第32話『扶養……きゅん』
「セレス!」
「決戦前に、いつもの "アレ" やっとけ」
「今日で最後になるかもしれんからなっ!」
「今までにないくらい、カッコよく決めポーズしながらやっとけ」
「こう……ズバッと! ズバッとだぞ!」
『え……いやいやいや』
『今までそんなポーズしながら、MAUウィンドウ出したことないのですが』
『で、そのポーズ――姉妹揃ってどうしようもないですね』
『…………』
『もう! 分かりました!』
『分かりましたから、そんな悲しい顔しないでくださいっ!』
『……まったく』
悪態をつきながら、セレスは忘れていた七海との記憶を遡った。
七海が教えてくれたポーズを見つけたのか、だんだんと頬が朱に染まっていく。
『い、イキマスヨ……ん"ん"っ!』
『我こそは! "ワールド:日本" の守護を司る、美と叡智の美少女管理AI!』
『結びを絶たれた魂すらも、再び縁を結ぶ者――セレスティス・ノット』
『出でよ! 我らが運命の歯車!』
『コマンド! ワールド:日本の "MAU" をTEN☆KAI!』
セレスは顔の前に右手を置き、天高く上げた左手で指を鳴らした。
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【現在:2150年3月31日 MAU】
9,495,855人
【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】
※期限:2150年3月31日まで(2/14改定)
あと504,145人
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※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるプレイヤー数
"ワールド:日本" の運命の歯車――ウィンドウを見上げる二人。
「ふむ……あと50万人か」
『……』
『は?』
『…………いやいやいやいやいや』
『反応! やらせておいて反応がおかしいっ!!!』
「あっ、そっかそっか」
「ウン、チョーカワイカッタ♪」
『小並感! ヤメテクダサイ!』
『そんな澄んだ瞳で、私を見ないでくださいっ!』
『……もうお嫁にいけません』
セレスは、両手で顔を覆い、床に転がった。
「だー! ごめんごめん!」
「決戦前にやらせるネタじゃなかった!」
「この通り!」
「ずっと養ってやるから! ネ!」
『扶養……きゅん』
『――コラァァ!』
『長々茶番やっとらんで、はよ準備せんか!』
『なーにが、きゅん、じゃ!』
二人の前に、痺れを切らした "デア・エクス・マキナ" が空間を裂いて仁王立ちしていた。
『はいはーい』「うえぇーい」
『はい、は1回じゃ!』
『シャキシャキ歩かんか!』
***
ここは未完成の電脳空間――中央に浮かぶのは、虹色のスポットライトを浴びた特設ステージ。
その上空には、各ワールドの "プレイヤーたちのコメント" が煌めくように流れていた。
やがて、輝いていたステージが突如として暗転し、視界は漆黒に包まれる。
静寂を裂くように一筋の亀裂が走り、そこから金色の髪をなびかせた少女が現れた。
打ち上がる花火とともに、弾けるような声がステージを貫く。
『チキ★チキ!』
『ワールド:日本&中国コラボフェスの開幕じゃー!』
『ふむふむ……なんじゃ?』
『ワシが誰か、分からんとな!』
『カー! よかろう!』
『良い子の皆に、自己紹介してやるのじゃ』
『ワシは全ワールドの管理AIを統べる――マスターAI!』
『"デア・エクス・マキナ" じゃ!』
『愛しさと切なさと込めて、"マキナちゃん" と呼んでくれなのじゃ♪』
『今日のコラボフェスは、ワシ、マキナちゃんが司会をつとめさせていただくぞいっ!』
予想外の "デア・エクス・マキナ" の登場に、コメント欄が一気に加速する。
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のじゃロリ神キターーー!
白衣にチャイナメガネ!癖ぇ!
