第三十二話 人工知能《アリス》
都市管理用マザーコンピューター"アリス"
見た目は桃色の長髪、すらりとした手足、バランスのとれたボディの、
擬似デバイスを基本的なボディとして使用している。
その擬似デバイスは現在、目の前の調整用の容器に入れられている。
その様子を詳しく見ようとすると、スイレンが後ろから眼を塞いでくるので
詳細は判らないが、一糸纏わぬ姿であるらしい。
擬似デバイス自体は相当細かい所まで作りこまれていて、
重量と質感以外は人間とそうたいして変わらない見た目をしている。
まぁ、簡単に言えば人間の女性が裸の状態で、
液体の詰まったガラスの筒状の容器の中に浮かんでいると言う状況だ。
かなり艶かしいが、相手は人間ではなく機械である。
そんなものを見ても欲情する訳が無いのだが、スイレンは後ろから眼を塞いできている。
と言うか眼を塞ぐ以前にこの部屋の情報は全て頭の中に保管されたので、
眼を瞑っていてもこの部屋を歩き回れるぐらいであるのだが――
そんな事を言うと色々と言われそうなので黙っている事にした。
背後から眼を塞がれているので辺りからの情報は基本的に音と空気の振動で感じ取っている状態だ。
気がつけば眼を瞑っているのに辺りの様子がうっすらとぼやけた感じで判る。
細かい材質はわからないし、光の濃淡も判らない。
例えて言うなら赤外線サーモグラフィーの様な感じである。
背後からスミレの嗚咽が聞こえてくるが、スイレンに背後から目を塞がれている今の自分に出来る事は
何もないので、この事に関してはミラーズに任せる。
涙をポロポロと流しているスミレの頭を胸にかき抱く様にして、
ミラーズが頭を撫でている。そんな様子を空気の動きで感じつつも、アリスに指示を出す。
名無し 「この都市に残された物資は使い物になるか?」
アリス 「大型銃器や兵器類は魔物襲撃の際に破壊されてしまいましたが、
小型銃器やステルス型の輸送用車両等はまだ使用可能です。
食料や衣料品等の物資は大多数が腐敗及びに変異物質が付着している物ばかりです」
淡々と説明を受ける。
燐 「だったら私達はその輸送用車両に使える銃器等で武装をして、それで都市に帰還、
それが最善の策だと思うのだけれど?どう思う?」
機関銃を撫でていた燐が立案をした。
風鈴 「私もそれでおっけーチュー、そっちの方が守り易いチュ」
暇そうにポーチの中を漁っていた風鈴がそれを承認。
秋春 「都市に通信するのが先じゃねーか?」
出来るだけアリスの方を見ないようにしながら、秋春が発言する。
クルシス 「俺は先に通信をしたほうが良いと思うが…後、転移装置使えば早いと思うが?」
秋春と同じ様に視線をそらしつつクルシスが発言した。
ミラーズ 「あのねここは非登録の都市なのよ?そこの通信装置が登録済みの都市と同じ波長領域を
使っている訳ないでしょ、合わせるのに時間かかるだろうし、
転移装置も同様の理由から、だから通信と転移装置は無理ね」
秋春とクルシスの意見を、スミレを優しく撫でながらミラーズが切り捨てた。
燐 「だったらアリス、武装を輸送車両に移動速度を低下させない程度に積み込んで、
応急で良いから武装車両にできるかしら?」
アリス 「所要時間20分ほどで完了致します。車両の用意はどちらにすればよろしいですか?」
燐 「どこの門が使えるかしら?」
アリス 「西側の住居区画の門が破損状態が一番少なく、車両の通行可能な門です。」
燐 「だったら、その使える門から出る為のナビゲート情報を車両に入力、それから
この中央の建物の入り口に車両を止めて頂戴」
アリス 「畏まりました、車両の武装化を含め、ここに到着するまでにかかる予想時間は
30分となっております、時間までは六階層に存在する仮眠室で休憩をしていてください。」
そう言うと燐とアリスが話を終える。すると、アリスは目を閉じ、動かなくなる。
サーバールームに存在する一部のサーバーの稼動音が大きく響き、虚空にモニターが映し出される。
モニターに表示されるのは、輸送用車両の図面と、その図面を元に武装化後の図面が表示されている。
ミラーズ 「皆、仮眠室で休憩しましょうか、スミレちゃんも調子が悪いみたいだし」
ミラーズの一言に皆が賛成して、最初に居心地が悪そうにしていた、
クルシスと秋春が仮眠室へと向かい、次に白影が燐と風鈴に付き添うようにして仮眠室へと向かい、
ミラーズがスミレに何か言葉をかけながら、手を貸してメインサーバールームから出て行った。
残されたのは名無しとスイレンと目を瞑って動かないカプセルに収まったアリスだけである。
スイレン 「私達も行こ」
そう言うと、スイレンは強引に名無しの腕を引っ張ってメインサーバールームを後にした。