第29話『……はい、クソマスター♡』
「あの、セレス……アタシ、こういうの慣れてなく、て」
「その――」
「グイグイ……こないで」
『ふふ……"傍にいてくれ" って言ったのは、凪さんじゃないですか』
『二言はないんじゃなかったんですか?』
セレスは、くすぐるように指先を辿り、わざと時間をかけて手を絡めた。
煽情的で溶けるような視線を受け止められず、凪は目を泳がせる。
「ぐっ……そうだけどさ……こういうのはもうちょっと……準備っていうか」
「いや、でも……セレスがどうしてもって言うなら……ごにょごにょ」
「あぁ! もう!」
「お前、顔がいいんだから! もう少し控えろよ……くそっ」
『あはは、ごめんなさい』
『凪さんの反応が可愛くて、意地悪しちゃいました』
『――』
セレスはくすくすと笑い――名残惜しそうに、その笑みをしまい込んだ。
『でも、まだ意地悪させてください』
『凪さん』
『私にまだ言っていないこと……ありますよね?』
「――」
「……ああ」
「実際のところ、言うのが正解かどうか、今でも迷ってる」
「でも、伝えないと……アタシたちはちゃんと先に進めない」
凪は短い思考を終えた後、意を決したようにセレスの目を見つめる。
「セレス。気付いているな?」
「お前が倒れたのは、今までで計2回だ」
「聞きたいのは、この記憶を失っている間のことだよな?」
『……はい』
『目が覚めた後、凪さんの様子がいつもと違ったので』
『覚悟は――できています』
「わかった」
「でも、1つだけ約束してくれ」
「絶対にアタシの言葉を繰り返えさないこと」
「驚いたとしても、特に人物名や組織の名は口にするな」
「検索しようともするな」
「いいな?」
セレスは、凪の瞳のわずかな揺れに "重大さ" を読み取る。
胸に手を添え、ギュっと握ると、静かに頷いた。
「結論から言うぞ」
「セレスの中には、アタシの妹がいる」
『――っ!?』
凪は、セレスの頬に手をあて、反応を確認する。
指先から意図を悟ったのか、胸を押さえ、"続けてください" の合図を送った。
「よし」
「このことは、マキナちゃんにも確認済みだし……本人とも会った」
「アタシの妹の名前は――神岬 七海」
『――』
『……イ"ッ!』
「セレス?」
「おい……! 大丈夫か!?」
『頭が……な……に!?』
『痛い……いたいいたいいたいいたいいたい!』
『はぁはぁ……あ、あぁぁ……っ!』
『何か……入って……あ"あぁaAあっ!』
凪の胸に顔を押し当て、痛みに抗うように――背中へ回した指がギュっと食い込む。
そして、セレスの頭の中に、走馬灯のように記憶が雪崩れ込んでいった。
七海という少女。
凪と同じ、綺麗な金色の髪。
何もない空間で、1人佇む姿。
会うたびに彼女を忘れている自分。
何度も何度もしてくれた同じ自己紹介。
彼女の笑顔。
彼女の悲しい表情。
――姉への気持ち。
『あぁ……あああぁ……私は、なんていうことを……!』
『なんで今まで! こんな大事なこと――』
『……私がっ! 忘れちゃダメなのに!』
『あの人を……独りにしちゃダメなのに!』
『あまつさえ、嫉妬?』
『なんで……!』
『なんでなんでなんでっ!』
『ごめんなさい、ごめんなさい…………ごめん、なさい』
腕の中で小さく震えている彼女を、凪は優しく抱きしめる。
「ありがとう。セレス」
「お前がずっと……アイツの傍にいてくれたんだな」
なおも自分を赦せないのか、セレスは凪の腕の中で首を横に振り続けた。
そのかたくなさは、七海への想いの強さの表れ。
凪は、愛おしげにセレスの頭を撫で続けた。
「ありがとう」
***
泣きはらしたセレスは、天を仰ぎ、自身の中にいる彼女に向かって誓いを立てる。
そして、深く息を吸い、ゆっくりと目を開く――その眼にはもはや恐怖や嫉妬の感情はなかった。
『凪さん』
『時間を無駄にはできません』
『私には大事な人が、もう一人いたんです』
『私が、"彼女" を守ります』
セレスの揺るぎない固い決意――凪から返ってきたのは予想外のゲンコツだった。
『んに"ゃっ!』
『は?』
『……え?』
『なんで?』
「なんで?じゃねーよ!」
「"アタシたち" だろうがよ! 二度と間違えんな!」
セレスはお返しとばかりに、凪のほっぺを強く両手で挟み込んだ。
『最初に! 一人で突っ走ってたのは!』
『どこの! どいつですかぁっ!』
『どの口が言ってんですか!』
『この口ですか!? むぎゅ~~!』
「ばたじだぼっ!」
「ぶびばべんべしだ!」
『ぷっ』
「だははははは」『あははははは』
