第39話『凪のおはなし』
『ユイシェ……言っ……みなさい!』
『凪さ……最高にかっこい……ですー!』
『ふん』
『AI……恋なぞ……いかがわ……』
『カカ』
『子どもが……のも、時間の問……じゃの~』
『んなっ!』
ドアの向こうから、楽しそうな声が響いてくる。
酔いと、疲労からか意識がもうろうとしている。
「はは……美少女たちの声を聴きながら……寝るの……最高か?」
「……」
「さて、さて……」
「七海……どうやって……たすけ……すぅ」
ゆっくりと、意識が布団に溶け込んでいくような感覚。
気持ちがい――。
「――がッ!」
「イ"っ……なん、だ……はぁはぁ……うぐっ!」
「あたま、が……ア"ァァッ……!」
痛い――いたいいたいいたい。
脳を直接、鷲掴みされて、圧し潰されているような痛み。
手と足の感覚がなくなっていく。
「はは……なんだ……もう、か」
「仕事が……うぐっ……はえん、だよ」
「……はぁはぁ」
「セレス……七海っ!」
「ぜったいに、もど――」
***
目を覚ますと、真っ暗な空間にいた。
見渡す限りの――闇。
闇。
闇、闇、闇。
「なんだ……ここ」
「夢か、現実?か分らんが、とりあえず……生きてるってことでいいんか?」
「……ん~」
「わからんな」
「まっ、なるようになるか」
「ゲームじゃこんなんよくあることだ」
「ふん、ここに誘い込んだやつ?まだまだだな」
「こういうところはな……こうやって床に身体を……めり込ませれば!」
「あら不思議、すり抜けバグ…………って、ならんか」
「……」
「……うん。歩くか」
***
どのくらいの時間、歩いただろう。
1時間……いや、5時間?
時間の感覚がない。
歩けども歩けども闇が続いている。
――お腹も空いてきた。
「って……お腹空くのかよ」
「これ、いきなり詰みじゃね?」
「…………」
「はは……何が "何度でも這い上がってきてやる" だよ」
「……よわったなぁ」
「――ん?」
寝ころんでいると、一つの小さな光の球体を見つけた。
悪意は感じられない。
むしろ、暖かい?
「こっちおいで~」
「……よいしょっと」
光にふれた瞬間――目の前が真っ白になった。
***
「――い!」
「おい! 神岬凪!」
「"ゲームショウ" 当日に、何をボーっとしてんだ」
「でかい顔してんじゃねーぞ」
「社長に気に入られただけの一発屋がよ」
スーツを着たおじさん――上司に肩を揺さぶられる。
こいつは、私が所属する部署の部長だ。
今日は私がヒットさせたゲーム "妹これくしょん~異世界妹育成計画" を展示発表する日。
広々とした会場には、様々な会社の話題のゲームが並んでいる。
入口には "ゲームショウ2027" の大きな看板が、お祭りの空気感を際立たせていた。
「はいはい、なんでしょうかぁ?」
「すみませんねぇ!」
「若干22歳のぴちぴちの若造が、ステージでの対談を任されちゃって」
「新進気鋭の天才ゲームディレクター、行ってまいりまーす♪」
「あ、受付はお願いしますね」
「部長が受付してくれるんだったら、アタシ安心だな~」
「――気取りやがって」
「せいぜい大恥かかないようにするんだな」
「いいか? 失敗は絶対に許さん」
「失敗すれば、"億単位の金" が吹き飛ぶと思え」
「舞台慣れしてないお前に教えてやるよ」
「俺の若い頃になぁ――」
「あ、部長! そろそろ開場ですよ!」
「早くしないとお客さん来ますって!」
「あと、安心してください」
「今日で "億単位の金" がまた入ってくるんでぇ」
「――クソがっ!」
顔面めがけて、くしゃくしゃになった雑誌が投げつけられる。
"雑誌の表紙" には、大きくアタシの写真が掲載されている。
「うぉ……はっず」
「なんだよ、この決め顔」
「凪ちゃん!? 大丈夫?」
「顔に当たってない?」
「あいつ! 流石に今のはパワハラよ!」
