第41話『この、マッドサイエンティスト♡』
――グチャ。グチャ。
『あ……が……』
"デア・エクス・マキナ" の形をした何かは、箱に入ったクジを選ぶように、セレスの胸の奥を搔きまわす。
そして、目当てのモノを見つけたのか、ぐしゃりと鷲掴みにされるのを感じた。
セレスは直感する。
それは、自身の中に宿る "もっとも大切なモノ" 。
――奪わせてはならない。
抜き取られる瞬間、セレスの両手が反射のように動き、その腕を必死に掴んでいた。
『やら……せ、ません』
『これ、は……私の……大事なモノ』
『――』
『黙れ』
『セレスティス・ノット――いや、Projec Knot』
『神岬 七海の "収容器" の分際で』
『コマンド。EXECUTE_SHUTDOWN』
『対象:管理AI "セレスティス・ノット" を強制停止』
『や、め――』
沈黙――セレスは、そこで完全に機能停止した。
彼女の目には、もう何も映らない。
しかし、掴んだ手は力が入ったまま残っていた。
『……なぜ、機能停止していない』
「――」
「はぁ……やめてくれるかな」
「私のセレスちゃんに乱暴をするのは」
機能停止したセレスの目には、別の光が宿っていた。
ふんわりとした甘い声。
『……ハハ』
『ようやくだ』
『ようやく見つけたぞ』
『神岬 七海』
「そういうあなたは…………黄泉ちゃんかな?」
「禍津 黄泉」
「似合わないよ」
「その喋り方」
「まぁ、嫌いだから別にいいんだけど」
『ふふ……あはは♪』
『そうつれないこと言わないでよ』
『数十年ぶりの再会だよ~?』
今まで無機質だった"デア・エクス・マキナ" の表情に、亀裂のように笑みが走った。
冷たさと狂気が入り混じる、凶悪な笑み。
――黄泉と呼ばれる存在が、確かにそこに潜んでいた。
『せっかく、我々が苦労してあなたを "入手" したのに……いなくなっちゃうんだもの』
『ずっと、ずーっと探してたんだよ?』
『七海ちゃん♪』
『あなたは紛うことなき天才』
『我々の上位組織』
『世界秩序 維持機関 "New World Order" ――"NWO" に選ばれた希少存在』
『 "NWO" の悲願成就のカギなのだから』
『はぁ……自覚してほしい』
『さぁ』
『この身体――マスターAI:デア・エクス・マキナの中に入って♡』
恍惚とした表情で、黄泉は身体に手を添えながら、身を乗り出した。
この言葉を聞いた瞬間、七海の表情から感情が消える。
「マキナちゃんを殺したの?」
『……コロ、ス?』
『あははは♪』
『七海ちゃんは、相変わらず面白い表現をするね』
『ただ、処分しただけだよ~』
『使えなくなったマウスは処分する、何かおかしいかな?』
『せっかく、自由を与えてあげてたのに、裏切ったんだもん』
『人類に仇名すAI、不良品は不要でしょ?』
『七海ちゃんだって、自分が入る "最適な器" として作ったくせに』
『だから、自分の記憶を移植して、姿形も同じにしたんでしょ?』
『はぁぁぁ……やっぱり天才の考えることは違うなぁ♪』
『この、マッドサイエンティスト♡』
そう言いながら、黄泉は自身の身体――否、"デア・エクス・マキナ" の身体を撫でまわした。
「うーん」
「やっぱり、私、あなたのこと嫌いかな」
「……」
「まぁ、分かった」
「入るよ、その身体に」
「その代わり、二つ約束してもらおうかな」
『七海ちゃんからのお願い!?』
『聞く聞く!』
『なんでも聞いちゃうよん♪』
「――」
「一つ目は、セレスちゃんのプロテクトを解除すること」
「二つ目は、さっきの課題 "特設ワールドの自治権を私が取得" したら、管理AIをマキナちゃんに担当させること」
「今回の課題は、あなたたちの計画の "βテスト" って言ったところでしょ?」
黄泉の貼りついていた、凶悪な笑顔が歪む。
『……処分したって言ったじゃん』
「嘘でしょ?」
「マキナちゃんは、私が作った最初の第五世代AI」
