空っぽ
短編です
目の前の箱の中身を取り出した。中からは彼女との思い出の品がゴロゴロ出てくる。写真やら、初めてのプレゼントやら、渡そうと思ってた指輪まで出てきた。
付き合ってすぐの頃のプレゼントなんて、摘んできた花とか、ご当地キーホルダーとか、そんなもんだったなぁ。だんだん見栄が出てきて、ブランドものとかに変わって行ったんだっけ。そんな高給取りでもなかった癖に、バカだなぁ。
後ろを振り向くと、【残留物注意】と書かれた看板の下に、沢山の空き箱が転がっていた。俺は彼女との思い出が詰まっていた箱をその看板の近くに放った。
中のガラクタも一緒にしてしまったけど、まぁ良いだろう。
次の箱は、仕事に関する箱だった。新入社員の頃のミスとか、初めての成果とか、そんな情報が詰まったファイルやら、仕事中によく噛んでいたガムとか、よれたスーツとか、そんなものが沢山出てきた。
仕事を辞めてしまった俺にとっては、もうガラクタ同然のものばかり。あの頃は、「この会社を変えてやる」って息巻いていたなぁ。腐りきった上層部の体制を一新するために、役職を貰えるようにがむしゃらに頑張ってたっけ。社長に取り入るために、毎晩飲み会に付き合って、肝臓がイカレちゃって。結局退院したら、俺の役職の話は無くなってて。
直属の上司に噛みついても埒が明かないから、社長に直談判しようとしたら、左遷の話が来たんだった。こんなことなら腐りきった会社に早く見切りを付ければよかった。
結局俺はこのあと“自主退社”の体で退職したんだ。
思い出したら腹立ってきたな。
箱の中身ごと全部看板の下に投げ捨てた。少しだけ心が軽くなった気はする。
他の箱も開けてみてみるけど、大した内容が入ってない。ほとんど空箱同然だった。
俺の人生って、こんな空っぽだったんだなぁ。
中身の少ない箱をひっくり返しても、子供のころよく遊んだおもちゃとか、そんな今の俺にはガラクタのような物ばかり。
すべての箱を看板の下に放ると、最後に小さな箱が出てきた。
“友達”と書かれた箱を開けると、中には何も入っていなかった。俺、友達いなかったんだっけ・・・。
友達も、恋人も、仕事も、金も・・・何にもない。俺って生きてる意味あるんだろうか。
一応小さな箱もひっくり返してみたけど、何も、塵ひとつ落ちてこない。寂しい奴。
箱をそのまま置いてぼんやり見つめていると、どこからともなく猫がやってきた。
見覚えのある柄の猫は、俺の周りをグルグルと回って、その小さな箱を少しだけ嗅いで、すっぽりと収まった。
ジトっとした目で俺を見てくる猫は、そのままスッと目を閉じて箱の中で寝てしまった。
目を覚ますと、見覚えのある柄の猫が、俺の顔を踏みつけた。
「・・・・何すんだよ」
俺の文句を意にも介さず、「朝ごはんをよこさないお前が悪い」と言いたげな目を向けてきた。
時計を見るとまだ明け方の4時。まだまだ寝ていられる時間なんだけどなぁと思いつつ、猫の餌を皿に入れてやると、ガツガツと食べ進めていく。昼間ずっと寝ているくせに、朝から良く食べる。
早朝の薄明かりがカーテンの隙間から差し込んできた。
——俺も朝ごはん食べよっかな——
ゲッ・・・・冷蔵庫、空っぽじゃん。