「私の凪ちゃんの綺麗な顔に何かあったら、どうしてくれんの!」
「むかつくわ!」
「顔だけっすか。小鳥遊P」
「あのぉ……アタシ、ゲーム開発だけやってたいんですけど」
「今日だって、新機能の企画書、書きたかったなぁって」
「早くチームに展開しないと、エンジニアからキレられますし」
「うん♪ ダメダメ☆」
「凪ちゃん。いい?」
「ゲームはね、いいモノを作ってれば売れるわけじゃないの」
「いいモノを作った上で、届けて初めて売れるの」
「万に投げて、一に刺さればいい」
「ゲーム業界はそういう世界」
「売るためには何でも使うわ」
「顔がめちゃくちゃいい22歳の天才ゲームディレクター "神岬 凪" が作る、超面白いゲーム "妹これくしょん"」
「かわいいは正義よ」
「は、はぁ……何すかソレ」
「ふふふ、私が考えた最強のキャッチコピーよ」
「さぁ! 凪ちゃん、ぶちかましてきておやりなさい!」
「あ、無事成功させたら、妹ちゃんの授業参観にすぐに行っていいわ」
「確か今日よね。中学校の授業参観」
「……ごめんね。お休みをあげれなくて」
「マジっすか!」
「今行けば、七海の発表時間に間に合うっ!」
「じゃ、小鳥遊P!」
「ちゃちゃっと、"なぎ払えー!" してきますわ!」
「なぎ払わないでね!?」
「……あっ! 凪だけに!?」
***
光が収縮し、また視界全体が闇に包まれる。
「あはは、懐かし」
「小鳥遊P、今見ても強烈だなぁ」
「美人なだけにもったいない」
「……あの人にゲームの売り方、色々教わったんだったな」
「あ、そうそう」
「あの後、授業参観に行って、七海の発表に間に合ったけな」
「――ありがとうございます」
「って! 最後まで見せろや!」
「これからだろ!」
「変なとこで切ってんじゃねーぞ!」
「アタシの!」
「可愛い!」
「七海のシーンまで!」
「見せろぉぉぉ!」
自分の声だけが、この何もない空間にこだまする。
ふと横を見ると、さっきまでなかった扉が出現していた。
「…………うちの玄関?」
「はぁ……次から次になんなんだよ」
「記憶を見たら、アチーブメント解放ってか」
「はいはい、入りますよ」
「入りゃーいいんでしょ」
扉に手をかけると、脳にビリビリと電流が走った。
ここから先は――何か嫌な予感がする。
進め。
嫌だ。
――進め。
脳が拒否反応を起こす。
そんな直感を、押し殺しながら大事なモノに想いを巡らせる。
開けなきゃだめだろ――今。
早く帰るんだ。
深呼吸をする。
扉を開くと予想とは裏腹に、暖かい空気が流れ込んできた。
***
「凪ちゃーん!」
「いつまでピコピコしてるの~?」
「もうお昼ご飯できたよ~♪」
甘いふんわりとした声。
大好きな声。
「うぇーい。ママ」
「ちょっとこいつボコしてから行くー」
「ジャンプ仕込みJS擦りまくんな! 見え見えなんだよ!」
「はいはい、バーストね。ざんねーん♪」
「起き上がりで無敵ぶっぱだろ? はい、余裕!」
「次は次は? もう残りHPドットだが?」
「はーい、小足見てから余裕でしたー♪」
「ざこおっつ!」
ロックな音楽が流れる対戦型格闘ゲーム。
今ハマっているゲームだ。
オンライン対戦は止められない。
「こらっ、凪ちゃん」
「女の子なんだから、汚い言葉使わないの~」
「来年には、お姉ちゃんになるんだから」
「凪ちゃんももう8歳」
「お姉ちゃん、できるかなぁ~?」
「うーん、できんじゃね?」
「もう! もうもう!」
「もっと可愛く言いなさい」
「まったく~、誰に似たんだか」
「ほら、こもりっぱなしのパパも呼んできて~」
「うぇーい」
二階にあるパパの書斎。
パパはずっと何か機械をいじっている。
最近は、部屋から出てない。
ママもぷんぷんしている。
「パパー」
「ママが、オムライスできたって。甘いやつ」
「……」
「……凪か」
「ちょっと来なさい」
