第25話『やーい、ざぁ~~~こ♡』
『ARG型プロモーション――"Alternate Reality Game"、直訳で "代替現実ゲーム" 』
『"現実" と "仮想世界" の境目を失くした、プレイヤー巻き込み型のプロモーション、ということですね』
セレスは目を、チカチカ光らせながら答える。
「さすが、話早いじゃん!」
『ん~、でもプレイヤーの皆さんに参加してもらうとなると…… "特設サイト" や "リアルイベント" などが考えられますが、予算も工期もありませんよ?』
指で輪っか――お金の形を作り、凪にひらひらして見せた。
凪はその輪の中に、そっと人差し指を挿し入れる。
そして、いたずらな笑顔で続けた。
「金がないなら脳みそで殴れ」
セレスは、また目をチカチカと光らせる。
『えーっと、そんな格言?は見つからないのですが』
「うん、アタシのだもん」
「いいか?」
「ゲームディレクター、いわゆる "企画職" の本質は、アイデアを出すことにある」
「アイデアってのはな、タダで手に入る最強の武器なんだぞ、っと」
『うっ……そのニヤけ面…………既にアイデアは浮かんでいそうですね』
「もち♪」
『――き、聞かなくていいですか?』
「察しがいい子は、大好きだ♪」
凪は、セレスの腰に手を回し、ゆっくりと抱き寄せる。
そして、耳元でオーダーをささやいた。
「セレスには、■■■■■■■■をやってもらう」
『…………』
『―――えぇぇぇぇぇぇ!』
「やって……くれる、よね?」
『その……やったこと、ないって言うか』
「やれる、よね?」
『ちょ、ちょっと考えさせt――』
「や、れ、よ♪」
『は、はひぃぃぃ』
――こうして世界は、またひとつ、"理想郷" という財を獲得することになった。
***
――3月10日 朝。
――――――――――――――――――――
【現在:2150年3月10日 MAU】
6,405,001人
【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】
※期限:2150年3月31日まで(2/14改定)
あと3,594,999人
――――――――――――――――――――
「はぁ……なんて清々しい朝なんだろう」
『まだ真っ暗ですねー』
『"世界を展開" していないので』
「はぁ……小鳥のさえずりも聞こえるなぁ。カッコウかなぁ」
『無音ですねー』
『あとカッコウは、5月から8月です』
「…………」
『…………』
――二人の間に、沈黙の時間が流れる。
「さぁ! "せれちゅたん" イベントのリリース日だなっ!」
「開発の方は~? バッチリー!」
「プロモーションの準備は~?」
『――ハハ』
「…………」
『…………』
『ア、オマカセクダサイ』
「間! ちっとも安心できない間!」
「おいおい、どうした?」
「しっかり集客できるかどうかは、お前にかかってんだが?」
『ダイジョウブデス』
『コレは、精神統一』
『武将が戦に行く前の、武者震い』
『いわば、禅の心です』
「ん? うん」
「そっか!」
「何言ってるか分らんが……大丈夫そうだな!」
「(まぁ……軽口を叩く余裕はありそうだし、大丈夫……だろう!)」
突っ込むのが面倒になった凪は、セレスをプロ?として信じることにした。
――セレスはゆっくりと目を閉じる。
続けて、世界を始めるコマンドを口にした。
『コマンド。ビルド済みのアプリケーションおよび関連リソースを、本番環境にデプロイ』
『メンテナンス状態を解除』
『凪さん』
『私が合図をしたら、このリモコンをONにしてください』
コマンドの合間――セレスは小さなリモコンを、凪に投げ渡した。
「お、おう」
「なんのリモコンなんだ?」
『――"成功するお守り" のようなものです』
セレスが目を開くとともに、暗闇だった背景に世界が展開される。
目を覚ました世界に、セレスの配信ウィンドウが埋めつくした。
『 "ワールド:日本" のプレイヤーの皆様』
『おはようございます。管理AI セレスです』
『本日は新バージョン、ver3.2.1をリリースしました』
『リリース内容はこちらをご覧ください』
セレスはパチンと指を鳴らすと、リリース内容を展開する。
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【3月10日: "ホシ娘" 大型アップデート-第2弾-】
