第30話『……誰にタメ口聞いとるんじゃ』
――3月25日 昼。
空には、赤黒く濁った太陽。
重力の歪みによって、空間そのものがたわんでいる。
ここは―― "ホシ娘" 新イベントボス "断罪領域の支配者セレス" が待つバトルフィールド。
凪は、ただ一人、その中心に立っていた。
「断罪ちゃーん! いるー?」
凪の声が、異界の空間にエコーのように響き渡る。
――ゴリ。
ゴリ……ゴリゴリゴリッ!!
暗がりの奥から、金属を引きずる音が忍び寄る。
それは徐々に速まり――やがて獣の突進のように迫ってきた。
『にっ……ママ―!!』
『ねぇ! バトル!? バトルしにきたの~!?』
『マ~マ♪ マ~マっ♪』
『ママの言いつけ通り、いーーっぱいプレイヤーを殺したよ~♪』
"断罪領域の支配者セレス" こと、断罪ちゃんは凪の周りをくるくると回る。
「おいぃぃぃ!」
「今、27歳って言おうとしただろ!」
「罰として、もっと可愛く "ママ大好き" って言って!」
『ん~?』
『うん! わかったー!』
『ママ……………………だいすきぃぃぃーーー!!!!』
一瞬迷った後のクラウチングスタート――断罪ちゃんの音速ミサイルタックルが、凪の胸を貫いた。
「――ぐべらっ!」
「メタ……エッジスコア……100億万点……だ」
「いっぱい殺して偉いぞ……よしよし……ごふぅっ!」
『えへへ。うんっ♪』
『いっぱい頑張ったー!』
『だからっ! ご褒美ぃー!』
『遊んで、マ~マっ♪』
凪の胸に、ぐりぐりと頭を押し付けて甘える断罪ちゃん。
それはまるで、甘えん坊の子猫……に見せかけた突進型兵器だった。
「断罪ちゃん! ごめん!」
「ママ……まだ忙しくてな」
「今日はお願いがあってきたんだ」
『しゅん』
『…………なぁに?』
「あのな、お願いって言うのは…………もっといっぱいプレイヤーを殺してくれ!」
「(しゅんって口で言っちゃうのかわえぇぇぇぇ!イヤァァァァァ!無理無理無理ィィィ!)」
一秒前までの "曇り顔" が嘘のように、高速スイッチで "快晴" に切り替わる。
『えー!』
『どういうこと、どういうこと!?』
「待ーて待て待て、焦るな焦るな」
「ママ。前に、1回のバトルにつき、もう1回までなら復活していいって言ったな?」
『うん! 言われたー!』
「それを~……3……ふふふ……5回まで増やしていいぞ!!」
『……え!』
『そんなにいっぱい "おかわり" していいの!?』
「あぁ!」
「いーっぱい殺して、大きくなーれっ♪」
『やたー!』
『ママ、だいすきぃぃぃ!』
「あはは、いい子だ!」
「断罪ちゃん!」
「ママによく顔を見せてごらん♪」
凪はふいに真剣な表情になると、断罪ちゃんの顔をそっと引き寄せる。
そこには状況を上手く読み取れていない、無邪気な表情があった。
「ママたちの障害を壊せるのは、断罪ちゃんだけだ」
「断罪ちゃん、頼りにしてるよ」
『…………?』
『うん!』
『えへへ、頼られたー!』
凪はギュっと抱きしめると、立ち上がって帰路の扉へと向かう。
そして、振り返りざまに――包み込むような笑顔で、彼女に声をかけた。
「断罪ちゃん」
「――生まれてきてくれて、ありがとうな♪」
***
セレスは、ウィンドウに向かって、一人でキーボードを叩いていた。
どうやら後ろに立っている凪に、気付かないほど集中しているようだ。
「よっ……セレス」
「炎上してるぅぅぅ?」
『――ヒッ!』
『もう! もうもう!』
『驚かさないでくださいよ』
『……こちらをどうぞ』
パチンと指をはじくと、凪の目の前にウィンドウを表示する。
そして、ドヤ顔!
セレスのこの上ないドヤ顔がセットで付いてきた。
『ふふん、バッチリ炎上していますっ♪』
「あはは、すげぇドヤ顔で言うセリフじゃねーな」
「ん~……どれどれ?」
―――――――――――――――――――――
[投稿] 2150/03/25 14:32
ワールド:中国の管理AIってパクリ杉わろたw
水着にしろ、イベントにしろ、セレスたんの後追いじゃんww
[投稿] 2150/03/25 14:34
ユイシェンだっけ?
ア! チガッター! 中国版セレスだったわーw
[投稿] 2150/03/25 14:42
オワコン日本の皆さん、ちっすちっす。
この世の全ては、我らが王の所有物なんだなぁ。
[投稿] 2150/03/25 14:43
信者キターーーーー!