「うっ……なに」
真剣なトーンで、手招きをするパパ。
焼き魚の目みたいで苦手だ。
怖い。
「――」
「……凪に遊んでほしいゲームがあるんだ」
「これを被りなさい」
「なにこれ、VRヘッドギア?」
「でも見たことない形だなぁ」
「パパが作ったんだ」
「医療用だな」
「これが完成すれば、多くの人が幸せになれる」
「凪の意見が、未来の人を救うんだ」
「ボクが?」
「し、仕方ないなぁ」
「パパがそこまで言うならやってやるよ」
「へ、へへ」
ボクに興味持ってないと思っていたパパが頼ってくれてる。
嬉しい。
VRヘッドギアは、頭にぴったりだ。
「パパ、いいよー」
「電源をつけるぞ」
「うぇーい」
「ごめんな――凪」
「頼んだ」
***
いつの間にか扉はなくなっていた。
目からは、とめどなく涙が零れ落ちている。
あれは……七海が生まれる前の記憶?
確かにあの後の記憶はない。
「記憶は……ここまでってか」
「ママ……パパ」
「なんだよ……なんなんだよ」
「なんで今更こんなもん、見せられねーといけねぇんだよ」
「頼んだって、なんなんだよ」
「…………」
「だぁぁぁぁぁぁ!」
「まったくよー!」
「お腹空いてんのに、ママのオムライス食べるとこまで見せろよ!」
「あーあー、ママのオムライス食べたかったなぁ!」
「……くそっ」
涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
七海が生まれてから、11年後、アタシが20歳になった頃に両親は死んだ。
七海のオムライスも、ママそっくりだったな。
食べたい。
――オムライス。
甘いやつ。
そう、ケチャップの匂い、砂糖が入った卵の甘ったるい匂い。
匂い?
ふと目を開けると、目の前にオムライスが置かれていた。
「嘘……だろ?」
「はは……ははは」
「これがここから出る――攻略の糸口ってか?」
「……」
「……くそ! くそ、くそ!」
「んぐっ……うめぇ……う、めぇ……グスッ」
口いっぱいにオムライスを頬張り、涙を拭いて前を向く。
「どこの誰かしらねーけどな……上等じゃん!」
「やってやんよ!」
「ゲームディレクターはな! 諦めがわりぃんだよ」
「ばーか!」
―第40話・第2部につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
幕間もこれで終わりです!
次回から上記の通り、第2部スタートいたします!
ここまで毎日投稿してきたのですが、第2部からは "週2更新(水・土)" でやっていこうと考えています。
第2部40話は、明日!2月11日(水)に投稿いたします!
今後とも末永く、セレスたちをよろしくお願いいたしますー!(●´ω`●)
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そして、実はゲームディレクターは、プロモーション(宣伝)は専門外にしている方が多いです。
専門のマーケター、プロデューサーが本来担う仕事だからですね!
しかし、第1部の凪は、プロモーション周りの知識もあり成功させました。
ゲームディレクターの彼女が、プロモーションが強かったのは小鳥遊Pの存在が大きかったということですね
もちろん、第7話の凪がセレスに言った「可愛いは正義だよ」も、小鳥遊Pの受け売りです(●´ω`●)
今後小鳥遊Pは出てくるのか否か…………分かりません!(´・ω・`)←エッ?
お楽しみにお待ちくださいw
ゲーム業界では会社にもよりますが、あの部長のようにイヤァなやつ、足を引っ張ってくるやつ、会社の政治など色々あります。
凪はゲーム作りの邪魔をする人間はことごとく見下すタイプのクリエイターです。
よろしくお願いします!
では、今回のあとがきはこの程度で!
皆さん!
第2部!!!第2部でお会いましょう!




