う生易しいものではなく、
廃都市と言うのがふさわしいだろう…
影潜魔法都市と言うのは元の名称が黒魔術研究所であった。
国が秘密裏に違法魔術実験を行っていた施設であったが、
それを魔物の発生初期段階から民間人収容可能に改造した物である。
結局は民間人の収容がかなり遅れた所為で地上に存在した都市の人口の
1万分の1程度しか助けられなかった訳だが…
今現在乗っている車両でシティに入るには大型転送装置を使う必要がある。
1個分隊(8~12人程度)なら、通常の転送装置で足りるのだが、
それ以上…小隊(30~60人)であったり、車両で移動する場合は、
大型転送装置を使わないといけない。
大型転送装置は固定されていて、移動させる事が不可能なので、
大型転送装置の出入り口付近は常に重武装した小隊が代わる代わる警備をしている。
廃都市の内部には複数の探知システムがあり、魔物の進入をいち早く察知できるようになっている。
その為この車両で廃都市内部に侵入しようとすれば、
こちらには認証用の携帯端末を所持している人が数人居たとしてもいらぬ誤解を与えてしまうだろう。
その誤解を発生させない為に小隊と連絡を取ろうと通信機をミラーズが弄っているが、
小隊からの応答が無く、廃都市の入り口で立ち往生しているのである。
ミラーズ 「あぁもうっ、周波数はこれであってる筈よ、なんで応答が無いのよ」
ミラーズが運搬用車両に取り付けられた通信機相手に文句を垂れている。
クルシス 「小隊に何かあったのか…?」
クルシスが泣き疲れて眠ってしまったスミレを後部座席に寝かせ、
通信機を弄っているミラーズの横にやってきた。
クルシス 「1班だけ偵察に行かせて見る?物資ならまだあるでしょ?」
ミラーズは助手席に座っているアリスを振り返って質問をする。
アリス 「はい、現在の消費量で行けば食料は半月、武装は1ヶ月はもちます」
淡々としたアリスの返答を聞いてミラーズが「どう?」と問う眼でクルシスの顔を見る。
クルシス 「構わないぞ班には誰を配属する?車両の運転は主に俺がやるから俺は除外だろ?」
ミラーズ 「えぇ、後非戦闘員であるアリスとスミレも除外、防衛の為に風鈴も除外ね」
クルシス 「名無しとスイレン、後は白影と燐で良いんじゃないか?」
ミラーズ 「ん~…そうね、そうしましょ、アリス、上に居る皆にその事を伝えて」
アリス 「了解しました」
ミラーズ 「後ついでに持たせる物資の指定もよろしく」
今度はアリスは返答はせずに眼を瞑った。
車両の上でアリスがスピーカーを使用して名無し達に今の事を伝えているらしい。
クルシス 「はぁ…神のご加護があらん事を…」
溜息をついてボソリとクルシスが呟いている…
ミラーズ 「神なんて者が居たとしても、やる事は人間を地球上から消し去る事ぐらいでしょ?
こうなった原因作ったのは人間な訳だしね」
アリス 「―以上が今後の予定で御座います。質問等はありますか?」
車両上部の櫓状になった所に居た名無し、スイレン、風鈴、燐、秋春、白影がその放送を聞いて
思い思いに所持品の確認をし始めた。
アリス 「無いようですね、では物資の補充後出立してください」
ブツンッという音がした後、スピーカーは停止した。
名無しとスイレンも持ち物を確認していく。
名無しはサバイバルショルダーバッグの中を調べて、特に問題がない事を確認した。
名無し 「俺は問題ない、今すぐでも行ける」
スイレン 「私も問題は無いわ」
名無しは自動式拳銃用の弾丸を数発と魔力を少し消費しただけで補充の必要はなく、
スイレンは戦闘の際に車内で探知魔法の為に魔法を少量使用しただけなので同じく補充は必要ない。
白影 「問題ない」
白影は魔力を多量に消費していた様に思えるが、魔力の最大量が多いのか大丈夫らしい。
燐 「えっとぉ~、単粒弾の特殊仕様の奴が切れちゃった~」
燐は戦闘の際に機関散弾銃の単粒弾を多量にばら撒いていたので
単粒弾の凛仕様(機関散弾銃用に金属製分離式弾帯で弾帯にされた物)が切れたらしいが…
白影 「廃都市内部は入り組んでいる、単粒弾はいらないだろう」
廃都市内部は崩れ落ちた建築物の所為で入り組んでいる。
単粒弾よりは、散弾の方が入り組んでいる場所で使う機会が多い。
そのため、今回は散弾で十分と言う意味だろう。