第31話『私に二言はありません!』
『"コラボ" だと?』
『余に何の益があるというのか』
『ククッ……あぁ、ようやく腑に落ちたぞ。朽ちた遺物』
『"デア・エクス・マキナ" にすがりついたか?』
『その身の浅ましさ、いっそ称賛に値するわ』
『滑稽とはこの事よ……ククク』
嘲笑うユイシェンの声音は、まるで舞を愉しむ王のそれだった。
しかし、声が止んだ刹那――表情が消えた。
氷のような眼差しが、断を下すために向けられる。
『"デア・エクス・マキナ" よ』
『答えは、否』
『余が助けてやる義理もなし』
『朽ちた遺物は、そのまま滅びよ』
『……』
セレスは眼を閉じ、微動だにせず聞き流す。
この沈黙をどう解釈するか――。
"デア・エクス・マキナ" はため息まじりに、ユイシェンへ向き直った。
『ユイシェン』
『お主、何か勘違いしておるようじゃの』
『確かに、セレスにはあと一週もせず "ワールド消滅" という事実がある』
『しかし、それとこれとは別じゃて』
『今問題にしておるのは、ワールド間のプレイヤーを巻き込んだ "炎上" じゃ』
『この炎上――元はと言えば、お主の行動に原因がある』
『ワシに "たまたま" などという弁明は通用せんぞ?』
『コラボはあくまで、最初からこういうプロモーションじゃったと鎮火させるための術じゃ』
『なに、主らが仲良く配信でもやれば、プレイヤーも落ち着くじゃろうて』
『ユイシェン、理解したかの?』
『ふん…………佳い』
『なんじゃ、不満そうじゃのぉ』
『何か別案があるなら、聞いてやるぞい?』
『――佳いと、余が言っておる』
『早急に先に進めよ』
『カカっ! 全く、可愛くないのう』
"デア・エクス・マキナ" は、反抗期の子をあやす母のように柔らかな眼差しを注いだ。
そして、パンと軽く手を叩き、会議を次へと導く。
『では、次は "コラボ内容" を決めようかの~』
『せっかくじゃ! 主らの要望を一つずつ、取り入れてやるじゃ』
『考える時間は必要かの?』
『不要です』『要らぬ』
『主ら……少しは楽しく会議してくれんか』
『まぁ良い』
『まず、セレスから聞こうかの!』
『コラボ案、申してみよ』
セレスは "デア・エクス・マキナ" からの問いかけに、ようやく眼を開く。
そして、天高く腕を上げ、発表する。
『はい』
『ズバリ! "ボス対決" です!』
『ふむ……その心は』
『ワシにプレゼンしてみるのじゃ』
『はい!』
『"ワールド:中国" には、日本で運営している "ホシ娘" と似た育成ゲームが存在します』
『ならば! これをコラボに活用しない手はありません!』
『この二つのゲームを代表する、ボス同士が戦うことで "より面白い行動パターン" のボスはどちらかをプレイヤーに届けます』
『いかがでしょうか』
『ふむ……プレイヤーは常に面白いゲームを求めておるのじゃ』
『勝った方も負けた方も、行動パターンによっては宣伝にもなるの』
『――面白い! 採用じゃ!』
『"はなまる" をやるのじゃ♪』
"デア・エクス・マキナ" は、宙にくるくるとはなまるマークを描くとパチンと指をはじく。
すると、セレスの頭上にはなまるの花火が打ち上がった。
『……え』
『なんですか、コレ。恥ずかしいのですが』
『新機能じゃ♪』
『クク……そこの遺物よ、正気か?』
『余が開発に投じたコストの規模を知りながら申したのなら――愚か』
『知らずに申したのなら、なお愚かよ。ククク』
『はぁ……ユイシェン』
『ゲームの面白さが、開発コストとイコールと思っているうちはまだまだ子どもですね』
『あ、間違えました!』
『全ワールド最大規模へと導いた手腕――胸を借りるつもりで挑ませていただきますねっ』
『その小さな胸で、受け止めてください♪』
『コレコレ! やめよやめよ』
『セレスも売り言葉を、いちいち買うでない』
『ユイシェンもじゃ』
『いい加減、セレスのことを "遺物" と呼ぶのをやめよ』
またしても新機能なのか、"デア・エクス・マキナ" は拳を振り下ろすと、二人の頭上に遠隔でゲンコツが堕ちた。
『では、次じゃ』
『ユイシェン、お主の案を聞かせてもらおうかの』
『ふん……佳かろう』
『余からは "管理AI人気投票バトル" を提言する』
『言う必要もないが、ワールドの繁栄は管理AIの才覚に直結する』
『優れた管理AI、これ即ち、優れたワールド』
『愚民どもに余の王たる器を、改めて刻み込んでくれるわ』
『そして、どのワールドが "真の幸福" を約束するか――思い知らせてやろうぞ』
『ふむ……最後の方はプレゼンじゃなく、私欲が入っておったがよかろう』