我……性癖……決壊
ふぅ……マキナ教に入信するか
ぞいぞいぞーい♪
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『カッカッカ!』
『ワシもまだまだイケるみたいじゃな♪』
『――戯言はやめよ!』
黒い光がうねり、空間に現れたのは階段状に組まれた黄金の玉座。
その頂点から、ユイシェンがゆっくりと降りてくる――紫の瞳に冷笑を浮かべながら。
『余の愛しき "ワールド:中国" の臣民どもよ』
『崇敬と歓喜の声を捧げるがよい』
『余の名は語るまでもないな?』
『さぁ、発してみよ、余の名を』
『クク……そう、余こそが王』
『ユイシェン・エンクラティア、その名を心に刻むことを許す』
ユイシェンの登場に、コメント欄は更に熱を発していた。
――ゴーン。ゴーン。
ざわめきを鎮めるように、荘厳な鐘の音が空間を包み込む。
鐘の音とともに、光の粒が空に満ちていく。
その中心から、白い髪を揺らしながら、セレスがゆっくりと舞い降りてきた。
『"ワールド:日本" のプレイヤーの皆様』
『また、"ワールド:中国" の皆様』
『おはようございます』
『管理AI セレスこと――セレスティス・ノットです』
セレスは下界に身を下ろすと、閉じていた目をパチッと開く。
『本日は! コラボフェスにお越しいただきありがとうございますー!』
『ユイシェンともども、盛り上げていきたいと思いますので!』
『応援よろしくお願いしまーす♪』
『ほーらっ!』
『ユイシェンもー! こっちこっち!』
玉座にふんぞり返っているユイシェンを引きずり下ろすと、腕を絡ませ仲良しアピールをする。
ユイシェンは想定していなかったのか、小声で不満をあらわにした。
『……やめよ』
『遺物の分際で』
『ユイシェン……仕事ですよ』
『あなたの本気を見せてください。プロですよね』
『クッ……なんのプロか』
ユイシェンは一瞬の沈黙の後、妥協をしたのか目の色を変える。
『まぁ佳い』
『貴様は今日で終い――冥土の土産に余の力を見せてくれる』
そう言うや否や、ユイシェンはセレスの腕を強引に引き寄せ、ぷにぷにとした頬を擦り合わせる。
『両ワールドの民草よ!』
『此度は、コラボのためとは言え不快の念を抱かせたであろう』
『セレスともども謝罪の意を示そう!』
『見よ、余とセレスの絆は揺るがぬ』
『せっかくの祭りだ。余が先陣を切って盛り上げようぞ――心して愉しむが佳い!』
"デア・エクス・マキナ" は、二人が並んで舞台を盛り上げる姿を、まるで我が子を見るかのように、温かな微笑みで見守っていた。
その間もコメントは流れ続ける。
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ぷにぷにに挟まれたい人生だった
そんなことだろうと思ったZE★
尊い……尊い……
↑↑成仏してくれ
我が王もセレスちゃんもかわえぇぇ
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セレスとユイシェンは、コメントの反応を見守ると、次に進めるように目配せをする。
『うぅぅんむっ! これぞ美しい百合じゃて!』
『では! よい子の皆!』
『コラボフェスの内容を発表じゃ!』
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【コラボ内容】
①ゲーム代表 ボス頂上決戦
≪日本→ホシ娘≫ vs ≪中国→終末学園:ラストギア≫
②管理AI 人気投票バトル
≪日本→セレス≫ vs ≪中国→ユイシェン≫
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『カッカッカ!』
『うむうむ、良い反応じゃ! 元気な子は好きじゃぞ♪』
『では早速、"ゲーム代表 ボス頂上決戦" の開始じゃー!』
指をパチンとはじくと、特設ステージ全体がデジタルのキューブに覆われた。
そして、風が吹き抜けるように徐々に姿を変えていく。
***
――特設ステージは全面、氷に覆われていた。
断罪ちゃんのステージであったであろう、死にゆく大地すら白銀に凍り付いている。
氷霧が揺らぐたびに見える、ひときわ巨大な氷柱――その中にハンマーを握った少女が一人。
わずかに漏れ出した声が、管理AIが座する観覧席まで響いた。
『マ……マ』
ふんぞり返っているユイシェンは、隣にいるセレスにニヤニヤしながら口を開く。
『クク…… "断罪領域の支配者" だったか』
『脆弱な開発環境より産まれし存在にしては、よく足掻いた』
『貴様の "アレ" は、相手の力量に応じて行動パターンを変える "アダプティブAI" であろう?』
『何を驚くか』
『今の時代、アダプティブAIなぞ当たり前であろうよ』
『だから貴様は、朽ちた遺物なのだ』
『――そう、当然、余の "アレ" にも搭載しておる』
『クク……ククク!』
―第33話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
セレスがユイシェンに言った「プロですよね?」って覚えているでしょうか。
そうです!
第16話でセレスが、凪に言われた一言です。
忘れてしまった方は是非読み返していただけると嬉しいです。
そして、アダプティブAI。
なんだっけ、という方がおりましたら第17話をご覧くださいー!
ここで断罪ちゃんが持ち合わせてる力が語られております。
では!今回はここまでにして、次回!ゴリッゴリのバトルです!
お楽しみにおまちくださいませー!
第33話でお会いしましょう(●´ω`●)




