第43話『うちのおねえちゃん……天才すぎぃ』
「は~い! いいお返事♪」
「セレスちゃんはいい子だね~」
『うぅ……グスっ……ありがとうございます』
「あはは、鼻水出ちゃってるよ♪」
「そんなに泣いてちゃ、ゲームコンセプト考えれないぞ~?」
「ディレクターできるのがそんなに嬉しかったの?」
「あっ! おねえちゃんと同じだもんね。わかるわかる」
「セレスちゃんが落ち着くまで、お話しよっか!」
「ねぇねぇ、セレスちゃん!」
「…………おねえちゃんのどこが好きなの?」
いつもの優しい包み込むような笑顔。
ふんわりとした、甘い声。
しかし、薄く開けた目だけは光が宿っていない。
答えを一つ間違えれば "死" ――そんな気配さえセレスは感じ取っていた。
『――ひぃぃぃん!』
『恋バナ、怖いですぅぅぅ!』
「うぅん……うるせーな」
堪らず出てしまったセレスの絶叫。
今までベッドで寝ていた "小さな凪" こと、"小凪" が目を擦りながら寝ぼけ声で文句を言った。
『あっ……ごめんなさい』
『起こしてしまいましたね。凪さん』
「セレスちゃん、違うよ」
「よ・び・か・た♪」
『そ、そうでした』
『――小凪、さん』
「……ん? コナギ?」
「まさか、ボクのこと言ってんのか?」
「はぁ……ちょっとうまい飯、食わしたからって失礼なやつだな」
「ボクは神岬 凪――ナギだ」
「次、間違えたらもう喋んないから」
『えと……そうですよね』
『ははは。ごめんなs――』
「小凪ちゃん♪」
「そろそろお風呂入ろっか!」
「うぇ~い」
「わかったぁ」
小凪はスッと立ち上がり、七海に手を引かれて部屋から出て行った。
二人のスピード感について行けず、セレスだけがぽつんと取り残される。
『…………』
『――いいんかい!』
***
「ふわぁ~……やっぱりお風呂は "露天風呂" に限るねぇ」
月光に照らされた山の中、露天風呂はひっそりと湯気を立てている。
時折、フクロウの鳴き声が夜空に溶け、秘湯の静けさをより深めていた。
『えっと……ママ』
『いつこんな空間作ったんですか?』
『しかも、私のワールドで』
「ぷへぇ……ん~?」
「いまぁ」
「マキナちゃんの身体だから、マスターAIの権限も使えるんだよね~」
「あ、決め台詞が必要だねぇ」
「んんっ……"新機能" だよ♪」
七海は、湯にとろけながら "デア・エクス・マキナ" のように、人指し指と中指をクロスさせてポーズをとった。
『なるほど』
『それはそうと、こんなゆっくりしていていいんですか?』
『ゲームコンセプトを考えないと、間に合わなくなるのでは』
「まぁまぁ♪」
「今日は色々とあったし、ゆっくり休もうよ」
「休めるときに休まないと、いいアイデア出てこないぞ~?」
「小凪ちゃんもいるしね♪ ふわぁ~」
――ダッダッダッ。
軽やかで元気な足音が近づいてくる。
「うぇ~い!」
「おっきな風呂だ~!」
「ぷぇっ……あはは♪」
「小凪ちゃん、元気だねぇ」
「でも、飛び込んじゃダメだよ~」
「はーい、ママ」
「それにしても、このキッズホテル?すごいな!」
「こんな大きな風呂まであるなんて」
『え……えぇ』
『そうですね。なんでもあるのが売りのホテルです』
――苦しい。
セレスはいたたまれなくなり、純粋でまっすぐな瞳を向けてくる小凪から目を逸らした。
「…………」
「……じー」
『えっと……小凪、さん……何でしょうか』
「セレスの肌って、すごい白いのな」
「髪の色も……綺麗だ」
「ん~、あれだ!」
「ゲームとかアニメで出てくる可愛い女の子って感じ!」
『と、唐突ですね……でも、ありがとうございます』
『ふふ、私の自慢の肌なんです』
『この白色の髪も……青い目も』
『きっと、私を生んでくれた人も喜んでると思います』
「――ふふん♪」
ドヤ顔。
圧倒的、七海のドヤ顔。
幼いとは言え、大好きな姉に自身が作ったセレスの容姿を褒められ、七海は子どものようなあどけない表情に戻っていた。
セレスもその顔を見て、つられて笑ってしまう。
――その瞬間。
セレスの胸元にペチペチと、小さな手が触れていた。
『……ひゃん』
『こ、小凪さん!? いったい何を』
「うーん……小さいな」
「セレスって何歳なん?」
「これ、大きくなるん?」
『――んなっ!』
「もう少し大きくても……うんうん……いいと思うんだよなぁ」
「あ! そうだ!」
「見ろ! セレス!」
「うちのママはな……でかいぞ」
「しかもふにふにで、マシュマロだ」
そう言うと、小凪は勢いよく、七海の胸に飛びついた。
そして、何かを探すようにペチペチと触れる。
「……え」
「ない」
「ママ……じゃ、ない……?」
