第二十一話 忠実《Faithful》
スミレに一通りの都市の規律と概要を説明した後に、スミレが「眠い」と一言発した為、
スミレの病室を後にした。
その後は、居住区画にある与えられたクルシスとの二人部屋に戻って来たのだが、
クルシスが真っ先にベッドにダイブしていびきを掻き始めていた。
名無しはとりあえずシャワーを浴びて、
用意されていた簡素なパジャマを着て、机の上に銃を並べていた。
目の前の机の上に並べられたFog-10と老人に渡された長銃を眺めている。
眺めていると、少しだけ違和感を感じた。
Fog-10のトリガーガードが長銃の方と比べると分厚く、何かを固定する為の金具が取り付けられている。
バレルの下の部分にも同じ様な金具が取り付けられている。
Fog-10を手にとって、自分のベッドに置かれている枕に向かって構えてみるが、
その金具にどんなパーツを取り付けるのかは想像できない…
クルシス 「何してんだ?」
名無し 「うぉっ!?」
先ほどまで寝息を立てていたはずのクルシスがいつの間にか名無しの背後に接近していた・・・
クルシス 「ん?そういえばその銃・・・銃剣装着可能じゃないか?」
名無し 「銃剣?」
銃剣とは、銃口下部に取り付けるナイフの事を指す。
基本的に白兵戦の時に使われる刺突用の刃物である。 今回の場合の銃剣は、回転式拳銃の銃剣は、
銃の下部、トリガーガードからバレルにかけてに対して短剣の機能を持たせるための部品の事である。
一般的な銃剣は銃に取り付ける剣だが、クルシスが言う銃剣は銃+剣の様な感じのものである。
元から、剣と言う枠組みに、銃と言う機構を取り込んだものではなく、
銃と言う枠組みに、剣の性能を取り入れた感じの物である。
クルシス 「んー・・・ちょっと待ってろ」
そう言うとクルシスは机の引き出しを開けて、その中を入念に調べ始めた。
そこで先程の自分の考えが少しばかり固定概念に囚われていた事を自覚した。
Fog-10は回転式拳銃で、射撃が基本的な攻撃となる。
その為、銃と言う機構の特性を注目して、
金具に固定するのは命中精度を上げたりするパーツをつけるのだと思い込んでいた…
Fog-10を机の上に置いて、クルシスの方を見ると、丁度棚から何かを取り出している所であった。
クルシス 「あぁ、あったぞ」
クルシスが取り出したのは、名無しの持っているFog-10と同じ会社が作成した
同形式の回転式拳銃である。 Fog-10に比べて軽量で、扱いやすい型で、
こちらは中折式で通常の弾丸が使用可能なタイプである。
しかし、今クルシスが取り出した回転式拳銃はFog-10と同等の重量がある。
理由はそのリボルバーの下部にはバレルからトリガーガードを覆う様に
ナイフが取り付けられていた・・・
クルシス 「こいつはFaithful-02だ、その回転式拳銃と形状は同じだが、
こちらは主に強化プラスチックと軽量合金で出来ているから
後付の銃剣を取り付けるとそのFog-10と同じぐらいの重量になるんだ」
名無し 「えと・・・?」
クルシス 「刃の部分自体は軽量合金を使っているから、
刃が欠ける事は無い、それに切れ味も相当あるぞ?」
名無し 「・・・・・・・?」
クルシスの言いたい事が良くわからないので、返答に困り、言葉を詰まらせる。
クルシス 「ほら、このFaithful-02やるよ、こいつは通常弾丸と魔弾、両方とも
使えるから護身用にもなるし、銃剣が着いてるから接近戦にも使えるぞ」
そう言うとクルシスは銃剣付きのFaithful-02を銃剣を装着したまま収納可能な
レッグホルスターに突っ込んで 投げて渡したので、とりあえずそれを受け止める。
名無し 「えと・・・ありがとう」
とりあえずお礼を言うとクルシスがこちらを見て、何かをボソボソと呟きだす。
名無し 「どうし・・・」
何を呟いているのかを聞こうと思い、口を開くも、急激な眠気に苛まれ、バランスを崩し――
そこで名無しは完全な眠りに落ちた・・・
手からはFaithul-02が入ったレッグホルスターが滑り落ちた…
倒れきる直前にクルシスが名無しを抱きとめた・・・
クルシス 「お休み・・・ふふっ・・・」
抱きとめた名無しをクルシスが、空いているベッドに名無しを寝かせる。
名無しに布団をしっかりとかけると、クルシスはもう一つのベッドに視線を移す。
"そこには、アホ面で寝息を立てるクルシスが寝ていた。"
クルシス(?) 「問題点は多数か・・・まぁ、大丈夫かな?」
クルシス(?)はその背格好に見合わない無邪気な笑顔を見せて、
床に落ちていたホルスターに突っ込んであるFaithful-02を拾って、
ホルスターからFaithful-02を引き抜いて名無しに銃口を向ける。
??? 「あはは、簡単な睡眠の魔法にかかっちゃってさばかみたいだよねー」
銃口を名無しに向けた人物はいつの間にかクルシスではなく旧魔王城で出会った女の子になっていた。
女の子 「くすくす・・・まぁ、お母様には怒られちゃうかなぁ・・・じゃあね、お兄ちゃん
また運が良ければ会おうね?」
Faithful-02をホルスターに素早く収納し、それを名無しの銃が並べてある
机に投げる…Faithful-02が放物線を描き、机の上に落ちる頃には
女の子の姿は掻き消えていた。