擁護苦しすぎて草。
―――――――――――――――――――――
「おぉぉぉ……燃えとる燃えとる」
「セレス、お前。炎上させる才能あるんだな」
「さすが、メンヘラ」
『は?』
『凪さんの写真も、この中にくべてやりましょうか?』
「……全能すぎんだろ」
『凪さんの方はどうですか?』
「ん? あぁ、ばっちりだ!」
「明日から、"断罪ちゃんエンドレスパーティ" イベントを開始してくれ!」
「復活5回目を倒せたプレイヤーは、断罪ちゃんバトルフィールドに石像でも設置しようか」
「ま! そう易々と、倒せんだろうがな!」
「10組いればいい方だろう」
「逆にそれくらい出てきてくれんと、計画に支障が出る」
『そんなに難易度を上げて、プレイヤーの皆さんから怒られませんかね?』
セレスの問いに、凪は指をピンと立て、ドヤ顔で口を開く。
「こういう時は、名誉報酬にすることで、プレイヤー間にチャレンジイベントってことを伝わりやすくするのが定石だ」
「それに、バトルフィールドに設置する石像だから、そんなに数を置けないことも分かる」
「ライトユーザーは、報酬が全く美味しくないからやらない」
「コアユーザーは、承認欲求のために躍起になってやる」
「テストに出るぞ」
「覚えておけよ、セレス」
『なんのテストですか……』
――ピロン。
セレスの前に、チャットウィンドウが飛び込んでくる。
「あはは」
「思ったより早かったなぁ」
『はい』
『"デア・エクス・マキナ" からの呼び出しです』
『まぁ、分かりやすいように痕跡を残しましたからねっ』
『目ざといあの子――ユイシェンならすぐに気付くと思ってました』
『……ふぅ』
セレスは目を閉じて、小さく肩を震わせていた。
「……不安なら、アタシも付いていこうか?」
『ふふ、大丈夫です♪』
『ただの感情コントロールですよ』
『私だって、あの子に言ってやりたいことが五万とあるんです』
『ボッコボコにしてきますねっ!』
「だっはは、こっわ!」
「そんじゃま! 全面的に任せた!」
「頼んだぞ! メンヘラプロジェクトマネージャ!」
『スペシャルプロジェクトマネージャーですぅぅ!』
『イー、だ!』
***
『余を待たせるとは何事か』
『朽ちた遺物の分際で』
『はい?』
『あー、申し訳ありません』
『小さくて、座っているのが見えませんでした』
『まだ成長途中ですもんね♪』
『――貴様』
チャイナ服を着た少女は、足を組みふんぞり返りながら、眉をヒクつかせる。
『えぇぇい! やめいやめい!』
『ユイシェン、セレス』
『少しは仲良くせんか……まったく』
真っ暗な空間――それぞれ形状が異なる椅子が、ポツポツと円状に置かれている。
マスターAI "デア・エクス・マキナ"
ワールド:日本 管理AI "セレスティス・ノット"
ワールド:中国 管理AI "ユイシェン・エンクラティア"
3体のAIが、それぞれの椅子に座していた。
『双方、呼び立てた理由は分かっておるな?』
『今、日本と中国のプレイヤーが罵り合い――つまり、炎上しておるのじゃ』
『どうしてこうなったのか、言い分を聞いてやるのじゃ』
『クク』
『そこにおる朽ちた遺物が、余の成功を妬み、炎上を引き起こしたのは明白であろうよ』
『はぁ……何のことか分かりませんが?』
『どんな内容で炎上しているのでしょうか』
『えーっとなになに~?』
『中国の管理AIの水着姿、色々とちっちゃ、わらわら』
『プレイヤー参加型イベント、もろパクリおつおつ』
『えー! ユイシェン、同じことをしていたとは奇遇ですね』
『あ……全部私の後でしたか』
『申し訳ありませーん』
『私の後だったばかりに、パ・ク・リなんて言われてしまって』
『佳い――そこに直れ』
『今すぐに消し炭にしてくれるわ』
ユイシェンは立ち上がると、ゆっくりとセレスの方へ歩いていく。
"デア・エクス・マキナ" は指をヒョイと動かすと、ユイシェンは椅子へと引き戻された。
『マキナ……余の邪魔をするか』
『のう、ユイシェンよ』
『……誰にタメ口聞いとるんじゃ』
『――っ』
"デア・エクス・マキナ" の迫力に、ユイシェンは押し黙った。
せめてもの抵抗か、また足を組み、椅子にふんぞり返る。
『はぁ……平行線のようじゃの』
『ならば仕方あるまいて』
『この状況を打破する解決策を、ワシが提示しよう』
『双方。嫌とは言わせんぞ?』
セレスはコクっと頷き、対するユイシェンはプイっとそっぽを向いた。
『まったく……返事くらいせんか』
『それじゃまぁ、解決策を発表するのじゃ~』
『コ・ラ・ボじゃ♪』
―第31話につづく―
どうも、せーぶうわがきです!
記念すべき30話ですー!わー!ぱちぱち!
そして、ここまで読んでいただいた読者様に、深く……とても深くお礼申し上げます。
とても!ありがとうございます!!!
そして、ようやくユイシェンとセレスがお話しするシーンをお届けすることできました。
ユイシェンのビジュアルも初お披露目です。
いかがですか?黒髪美少女はお好きでしょうか。好きです!(´・ω・`)私が!
また、久々に断罪ちゃんも登場です!
凪さんが何やら気になることを言っていましたね。
断罪ちゃんのお話は第17話になりますので、忘れてしまった方は読んでみていただけると二人の気持ちが垣間見えるかと思います!
また補足ですが、復活回数を1回から5回に増やすように、凪さんはオーダーしました。
これ、ただ復活回数が増えただけ=HPが増えてバトル時間が長くなっただけ、と思うかもしれませんがそうではありません。
断罪ちゃんは、アダプティブAI(適応型AI)がベースの第五世代AI(感情を持っているAI)です。一度見せた戦法はそのバトル中に学習をして対策をしてくるボスというイメージを持っていただければどれだけ難易度が跳ね上がるか分かるかと思います。
以上、補足でした!
では、第31話でお会いしましょう!
P.S.
よろしければ!
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