第十六話 本気、合流
骸に群がる蜘蛛を一瞬だけ呆然と眺めたが、すぐにリボルバーを握り締め、
骸に有りつけず、こちらを狙おうとしていた蜘蛛を撃つ・・・
ブシュッと蜘蛛の頭に穴が空き、一瞬だけ内側からボグッと膨張し、
次の瞬間には中身を撒き散らして破裂する。
リボルバーでは連射性能が無い為このままいくと手数が足りない。
敵を捌き切れない、だからといって抵抗をやめれば一瞬で刻まれてしまうだろう。
グチャッバギッと言う肉と骨を引き裂く音を出来る限り無視して、少女を庇う様に立ち回る。
あれから何時間経っただろうか?
もう2時間近く戦い続けている気がする、実際はほんの数分の出来事だと思う。
辺りは蜘蛛の肉片のこびりつく甲殻と蜘蛛の手足、その他色々な物が散らばっている。
悪臭が酷い、これが切裂蜘蛛ではなく
猛毒蜘蛛だったら、切り刻んだ蜘蛛の死骸から放たれる、
猛毒を含んだ体液にも注意しないといけないが、今は関係無い。
飛び散った肉片や蜘蛛の体液で足元がドロドロになって体勢が
いつ体勢を崩してもおかしくない状態である。
蜘蛛は一気に数百から数千の子を産む。
目算で大体200匹は息の根を止めたが、辺りを埋め尽くすような数の蜘蛛は一向に減らない、
しかし、名無しの体力と魔力は見るからに減っていっている。
このままでは体力が尽きて行動不能になるか、魔力が尽きて攻撃不能になるかのどちらかである。
と、ここでスイレンの声が聞こえた、幻聴かとも思った。
スイレン 「千本短剣」
ヒュンッヒュンッヒュンッ・・・ブスッブスッブスッと何かが飛翔する音と突き刺さる音が、
蜘蛛の波の向こう側から聞こえ始める。そこにクルシスの声も聞こえた。
クルシス 「切裂風」
ズババババァーと名無しの丁度背を向けている方向に居た蜘蛛が、
魔法によって引き起こされたカマイタチで切り刻まれる。
クルシスは自分に切裂風を纏わせて突撃している。
蜘蛛の波が途切れた事によって向こう側が確認できた。
スイレンは長杖を地面に突き立てて魔方陣に囲まれて何かを呟いている。
周りには数百の在り来たりな短剣が高速で回転しながら漂っている。
時々、そのナイフが近付いてきた蜘蛛に高速で飛び、突き刺さる。
ミラーズ 「あぁもう、勝手に単独突入は禁止っ!って、その子怪我してるじゃない」
気が付けばミラーズが名無しの背後に立っていた。
少し名無しに注意した後にミラーズはすぐに倒れている少女の治癒にあたる。
クルシス 「あらかた片付けたぞー・・・疲れるなぁ・・・」
片手で大剣を持ち、周辺を警戒しながらクルシスが近付いてくる。
スイレン 「はぅ・・・」
スイレンが周りに短剣を浮遊させたまま近付いてきた。
ミラーズ 「治癒は完了・・・じきに目を覚ますわ」
ミラーズが少女の治癒を終えて立ち上がる。
クルシス 「さてと・・・面倒事に巻き込まれた訳だが・・・
報告にあった巨大な魔物ってのはあのスラッシュスパイダーの母体
じゃないか?一応見つけたら報告するってなっちゃいるが・・・」
クルシスが遠くの方にあるスラッシュスパイダーの母体の亡骸を見ながら言う。
ミラーズ 「倒しちゃってあるわね・・・報酬出るのかしら?」
ミラーズもその亡骸を眺めて溜息をついた。
ミラーズ 「とりあえずもう戻りましょう。スイレンは大丈夫?」
スイレン 「ふぁい・・・」
とてもふらふらしていて大丈夫そうには見えない・・・と浮遊している短剣が、
いきなり地面に落ちる・・・が、その短剣は地面に着く前に消滅した。
クルシス 「とりあえず名無し、良くやった。」
いきなり頭を撫でられる・・
名無し 「ぇ?」
注意を受ける事ならした覚えがあるが、褒められる様な覚えは無い・・・
ミラーズ 「まぁ、貴方がいち早くここに辿り着いたから少女は助けられた訳だけどね・・・
少年の方は・・・まぁ・・・」
最後の方の言葉を濁した後に、少女を見る。
ミラーズ 「とりあえずこの子は保護しましょ、長銃を回収しなさいよ」
と、ここでミラーズに言われるまで少女が握り締めている長銃が自分の物だと
言うのをすっかり忘れていた・・・
ミラーズ 「さて・・・気を取り直して戻りましょう」
ちなみに、名無しが廃墟から突っ走ったあの森には転移装置が設置されていて、
転移装置を使えばすぐに街と行き来できたのである。