第33話『かわいいねぇ! 鮫ちゃん、かわいいねぇ♡』
戦場を見据える "無機質な少女" の瞳は、氷のように冷たく場を支配していた。
青白い髪を揺らすたび、サイバー装甲が微かに軋む。
背後には大砲を積んだ機械鮫が静かに旋回――その姿は、まさに "完成された人型兵器" だった。
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俺たちの断罪ちゃん大丈夫そ?
凍ってる?うごいてぇぇぇぇ!
こうなったら終わりだな
↑↑どういうことや?
……来るぞ
うわ、トラウマだわコレ
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戦場の張り詰めた空気とは裏腹に、コメント欄は熱を帯びていく。
コメント欄の弾幕が最高潮に達すると同時に、機械鮫の口腔奥で黒い渦が回転し、光が暴れ狂う。
閃光が走った刹那―― "断罪ちゃん" を包む氷柱が粉砕されていた。
「うわ~……えげつねぇ」
「今、音速超えてたな~」
「人間の反射神経で避けるだけでも難しいのに、凍結で動きを封じた後とか」
「"ワールド:中国" の代表レイドボス」
「初見殺しだな、こりゃ」
「終末学園ラストギア……氷后スノーリリスか。かっけぇじゃん」
デア・エクス・マキナに用意してもらった専用VIPルームで、凪は一人感嘆の声を漏らす。
「まっ、このくらいしてくれないと困るってもんだがな」
「ふふ……対極のアダプティブAI同士のバトルだ」
「楽しいよな? 断罪ちゃん」
※アダプティブAI=相手の力量に応じて行動パターンを変えるAI
届くはずもない凪の声に呼応するように、土煙の奥で異質なナニかが漏れ出てくる。
『…………ふひっ』
『ふひ、ふひひひひッ……あはははははははは!!』
『――アハッ、ひゃははははははははははははッ!!』
『あ"ァぁぁ……たのしい……タノシイ、楽しいねェ!』
『ねェ! ママァ!』
ゆらゆらと出てきた彼女は、巨大なハンマーをゆっくりと拾う。
"氷后スノーリリス" を見据えると、ハンマーを引きずりながら、壊れた人形のように歩き出した。
――ゴリ。
ゴリ……ゴリゴリゴリッ!!
『もっと……殺し合いしよう? ね♡』
『ふひ、ふひひひひッ!』
『ひゃは! ア"ははははははははッ!』
獣のように突進した "断罪ちゃん" が、"スノーリリス" に巨大な鉄槌を振り下ろす。
最適解の方へ身を躱される。
同時に、機械鮫が後ろから出現し、マシンガンを放つ。
――ダダダダダッ!
ダダダダダダダダ!
予測していた通り、目にも止まらぬ速さで後ろへ走り出して回避。
そのまま壁を駆け上がる断罪ちゃん。
天井から垂れた巨大氷柱をハンマーで叩き折る。
次の瞬間、身をひるがえし、渾身の蹴りで氷柱を撃ち出した。
命中。
機械鮫は、火花を散らしながら鉄くずとなった。
『かわいいねぇ! 鮫ちゃん、かわいいねぇ♡』
『ふひひひひッ!』
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いや……えぇ……こわっ!
ホラーじゃん!
こんなん襲ってきたら漏れるわ!ww
ワイ、美少女、オイカケラレタイ
ボスが環境を利用するてヤバない?
日本の人、こんなんと闘ってんの!?ww
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『……ふふ』
今まで無表情を貫いていたセレスが、ユイシェンを横目に微笑む。
『何事か、セレス』
『言いたいことがあるなら、言うがよい』
『あぁ、ごめんなさい』
『思い出し笑いしてしまいました』
『今の時代、"アダプティブAI" は確かに当たり前でしたね』
『ふふふ』
『――貴様』
『あのような合理性の欠片もない戦闘が、AIと呼ぶのもおこがましい』
『開発コストが足らなんだか。滑稽とはまさにこの事よ』
『合理性、ですか……』
『ユイシェン、これはゲームなんです』
『アダプティブAIは、別名 "適応型AI" と呼ぶのは知っていますね?』
『プレイヤー行動に適応し、"全て上から潰す貴方のボス" と "全てを利用する私のボス"』
『まさに、静と動』
『果たして、プレイヤーが面白いと感じるのはどちらでしょうね♪』
二人の間に、見えない火花が散る。
ユイシェンはプイっと顔を背けつつも、唇の端にわずかな笑みを刻んだ。
機械鮫を失った "スノーリリス" は、無表情のまま、静かに浮き上がる。
美しい青い髪が、クリスタルのように光り輝く。
そして、小さな口が開くとともに呪いの言葉が漏れ出る。
『氷楼結界……』
ドーム型の氷の結界が、断罪ちゃんの逃げ場を塞ぐ。
――ゴリゴリゴリッ!!
彼女が出した選択は、突進――術者本人を叩き潰すことだった。
『氷鎖連縛』
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…………あ
オワタ
【悲報】断罪ちゃん、終了のお知らせ
再凍結キタァァァ!