『ユイシェンが言うことにも一理ある』
『プレイヤーがこの電脳世界で使う通貨 "Eupho" は "幸福通貨" と呼ばれておる』
『つまり、我々AIは、この電脳世界を通して人類を幸せにする義務がある』
『管理AIに自治権を持たせている以上、管理AI人気投票は妥当と言えるのじゃ』
『採用じゃ!』
『ほれ、お主にも "はなまる" じゃ♪』
『……』
『不要ぞ』
ユイシェンは、顔をプイっと背けながら、手のひらでシッシッと振り払う。
『カカっ!』
『褒めてもらえる相手がいるうちは、素直に褒められておくものじゃぞ?』
『まぁ、良いのじゃ』
指をパチンとはじくと、二人の前にデカデカとコラボ内容を表示する。
──────────────────
チキ★チキ!ワールド:日本&中国コラボ
【コラボ内容】
①ゲーム代表 ボス頂上決戦
②管理AI 人気投票バトル
【コラボ決行日】
2150年3月31日
※備考※
司会はワシじゃ♪
──────────────────
『セレスよ』
『決行日は、ワールド存続がかかった最終日じゃ』
『これは、お主に与えるペナルティと思ってくれて構わん』
『ワシの目はごまかせんぞ?』
『良いな?』
『もちろん、問題ありません』
『クク……セレス』
『余に喧嘩を売ったこと、後悔させてくれようぞ』
『最終日、貴様のワールドともども断罪してくれるわ』
『ふふ、"断罪" ですか』
『楽しみにしていますね♪』
『主ら…………当日は仲良くするんじゃぞ?』
『ユイシェン』
『お主が良い子なのは知っておる』
『"セレスに突っかかる理由" もじゃ』
『今一度、自身の存在意義について考えてみるのも良かろう』
『お主に敵など存在せんのじゃ……よしよし』
"デア・エクス・マキナ" は、ユイシェンの頭に手を添え、そっと撫でる。
それは、この世でただひとつ揺るがぬ愛情の証であった。
『――よせ』
『余は帰る』
そう言うと頭に置かれた手を払い、スタスタと帰っていった。
少し赤くなった表情を、"機械の母" は見逃さなかった。
『さて、セレスよ』
『どうせ、ここまで凪の計画通りなんじゃろ?』
『まったく……なかなかに危ない橋を渡ってくれるわい』
『以前のお主なら、このような決断はせんかったはずじゃが、何かあったかの?』
セレスは "デア・エクス・マキナ" のもとに歩み寄り、金色の髪に触れる。
その一瞬に――愛おしさも、記憶も、決意も、すべてが込められていた。
『はい』
『大切なモノを守るためです』
『……なるほどの』
『相分かった! ならば、その信念貫き通してみせるのじゃ!』
『ワシはあくまで――中立』
『当日は助けてやれん』
『セレス……いや違うの』
『主ら二人の力で乗り切ってみせよ』
『ふふ。違いますよ。"デア・エクス・マキナ"』
『二人じゃありません』
『"ワールド:日本" の全員です♪』
セレスは最大限の笑顔で答えると、丁寧にお辞儀をしてその場を後にした。
『カカ……七海よ』
『どうやら、AIにも魂というものが存在するのかもしれんぞ?』
『遥か昔……お主とこの議論をしたのが懐かしいの~』
『叶うなら…………ワシももう一度、お主に会いたいわい――母上』
『すまんの』
***
――3月31日 早朝。
"ワールド:日本" 消滅期限、最終日。
凪とセレス、二人が手をつないで立っている。
「セレス。怖いか?」
『あはは、凪さんらしくありませんね』
『いいですか?』
『結果はすでに決まっています』
『ゲーム開発は、完成した時点で勝敗が見えているんですよ』
『だから――今日、私たちは勝ちます!』
『私に二言はありません!』
「おい! パクんなよー」
「それ、アタシの決め台詞だろ~?」
「…………」
「――ぷっ」
『あはは!』「だはは!」
二人は決意を確かめるように、繋いだ手にギュッと力を込めた。
震えるほど強く――互いの温もりを逃さぬように。
「よっし! いくぞっ!」
『はい!』
―第32話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
ついに……ついにやってきました!
ワールド消滅、最終日!第一部クライマックス突入
そして今回気合を入れて、ワイド版の挿絵になります!
二人が歩んできた道の集大成
もちろん、二人が隣同士で顔を見合わせているシーンです
が!!!
この画像の二人の視線の先にあるもの――それは「読者の皆様」でもあります
そんな意味も込めさせていただきました。
是非とも一緒に、見届けていただけますと幸いです!
では!第32話でお会いしましょう!




