第十二話 辛勝
奇襲を全て回避され、銃口を向けられる。
こちらが何らかの行動を起こす前に確実にその銃が火を噴いて
自分の体を粉々に消し飛ばすのが情報として具体的数値と共に頭の中に表示された。
女の子 「お兄ちゃん程の性能を持ってればわかるよね?勝てないのは」
無邪気な笑顔と人間なんぞ一瞬で肉塊に変えてしまう凶悪な銃口を向けられ
硬直してしまう・・・クルシスもミラーズもスイレンも誰も援護に入れない・・・
頭の中にはありとあらゆるパターンの抵抗方法が示され・・・
その内の最も被害の少ない抵抗方法を体が勝手にとる・・・
瞬間で背負っていた長銃を取り、自分の足元に向ける、その行動を見逃さずに女の子は引き金を引く。
ギュイイイインッ・・・まるでチェーンソーの様な銃声・・・その銃声に混じって甲高い銃声・・・
長銃から射出された弾丸は空気砲のレベル4、人間の体を簡単に吹き飛ばす程の
魔法的風を引き起こす弾丸である。
それの効果が瞬間で発動し、自分の体が風によって吹き飛ばされた・・・
一瞬前まで名無しが立っていた場所に数十発の弾丸がめり込む。
背後の壁に上手く両足で着地して、衝撃を完璧に消して、地面に音も無く着地する。
長銃に装填された弾丸を変化させる。
空気砲のLv4から吸魔弾に変化、
女の子が銃口を――立ち上がろうとしていたクルシスに向けた――
この動きは完璧に計算できていた、吸魔弾をクルシスの前の地面に
向かって撃ち出す、魔法を無力化する防壁がクルシスを囲むように作り出される。
そこに女の子の放った弾丸が何発も当たるが、
吸魔力場によって魔力を吸収され、弾丸は虚空へと消えていく、
女の子は舌打ちをすると、今度はミラーズとスイレンの方向に銃口を向ける――
その動きも計算の中に完璧に入っている、リボルバーを引き抜いて、
長銃を片手でミラーズとスイレンの居る方向に向け、
リボルバーを、女の子の持つ機関銃へ向け、両方の引き金を同時に引く。
女の子 「っ!?」
長銃に装填されていたのは勿論、吸魔弾であり、魔弾を消滅させる。
リボルバーに装填されていたのは電撃弾のLv1、相手を痺れさせる程度の
効力しか持たない弾丸、その弾丸は見事に機関銃にヒット。
女の子自体を狙っていた場合、確実に回避されていたのだろう。
そこで、明らかに鋼鉄製の機関銃を狙って、感電させたのである。
女の子がビクンッと一瞬だけ体が反応した後に、その場にドサリッと倒れこむ、
その拍子に機関銃がガラランッと音を立てて転がった。
女の子 「あはは・・・今回のお兄ちゃんには負けちゃったか・・・まぁ、良いけどね・・・
忘れたら駄目だよ“私達は貴方を消す”それがお母様の望みであるならね」
女の子がそう言うと、辺りの風向きが変わる。
女の子 「最後に一言。過去を変えると未来が変わる。未来を変えても過去は変わらないけどね」
最後に目を開けていられないほどの強風が吹き荒れる――
目を開けた時にはその女の子と機関銃はきえていた。
クルシス 「うぅ・・・なんだったんだ・・・」
クルシスが大剣を杖のように使ってこちらに歩いてくる。
スイレン 「いたたた・・・」
ミラーズ 「あの子は新種の魔物かしら?とりあえずギルドに報告しておかなきゃね」
スイレンとミラーズも少し遅れてやってくる。
クルシス 「人間の言葉を話せる、理解できるという辺りから最上位の魔物ではないか?
最上位ともなれば魔法や魔銃を使えてもなんら不思議は無い、
まぁ、こんな所で話し合うよりは都市に戻ろうぜ。」
ミラーズ 「賛成ね、名無しにも話を聞きたいし」
ミラーズとクルシス、スイレンの三名が名無しを見る。
名無し 「えっと?」
ミラーズ 「あれよ、あの戦闘慣れした戦い方、というか完璧に先読みしてたとしか思えない
戦い方よ、アレはどう考えても一般市民じゃないって事はわかるわ、
その上、あの女の子が言うには“人間を愛した罪”とやらに関してもね
色々と判らない事まみれなのよ、そこら辺に関して何か思い出した事、
どんな些細な事でも良いから都市についたら話なさい。」
名無し 「はい」
と、その時にドォーンッと何かが崩れる音。
ミラーズ 「ぇ?」
スイレン 「あそこ、城の裏手」
スイレンが指差す先には城の裏手の崖の下に広がる広大な森があった。
そこの一角に砂煙が立ち上がっている所がある。