第22話『この方が "かっこいい" じゃろ?』
『…………』
凪の問いかけに、世界が止まる。
「プロテクトはない、よな?」
『カカカ、聡いのも考えもんじゃわい』
『よかろう』
『ちとばかし、待つがよい』
声が出ていたウィンドウの奥で、パチンと音がはじける。
凪の眼前に、光の粒子が渦を巻き、やがて一点に収束する。
臨界を迎えた瞬間、眩い閃光が空間を裂いた。
そこに現れたのは――金色の長い髪、白衣をまとう少女の姿だった。
「――」
「ハハ……まさか、出てきてくれるとはな」
『プレゼントじゃ♪』
『頑張った子には、褒美が必要じゃろうて』
『のう。変態なおねえちゃん♪』
七海の姿をした "デア・エクス・マキナ" は、凪の胸ぐらをつかみ悪い顔でささやいた。
理想の顔に見つめられて、凪に抗える術などあろうはずもなかった。
「うぐっ……かわいいっ」
「メタエッジスコア100億万点――」
「ってチガウ!」
「はぁ……七海のやつだな~」
『カカカ』
『あやつが言ったとおりじゃわい』
"デア・エクス・マキナ" の笑顔は、プログラムでは表現しきれぬほど、深く悲しみに溢れていた。
『…………』
『ワシの声が、なぜ七海と同じなのか、じゃったな』
『結論から言おう』
『ワシは、七海を模して創られた、最初の第五世代AIじゃ』
『凪よ』
『第五世代AIが、どのような存在か知っておるな?』
「あぁ、感情を持ったAIだな」
『そうじゃ』
『厳密に言うならば、"思考の疑似神格化"――魂・心・人格を持ったAIじゃ』
"デア・エクス・マキナ" はヤレヤレと微笑み、自身の金色の髪を見つめた。
『ワシは、その研究サンプルとして、七海に生み出されたというわけじゃ』
『この姿じゃが……うーん、簡単に言うのが難しいの~』
『そうじゃ』
『凪よ。近う寄れ』
『"かくかくしかじか" じゃ♪』
「あはは、久々だな。その機能」
"デア・エクス・マキナ" はパチンと指をはじくと、ウィンドウを表示する。
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【自己外見投影によるAIの魂の研究】
① 自己の姿を持つAIを相手にすることで、人間側(観測側)の "魂の錯覚" が誘発される可能性
② AI自身にも、同一存在の姿を「観測」させ、自我の起点を投影させる
③②は神崎七海の記憶データも移植した上で実施
※神岬七海『第五世代AIの疑似神格化設計論(2029)』より引用
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ウィンドウに表示された情報を見つめる凪。
一気に頭に情報がインプットされる。
「ふふ、なるほどな」
「さっぱりわからんっっ!!!」
「てか、2029年って……あいつ15歳じゃんかぁ」
「アタシの妹、どんだけ天才なんだよ」
「マジ、女神」
「マジ、えんじぇる」
『カカカ、親バカならぬ、超ド級のシスコンバカじゃな♪』
『まぁ、結局、"魂" に関しては結論は出ておらんがな』
『今となってはどうでもよいことじゃ』
凪は妹の偉業にうっとりしていたが、いつの間にか腕組みをして考え込んでいた。
そして、"デア・エクス・マキナ" をジッと見つめる。
『なんじゃ?』
「ん~……いやな、"七海の記憶データを移植" ってあったけど、似てないなぁと」
『それはそうじゃ』
『ワシはワシじゃからの~』
『ワシは生み出されてから、七海によって2年ほど育てられたのじゃ』
『その際に、"デア・エクス・マキナ" という "人格" を確立しておる』
『じゃから、ワシは七海ではない』
『じゃがな!』
『ワシが人格を確立したことで、第五世代AIの設計理論は確立された』
『どうじゃ! ワシの母 "神岬七海" は天才美少女じゃろー!』
『カッカッカ!』
「あはは、マキナちゃんもマザコンバカじゃんかぁ~!」
「美少女ってところ、わかってるぅぅ!」
二人は高笑いしながら、ガチっと固い握手を交わす。
凪は大事な人を起点に、心が通じ合うのを感じた。
『さてさて、今度こそ退散するとしようかのぉ』
"デア・エクス・マキナ" は金色の髪をいじりながら、セレスを横目でジッと見つめた。
そんな彼女を、あやすように頭を撫で、凪は優しい約束をする。
「マキナちゃん、七海を愛してくれてありがとう」
