第二十四話 盲目の少女
蝙蝠獣人にとっては、辺りが明るかろうが暗かろうが関係無い。
音波による地形情報及びに付近に居る生命体の把握は簡単にできる。
だからといえ、視力が無いのは少し不便である。
音波による地形情報の獲とくは、対外の場合、
目の前に何かあるか何も無いか、目の前の物質は何なのか、
音波の反射によって獲る情報は、曖昧すぎるのである。
しかし、それは普通の蝙蝠獣人の場合である。
元々生まれつきで視力を失っていた自分は、
音波による地形情報獲とくの技術が他の蝙蝠獣人に比べて異常に高く、
辺りの情報を的確に得る事が出来る程である。
普通の蝙蝠獣人なら、人間を音波のみで把握しようとすると、
人型の水を多量に含んだ物としか判らない。
しかし、自分の場合はもっと細かく、どんな体型で、大体の性別も何となく判る。
そんな感じで普通の蝙蝠獣人よりは優れているのであるが、
やはり音波で獲る情報には限界があるし、
その限界の所為で色々と大変なのである。
例えば――
ミラーズ 「ほら、あぁ~ん」
今現在の現在の地形を把握すると、
自分の前にプラスチック製の机があり、机を挟んだ反対側にミラーズと言う女性が座っている。
そして、机の上には食べ物が入った金属製の食器が置かれていて、
目の前のミラーズと言う女性がスプーンで料理をすくい、こちらに食べさせようとしているのである。
ミラーズ 「ほら、どうしたの?食べたくない?」
この女性は、別に嫌がらせをしている訳ではなく、悪気があるわけでもない。
唯、スミレ一人だと料理をまともに食べられないからである。
スミレ 「いえ、ありがとうございます」
とりあえず、口を開けて、その料理を食べさせてもらう。
病室に設けられた机と椅子を出してきて、
料理を食べさせてもらっている理由は、
先刻も述べたとおり、スミレ一人で料理を食べる事が出来なかったからである。
一人で食べようと思えば食べられなくも無いが、
一人で食べていた時は、とても危なっかしかったらしく、
偶然やってきたミラーズが食べさせてくれる事になったのである。
まぁ、視力が無い状態での食事と言うのは結構難しいという事を学習したのだが、
今後、食事の時は誰か人を呼んで食べさせてもらうようにと、
食器類を持って出て行くミラーズの一言を聞き流し、
ベッドに戻ろうとして――ガゴンッと音がして、足に痛みを感じたときには遅く、
机を巻き込んで盛大に転倒してしまっていた。
ミラーズ 「ちょっ大丈夫?」
音を聞きつけて直にミラーズが戻ってきたらしい。
スミレ 「大丈夫です」
膝が痛いが、気にする程でもないので、大丈夫と返答しつつも、
立ち上がろうとして…
ミラーズ 「怪我してるじゃない」
接近していたミラーズに抱きかかえられ…続に言うお姫様抱っこみたいな感じで…
驚いて、硬直していると、ベッドに下ろされ、右足を掴まれた。
ミラーズ 「消毒するから大人しくしてね。」
ミラーズが何かを取り出している音を聞きつつもやはり視力が無いと不便と言うことを噛み締め、
契約側探ししないといけないかな?と心の中で思った。
スミレ 「いっ・・・」
膝に消毒液をつけられたらしく、結構しみたので声を上げてしまった。
ミラーズ 「ごめん、痛かった?」
スミレ 「いえ、ちょっとしみただけです」
ミラーズ 「そう、じゃ絆創膏貼っておくわね」
ミラーズが絆創膏をスミレの膝に貼り付ける。
眼が見えないので多分だが、膝を覆う程の大きさの絆創膏を貼られたのだと思う。
ミラーズ 「うんうん、これで大丈夫ね、次からは気をつけてね」
スミレ 「はい」
ミラーズ 「じゃ、私は医務室に行ってくるわね」
そう言うとミラーズは応急処置に使った救急箱を何処かに収納してから、
倒れていた机と椅子をなおして出て行った。
先ほどの事から、視力が無いのは不味いと言うのは良くわかった。
出来るだけ早急に契約側を見繕わなくてはならない。
だが、契約側には圧倒的な悪条件がつくので、
自らなりたいと申し出るものは殆ど居ない。
強引に契約するという手もあるが、派手な行動をとるのは不味いだろう。
ここのギルドに話を通してみて、契約者を探してもらう~と言うのは、
多分無理だ、自分一人のために人一人を犠牲にするのは良くない。
と言うより、自分自身で他人を犠牲にしてまで視力を欲した訳ではないと否定しつつも、
視力があった方が良いというので契約をどうしようと考えていた事に、
自己嫌悪を抱いてしまう。
これでは祖父となんら変わりないではないか…
普段は顔の筋肉は口以外まったく動かさずに会話し、相手に心内を見せない様にしている。
なので、心の中の醜い部分は誰にも見られていない自信はある。
伊達に陰謀に塗れた祖父の様子を見ていた訳ではない…
笑顔の裏で常に相手を利用し、蹴落し、己がのし上る事を考えている人物ばかりだったのだ…
俗に言う“貴族の娘”と言う私の看板を欲しがる者は沢山居た…
祖父はそんな私を政略結婚とやらの道具にしようとしたのだ…
自分が得をする為に他人を利用する等はしたくない…
だけれども、誰でも良いから契約を結んでくれる人物が居ないかと、
卑しい自分が心の中で囁きかけてくる。
その囁きを無視して、とある詩を口ずさむ。
もしもキミに視力があったら この景色を見せてあげられるのに
もしもキミに心があったら この好きで癒してあげられるのに
ボクの命なんていらない キミが唯 笑顔で居てくれれば
ボクの命なんかよりも キミの笑顔が大切だから……
契約を行う前日。
契約側に選ばれてしまった少年が閉じ込められていた部屋に、
両親に内緒で尋ねていった。
その時にスミレは契約側の少年に問うた。
「貴方は、死ぬのが怖く無いの?今なら脱走の手助けをしてあげる」そんな風に、
今と同じで無機質な声で問うた。
少年は契約者である私を見ると、こう答えた。
「僕は君の笑顔の為ならこの命を捨ててあげられるよ」と…
そして、先程の詩を歌ってくれた。
少年は世話人として私の付人をしていた。
その頃はまだ、祖父の薄汚れた陰謀を知らず、無邪気に笑っていたのだ。
その時の契約側は私の両親である。
両親が死んで、スミレが祖父に引き取られるまでは、
無邪気に笑って過ごしていた…両親が死んだ。目の前が真っ暗になった。
契約の効力が切れて、視力を失った。そして、祖父に引き取られた。
祖父は視力がない私を見て、即座に契約側を探した…
白羽の矢が立ったのは、世話人として私と一緒に居た少年…シーライだった。
私は反対をした、だけれども祖父は私の意見など聞いていなかった。
祖父はシーライを部屋に閉じ込めて強制的に契約を結ばせようとした。
だから、私はシーライを逃がす為にシーライの閉じ込められた部屋に向かった…
答えは 否定 だったのだけれど…