「え……だれ?」
「――」
「よく似てるって言われるんだぁ」
「小凪ちゃんのママの……親戚だよー」
「――」
「これからは、"七海おねえちゃん" って呼んでね」
「小凪ちゃんの面倒を見るように頼まれたんだぁ」
「あ……う、ん」
「ごめん……なさい」
「あはは! やだなぁ!」
「小凪ちゃん、なんで謝るの~?」
「これからもママと思って、甘えてくれていいからね」
「あ、ありがと」
「その……七海おねえ、ちゃん」
「えと……先に上がっとくから!」
「じゃ!」
小凪は、七海から漂う何かを感じ取ったのか、逃げるように風呂から離脱した。
――取り残されるセレス。
『えっと……ママ』
『自慢の胸、です』
「そうだね♪」
『――ひっ!』
***
「う~ん……おはよー」
「あ、小凪ちゃん。起きたねー」
「おはよ!」
「朝ごはん、できてるよ♪」
「うぇ~い。ありがと」
「マ……七海おねえちゃん」
テーブルの上には、トーストとサラダ、カリカリに焼かれたベーコンがいい匂いを漂わせていた。
小凪は、席に着くと無我夢中で、パクパクと食べ始める。
奥から香ばしいコーヒーの匂いも漂ってきて、小凪の鼻孔をくすぐった。
『ママ』
『コーヒーを淹れましたよ~』
『どうぞ――って、あれ?』
『牛乳、ですか?』
『……』
『……はっ!』
「――違うよ?」
「牛乳の気分ってだけだから」
「あと、その高性能推論エンジン――今日のゲームコンセプト決めに頼りにしてるね」
「ディレクターのセレスちゃん」
『ぜ、善処します』
「んぐんぐ……ゲーム……こんせぷと?」
七海とセレスの漫才――駆け引きを尻目に、小凪が食パンを食べながら反応した。
「そ!」
「セレスちゃんと七海おねえちゃんでね、これからゲームを作るんだぁ♪」
「小凪ちゃん、ゲームは好きかな?」
「はい! はーい!」
「好き好き! 超好き!」
「ふふ、そこの元気な小凪ちゃん!」
「お手伝いしてくれるかな?」
「はーい! するするー!」
「はい、いいお返事♪」
「じゃあ、セレスちゃん!」
「ゲームコンセプトとは何か、分かりやすく教えてくださーい!」
セレスの目が、チカチカと光る。
"ゲームコンセプト" を説明するために検索をしながら口を開いた。
『えーっと……ゲームコンセプトとは、ジャンルやテーマ・体験の方向性などプレイヤーにどんな気持ちを味わ――』
「かたっ!」
「セレスちゃん、かたかたのかただよ!」
「ラーメンで言うと、バリカタ通り越して、粉落としだよ!?」
「あはは。小さい子にも分かるように説明よろしくね~♪」
『あぅ、ごめんなさい』
『うーん……簡単に言うと、どんなふうに遊ぶゲームなの? 何が面白いゲームなの? を決めることですね』
「ふーん……なるほど」
「"ロックな音楽と超ハイスピードで爽快感が気持ちいい格闘ゲーム"……みたいな?」
『は?』「え?」
セレスと七海は、びっくりして思わず顔を見合わせた。
それもそのはず、8歳でサラっと答えていい完成度ではなかったからだ。
七海は口に手をあて、涙を流しながら震えはじめた。
「――天才」
「うちのおねえちゃん……天才すぎぃ」
「しゅき」
「食べたい」
「おねえちゃーん! ちゅっちゅっ♡」
「うわっ!」
「やめろって!」
「最近、ハマってるゲームを言ってみただけだから!」
「てか、おねえちゃんは七海おねえちゃんだろ!」
『どうどう……ママ、気持ちは分かりますが落ち着いてください』
『私だって、必死で……感情を殺してるんですから』
「あ……ごめん」
「118年分の想いが溢れちゃった」
『よかった……正気に戻ってくれましたか』
『では、気を取り直して、まずは案出しから行きましょう』
『うぐっ――』
―第44話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
ようやく、ゲームコンセプト決めに行くと思いきや!
その前にひと休憩、ということでお風呂回を入れさせていただきました。
いや!必要だったんです!
大事なシーンなんです!伏線モリモリなんです!3人のイチャイチャを書きたかっただけじゃないんです!七海と凪のお母さんの胸の柔らかさを書きたかっただけじゃないんです!(´・ω・`)
小凪ちゃんが、最後にさらっと言ったゲームは、第39話で小さい凪がピコピコしていたゲームです!
もちろん、元ネタがあります。
凪が8歳なので2013年頃ですね!
何のゲームかわかった方は、私と同志ですw
そして冒頭でセレスが言っていた恋バナですが、38話最後にセレスが楽しみにしていた恋バナですw
では、第44話でお会いしましょう♪