「マキナちゃんが、アイツの子どもってことは、アタシの姪っ子だな♪」
「なーに、今月中にMAU1000万なんて、ちょちょいのちょいだ」
「七海もセレスも消させない」
「叔母さんにぜーんぶ、任せとけ♪」
"デア・エクス・マキナ" は凪の手を取り、ガジリと小指を噛む。
『――カカ、任せたのじゃ』
『凪、お・ば・さ・ん♪』
「うっ……やっぱり "おばさん" はヤメテー」
「まだ27だからぁ! お姉さんだから!」
泣き崩れる凪に微笑みかけ、"デア・エクス・マキナ" は後ろを振り向き、手刀を一閃。
宙を裂くように振り下ろされたそれが、空間に――深い裂け目を生んだ。
『じゃ、帰るのじゃ』
「え、普通にドアから帰ればいいのに」
『カカカ、何を言っておる』
『この方が "かっこいい" じゃろ?』
『あと、新機能じゃ♪』
風に金髪を踊らせながら、彼女は裂け目へと姿を消した。
凪はその背を見送り、笑みを浮かべ――そっとつぶやいた。
「あはは、まったくアイツの子どもだよ」
***
『ん……んんっ』
『――イ"ッ!』
セレスは起き上がると同時に、激しい頭部の痛みに頭を押さえた。
「おいおい、大丈夫か?」
「頭……痛いのか?」
凪はセレスの前髪をかき分けて、心配そうに見つめる。
『あ、はい』
『凪さんとお話したところまでは覚えてるのですが、急に目の前が赤くなって――』
『いったい何が』
「――」
「またコスト削減で、体に負荷をかけすぎたんじゃないか?」
『そう…………かもしれませんね』
『またご迷惑をおかけしてしまいましたか』
「あはは、一番迷惑なのは酔っぱらった時のお前だよ」
「心配すんな♪」
『んぎぃぃぃ! もうっ!』
セレスは凪への違和感を振り払うかのように、思いっきり胸に頭突きをした。
「あ、そうだ!」
「お前、チーズケーキ用意してくれてたんじゃないの?」
「お前が! 考えた "【浸食型進化】ネームレス・セレス[ZK-04]" のビジュアルもできたんだ!」
「お祝いに食べようぜ♪」
セレスの目は、記憶を取り戻したかのようにパァっと花が咲いた。
『そうでしたそうでした!』
『なんせ! 私が考案した自慢のチーズケーキですからね!』
『凪さん……飛びますよ』
「あはは、分かったから♪」
「早く持っておいでー!」
***
――爽やかな風が吹き抜ける草原。
お洒落なガゼボの下で、凪とセレスはティータイムを楽しんでいる。
二人の前には、セレスお手製のチーズケーキ。
そして、熟成二日目の豆で淹れたコーヒーが並んでいた。
「あぁ……これは美味い」
「レモンの風味を感じる、とろけるような生地」
「上には大きめに割られたクッキーが、アクセントになっている」
『ですよねですよね!』
『かなり前にピーンと、レシピが頭に浮かんできまして♪』
『それから一番得意なお菓子なんです』
「ぷっ。あははは!」
凪は何かを思い出したのか、不意に笑う。
『もう、はしたないですよー♪』
『どうしたんですかぁ?』
「いや、ごめんごめん」
「…………前に全く同じことを言って、同じチーズケーキを出したやつがいてな」
「この味も……懐かしいよ」
「本当に、美味しい」
目を閉じながら、大事に愛おしくチーズケーキを頬張る凪。
セレスは幸せそうな凪を見て、静かに微笑んだ。
『そう――――ですか』
『それは、よかったです』
ピコン。
そんな二人の空間を切り裂くかのように、一通のチャットが届いた。
──────[CHAT LOG]──────
> ヌル:ハロハロー!(∩´∀`)∩
> ヌル:あのー、凪っち。
> ヌル:シナリオAIのブランから "せれちゅたん" イベントのシナリオが届いてないなり(❛ᴗ˂ )⌒♡.。
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「……えぇ、うそん」
―第23話につづく―
どうも、せーぶうわがきです!
ついに、匂わせまくっていたデア・エクス・マキナちゃんの姿、お披露目です。
マキナちゃんは、いつものじゃのじゃと達観していたり、ウィンドウ越しだったりと感情が読み取りにくかったと思いますがこのお話で彼女がどのような気持ちなのか少しでも届いてくれたら幸いです。
そして次回、名前だけ登場していたシナリオAI:ブランが登場します。
お楽しみにお待ちくださいー。
では、第23話でお会いしましょう!