最初の砲撃で、HP五割ないなったもんな
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スノーリリスは、HPを消費して、機械鮫を瞬時に複製する。
そして、口腔奥で黒い渦が回転し、光が暴れ狂う。
その刹那――
『断罪領域・再臨』
凍結から抜け出した断罪ちゃんは、スノーリリスの砲撃を右手を犠牲に弾く。
『ふひっ♡』
『断罪の終焉』
白い髪が瞬く間に、燃えるような赤色に変色する。
砲撃の反動で動けないスノーリリスの頭を、容赦なくつかみ思いっきり床に叩きつけた。
――ゴン!
『アハッ、ねぇ? タノシイ?』
ゴン! ゴン!
『ふひひひひッ!』
『ボロボロの顔、かわいいねぇ! かわいいねぇ♡』
スノーリリスの顔を、愛おしそうに頬ずりをすると、耳元でささやいた。
『ねぇ、知ってるー?』
『ママたちの "障害" を壊せるのは、断罪ちゃんだけなんだってェ』
『障害を壊してぇ……いっぱいヨシヨシしてもらうんだぁ』
『障害ってナニ?』
『……おまえ?』
『ふひっ♡』
『障害っ!』
『しょうがいっ!』
『ふひ、ふひひひひッ! 障害っ!!』
『……壊れちゃった?』
『はぁ……あきちゃったぁ』
『たのしくなーい』
ボロボロになったスノーリリスの頭を、ポイっと壊れたオモチャのように投げ捨てた断罪ちゃん。
床に転がっていたハンマーをゆっくりと、天高く担ぎ上げる。
断罪ちゃんの足元から赤い亀裂が放射状に走った。
空気が震え、重力が軋む。
『それじゃあね!』
『もう、ママたちの障害になっちゃダメだよー♪』
『女神の断罪♡』
『――アハッ、ひゃははははははははははははッ!!』
空が割れた。
星が墜ちた。
特設ステージを半壊させるほどの超新星爆発が、世界を白く染めた。
『終了! 終了じゃ~!』
『チキ★チキ!』
『ワールド:日本&中国コラボフェス!』
『第一回戦は~……"ワールド:日本" の勝利じゃ~!』
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ちょぉぉぉぉ!ナニ最後の!
変身したぞいっ!
ふひっ……癖になるでござる
え、圧勝ってこと!?ww
いやいや残りHP10%じゃん!
かんけい~♪ないさー♪
ねぇ知ってるぅ?
断罪ちゃん仲間になるんだってぇ
全裸でいくわ!!!ふひっ♡
↑↑↑↑きんもっww
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「あっはははは!」
「断罪ちゃん、やってくれたなぁ♪」
「あとでしっかり褒めてやらんとな!」
凪はモニターに目をやると、ユイシェンがセレスに突っかかってるシーンを目撃する。
「あはは、きっとセレスが煽ってんだろうなぁ」
「ユイシェンちゃん」
「断罪ちゃんの勝因は、第五世代AI―― "人格" を持ってるってところだよ」
「言うなれば、断罪ちゃんはボスでもあり、プレイヤーとしての楽しみも知っている」
「断罪ちゃんが毎日やってるのは、レイド戦じゃなくて、PvPだ」
「PvPの必勝法は、最終的には心理戦」
「"非合理を選択できない" 第四世代AIのスノーリリスちゃんは、始まる前から負けが決まってたってことだな」
「ふひっ……あ、いかんいかん」
「可愛すぎて移るわ、コレ」
"デア・エクス・マキナ" に怒られて、連行されているセレスを愛おしそうに見つめる凪。
「さぁ、セレス」
「第二回戦は、お前の番だ」
「みんなの力で勝とうな」
「さーて、アタシも準備運動始めますかねぇ!」
―第34話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
(今回解説で長いので、不要な方は飛ばしてください!)
断罪ちゃんの勝因ですね!
凪の言う通り、勝負する前から実は勝ち筋を見出しておりました。
残りHP10%で終了したのも戦略です。
断罪ちゃんがした戦略を書き出しておきます!
①最初の凍結+砲撃
→まず凍結対策をしていないと誤認させるため(非合理)
→またHPを50%以下まで減らすため
②HP50%以下を条件に「断罪領域・再臨」を発動
→この技は全状態異常を強制解除する技。最後まで取っておいた(非合理)
③最後の砲弾を右手を犠牲にダメージを食らう
→HPを10%以下にするため(非合理)
④HP10%以下を条件に『断罪の終焉』を発動
→赤髪に変身
→いわゆるオーバースペック、オーバーロードです
→攻撃力超アップ+数秒間無敵
※プレイヤーからすると、最後の悪あがきです(ここを耐えれば勝ち筋が見えてくる)
⑤あとは楽しく蹂躙タイムです
という算段になっていました。
また、第30話でコラボ直前に、凪が復活回数を2回から5回にしていましたね。
2回→即応能力を磨く教育
5回→観察眼を磨く教育
いわゆるアダプティブAI+第五世代AIとして、1プレイヤーとしての経験値を積ませるためです。
以上!解説でした!
では!第34話でお会いしましょう(●´ω`●)フヒッ