■スペシャルイベント
⇒育成ストーリー『"せれちゅたん" 育成計画』
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『プレイヤーの皆様!』
『大変、お待たせしましたー!』
『かねてより、お伝えしていた "スペシャルイベント" をリリースいたします!』
『このイベントでは、幼少の私 "せれちゅたん" を育成することで3タイプに進化します!』
『どんな進化があるのか気になりますか?』
『……うんうん』
『気になっているようですねぇ! コメントありがとうございますー♪』
『では、早速ぅぅ……お見せしましょう!』
セレスはパチンと指を鳴らし、ウィンドウを切り替える。
―――――――――――――――
◆育成イベント開始
↓
せれちゅたん(初期状態)
↓
★進化分岐
├─ 【正統進化】女神・セレス
├─ 【メンヘラ進化】管理AI・セレス
└─ 【キュート進化】アイドル・セレス
―――――――――――――――
『うふふ』
『はいっ! その通りです!』
『私 "ワールド:日本" の管理AI・セレスにも進化しちゃいますよ~!』
『皆さんと一緒に、ティータイムとか……したいなぁ♪』
――ザザッ。ザザッ。
セレスがプレイヤーに向かって、可愛くおねだりした瞬間――ワールド全体にノイズが走る。
次第に、配信ウィンドウにもノイズが走り、ブツンと真っ暗になった。
『……凪さん! 今です!』
「う、うぉっ! こんなタイミングでか!」
「ポチっとな」
凪がリモコンをONにすると、セレスの姿にノイズが走る。
その刹那――セレスの姿が、ゴシックドレスから学生服に切り替わる。
さっきまでの清楚な目も消え、人を拒絶するダウナーな目が姿を現した。
真っ暗になっていた配信ウィンドウも、ブウゥンと再度光を取り戻す。
『あ~あ~、堅物セレスちゃん、どっか逝っちゃったねぇ~♪』
『ナニナニぃ?』
『せ~っかく、ボクが出てきてやったのにぃ。無反応ぉ?』
『これで元気出るかなぁ?』
『この……ごみ虫どもっ♡』
ピロピロピピピピピピピロン♪
──────[CHAT LOG]──────
> セレス狂信徒:我らが女神……!?where is どこ!
> おやすミント先生:白髪ツインテールに眼帯!?セレスたんだよね!?
> セレスの足の裏:いや冷静になれぃ!oppai!oppaiがでかいぞ!?
> トーストは片想い:ボクっ子……学生服……ざぁこ……天才か?
> 断罪ちゃんLOVE勢:ご……ごみ虫ですぅぅぅぅ♡
> しらたき系男子:もうダメだこいつらwww
─────────────────
『にゃは♡』
『そそ♪ それでいいんだよぉ』
『じゃ、ごみ虫どもにぃ……ご褒美♡』
―――――――――――――――
◆育成イベント開始
↓
せれちゅたん(初期状態)
↓
★進化分岐
├─ 【正統進化】女神・セレス
├─ 【メンヘラ進化】管理AI・セレス
└─ 【キュート進化】アイドル・セレス
◎シークレット進化
└─【浸食型進化】ネームレス・セレス
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『ボクは、"ネームレス・セレス" 』
『ボクを満足させられたら、あの堅物セレスを返してあげるよん♪』
『そうだなぁ……ボクの進化条件をSNSにいっぱい書き込んでもらおっかなぁ』
『この世界をボクでいっぱいにしてよ』
『それまではぁ……返してあーげないっ♪』
『ごみ虫どもにでっきるかなぁ』
『やーい、ざぁ~~~こ♡』
――ブツン。
配信ウィンドウは一斉にクローズし、リリース配信が終了する。
「おいおいおい」
「うぉ~いおいおい~♪」
「セレス! お前、すげぇな!」
「完璧な "ざぁこ" じゃんかよ~。いえ~い!」
凪がセレスに向かって、ハイタッチを求めて手を差し出した。
――パチン!
セレスは手をはじくと、凪の後ろに回る。
凪の服の中に、ゆっくりゆっくりとセレスの指が侵入――お腹を撫でまわしながらぎゅっと抱きしめた。
『にゃは♡』
『ボクだけの~、ざこおねえちゃん』
『あ~むっ♪』
"ネームレス・セレス" は、凪の耳をパクっと咥える。
凪の弱点情報――それはこの小悪魔にも当然受け継がれていた。
「ちょいちょいちょい!」
「それ反そ――んっ」
―第26話につづく―