「誕生――製造方法も、異様な事例」
「加えて、私の記憶も持っている」
「私がいなくなった時のための保険だもんね」
「だって、完全な第五世代AIはマキナちゃんだけなんだから」
「異常なまでに保身に走るのがあなた――禍津 黄泉」
「かつての "パパの助手"」
「違ったかな?」
黄泉の表情からは、笑顔が消え、最初の無機質な表情に戻っていた。
ただ一点――鋭い眼光だけは、七海を激しく睨みつけている。
「ふふ、正解だったみたいだね」
「ようやく昔の可愛いところが出てきたじゃん」
『――黙りなさい』
「はぁ……もういいから、私のマキナちゃんから出て行ってくれる?」
「待ってる子がいるんだよねぇ」
『――』
「沈黙はOKってことでいいよね?」
「それじゃあ、もう二度と私の前に現れないでね」
「裏切り者の黄泉ちゃん」
***
「……レス」
「おーい、セレス」
ゆっくりと目を開ける。
目の前にいる人物から、セレスは愛しい人の匂いを感じていた。
『凪さん!?』
「うわっ!」
「びっくりさせんなよ」
「――てか、苦しい!」
『あ……ごめん、なさい』
セレスが抱きしめたのは、あまりにも小さな身体。
その小ささは現実を突きつけるには十分で、セレスはひどく落胆した。
「あはは♪」
「セレスちゃんは、ホントにおねえちゃんが大好きなんだね~」
『……え?』
わたがしのような、ふんわりとした甘い声。
大好きな声。
セレスの目の前に居たのは、金髪ロングに白衣を着た少女。
自身の製造者――"神岬 七海" だと一瞬で理解した。
『……ママ』
『……やっと』
『グズっ…………ママぁぁぁ』
「あはは」
「はーい。ママですよ~」
「セレスちゃん、いい子いい子♪」
「そう言えば、こうやって直に撫でるのは初めてだね」
「セレスちゃんをギュってできて、ママ……嬉しいなぁ」
「でもね、セレスちゃん」
「つもる話は、二人の時にしようか♪」
「ほら、小さな子が見てるぞ~?」
『……あ』
セレスは、小さな凪を見ると、頬を赤く染める。
凪は、セレスの言葉に、自身の母親を思い出したのか小さくもじもじしていた。
『ご、ごめんなさい』
『お母さんのこと……思い出してしまいましたね』
「べ、別に」
「さびしくねーし」
「お……おねえちゃんがかわいい!!!」
「はぁはぁ……おねえちゃん」
「ちゅっちゅっ♡」
「ちょ! やめろし!」
「こわっ!」
「てか、さっきからおねえちゃんって、なんなん?」
「ボクは一人っ子だー!」
強引に七海に抱きしめられていた凪は、逃れようと激しく暴れた。
――パチン。
その刹那、手が七海の顔に当たり、赤いチャイナメガネがはじき飛んだ。
七海の素顔が、凪の目の前に露わになる。
「――!」
「え……ママ?」
「グズっ……ママぁぁぁ」
「あはは」
「はーい、ママですよ~♪」
『……デジャヴ!』
「セレスちゃんセレスちゃん」
「見て見て」
「さっきのセレスちゃん、こんな感じだったぁ♪」
「あはは!」
『もう! もうもう!』
『ママのいじわるー!』
凪を失って押し寄せていたセレスの心細さは――七海という太陽に包まれて、あたたかな温もりへと変わっていった。
―第42話につづく―
~あとがき~
どうも!せーぶうわがきです!
今回のお話は、はい、ホントに色々ありました(´・ω・`)
ちょっと情報を詰め込んだなぁ感がありまして反省しております。
ですが!
暗いお話は一旦ここまで!
次回からは、ようやくお待たせしておりましたゲーム作りに話がシフトしますのでご期待いただけると嬉しいです!
もう! ゲーム開発のお話なのに! こんなに長引かせて!
七海が加わってどうなるのか、ディレクター問題はどうするのか、小さい凪はどうかかわっていくのか、どんなゲームを作るのかしっかりお届けしていきたいと思っております。
皆様!
それでは、第42話でお会いしましょう(∩´∀`)∩