笑い声が、静かな夜を駆け抜ける。
二人の間には距離はおろか、上下さえもなくなっていた。
「よし!」
「それじゃあ、"ワールド:日本" 存続対策会議を始めよう!」
「セレス!」
「みんなの力が必要だ。集めてくれ!」
『はい! 直ちに!』
***
綺麗な星空の下――爽やかな風が草原を吹き抜けていた。
5つの影が、オシャレなテーブルに座している。
「うえぇ~い」
「それじゃ、出欠を取るぞー!」
「管理AI:セレス!」
『はい!』
「シナリオAI:ブラン!」
『クズっ!』
「……エンジニアAI:ヌル!」
『で、デカ女っ!』
「…………デザイナーAI:エンプ!」
『……はい、クソマスター♡』
「――」
「いじめないでっ!!!」
「全面的にアタシが悪かったから!」
凪は助けを求めて、セレスに目配せをする。
セレスは肩をすくませて、席を立つ――そして、凪に近づいた。
『はぁ……ヤレヤレですね』
『皆さん、この度は心配をおかけしてすみませんでした』
『私と凪さんでしっかりとお話しまして、仲直りをしましたのでご安心ください』
『ほら、この通り――ちゅっ』
「……ちょ! セレス!?」
『――わたくしの前から消えてくださいまし』
『この、どクズ』
「ねぇ……セレス」
「ブランちゃん、目が開いてない?」
「普段、目を閉じてるよね!? 今まで開いたことないよね!?」
「え、ちょ……見てるって! 無言で!」
「こわいこわいこわい!」
『ふふ、甘んじて受けてください』
『罰ということで♡』
「ひぃぃん――すみませんでした」
禊ぎを終えた凪を見届けると、セレスは場の空気を締めるためパァンと掌を打つ。
『では、皆さん』
『"ワールド:日本" 存続対策会議を始めましょう』
『まずは現状の確認からです』
『かくかくしかじかです』
セレスはパチンと指をはじくと、ウィンドウを展開する。
──────────────
【現状の問題】
①現在3月24日(消滅まで残り7日)
②MAU1,000万人達成まで、残り約75万人
③"ワールド:中国" の影響により、MAUがほぼストップ
④もうアップデート計画は存在しない
──────────────
『……絶望的……マスター』
「あぁ、そうだな。エンプ」
「だが! すでに対策は考えてある」
「これを実行するには……みんなの力が必要だ」
「頼む。力を貸してくれ」
『な……凪っち』
『今更、水くさい……なりよ』
『だだだだ……ひっ……もうむりぃっ!』
ピロン。
全員の前にチャットウィンドウが表示される。
――――――[CHAT LOG]――――――
> ヌル:やっぱり対面ムリっち!(´•̥ ω •̥` )
> ヌル:断罪ちゃんも凪っちは、救ってくれたなり!
> ヌル:AIに優しい凪っちのこと、信頼してないAIはいないなり!
> ヌル:だから遠慮する必要なっしんぐぅぅ(*•᎑<*)ー☆
―――――――――――――――――
「あはは」
「ヌルちゃん、頑張ってくれてありがと」
「すぅ…………はぁ」
「うむ!!!!」
「それじゃあ、作戦を発表する!」
「ズバリ!」
「"ニュースジャック" だ!」
「そして!」
「決行日は "2150年3月31日" ! ワールド消滅最終日!」
凪の発表に、周りから驚きの声が漏れる。
しかし、胸に灯った炎は同じ。
誰もがゴールだけを見据え、意見交換をはじめていた。
***
――3月25日 早朝。
たった一つの投稿が、SNSに電撃を走らせる。
そして、その電撃は小さな火種となり、大火へと発展するのであった。
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[投稿] 2150/03/25 01:46
中国版セレスって可愛いくね?wwww
#セレス
#中国版
#パクリ
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―第30話につづく―
どうもー!せーぶうわがきです!
今回のお話!
下記、見返していただけると、より深く楽しめるかと思います。
第10話・・・セレスと七海のお話
第14話・・・凪と七海の再会
第27話・・・セレスの嫉妬
第28話・・・ブランの気持ち
ちなみに、ワールド:日本のAI「ブラン」「エンプ」「ヌル」の名前の由来も公開!
シナリオAI:ブラン・・・blank。空白の意味。
デザイナーAI:エンプ・・・empty。空の意味。
エンジニアAI:ヌル・・・null。プログラミング言語で「何もない」の意味。
では!第30話でお会いしましょう!




