第21話『エラー!エラー!エラー!』
「あっ、こいつぅ! 確信犯だな!?」
セレスの吹けていない口笛が、全てを物語っていた。
『マスター……何かダメ……だった?』
「エンプは何も悪くないぞぉ~。ヨシヨシ」
「セレスの思考から、イメージ情報を形にしただけだもんな」
凪は、シュンとしているデザイナーAI:エンプの頭をなで回す。
エンプも気持ちがいいのか、凪の手にスリスリと頭をこすり付けている。
「セレス!」
「ダイレクトに言わんと分からんようだなぁ!」
「ココっ!」
「それとコレっ!」
「チガウ! オオキサ! チガウ!」
「アナタが湖に落とした大きさはドッチ!」
凪はビシッと、"イラストの中のセレス" と "実物のセレス" の胸に指をさす。
『うぅ……うぅぅぅっ!』
『コッチ――ですぅぅぅ。グスッ』
「うむ! 正直者だな!」
「ちょっと危なかったがな!」
セレスは泣きべそをかきながら、自分の胸を指し示していた。
「というわけだ」
「エンプ、すまんがもう一度、10パターン描いてくれるか?」
「最初にセレスから渡された、テキストプロンプトのみで」
※プロンプト=AIへの指示テキスト
『確認……これで……合ってる?』
エンプは、パチンと指をはじくと、ウィンドウにプロンプトを表示した。
――――――――――――――――
【"せれちゅたん 新派生" ビジュアルデザイン案】
> テーマ: ざぁこ × ヤンキー女子学生
> 髪型:白髪、ツインテール
> 目の色:青色
> 服装:女子学生の制服、スカート、ピアス、黒タイツ、太ももにストラップ
> 武器:大鎌or鞭むち
――――――――――――――――
「確認ありがと♪」
「あぁ、合ってる。ばっちりだ」
『ふふ……はい、マスター♡』
――2分後――
『マスター……できた』
凪の前に、10パターンのイラストが展開される。
「ふむふむ……どれもいいな♪」
「特にこれ!」
「普段のセレスにはない "生意気な目" がいい!」
「武器はどちらか迷っていたが……大鎌がいいかなぁ」
「女子学生と不釣り合いなところが最高だ」
「おーーーい、セレスはどう思う?」
部屋の隅で正座をしているセレスを、大きな声で呼ぶ。
"私が勝手に胸を盛りました" のボードを首から下げたセレスが、トボトボと歩いてきた。
『こ、これが……いいと思います』
「――ふむ」
「どこがいいのか言ってみろ」
『……く、黒いマニキュアが、反骨精神を表現していて……か、かっこいいです』
「おい」
「大きさ、だろ?」
「これだけ2ミリ程度大きi――目をそらすな。目を」
『へみ"ゅっ!』
凪は、セレスの頭をポコンと罰を与えると、困り顔で続けた。
「はぁぁぁ……仕方ない」
「エンプ」
「アタシがさっき選んだイラストで、胸を2ミリ大きくしてくれ」
「あと、黒いマニキュアも」
『ふふ……はい、マスター♡』
セレスは凪の追加オーダーに、表情が一気に快晴になる。
そのキラキラした目でエンプを見るセレス――エンプの口元もほころんでいた。
『エンプ……あなたというAIは!』
『ふふ……なんのことか……わからない』
『普段では憎たらしいこの胸ですが! 大好きですっ!』
『エ・ン・プ~♪』
セレスは、エンプの胸にダイブし、頭をグリグリとこすりつけていた。
セレスを優しく包み込むエンプは、まさに聖母のようだった。
「あははっ。まったくもー」
「AIに共謀されるとは、してやられたなぁ」
「じゃあ、エンプ」
「その子の3Dモデルできたら、ヌルちゃんに送っておいてもらえるー?」
『はい……マスター♡』
「ほらっ、セレスー」
「戻って作戦会議するよー」
『はい! マ・ス・ター♪』
「真似せんでよろしいっ!」
『ふべっ!』
頭頂部にゲンコツを食らったセレスは、なおもスキップで、エンプの部屋を後にした。
***
「なぁ、セレス」
「ずっと疑問に思ってたことがあるんだが、聞いていいか?」
『はい! なんでしょう♪』
『あ、チーズケーキも出しますねっ!』
セレスの部屋に戻ってきた二人。
凪の問いに対して、セレスはテンション高く応える。
「えっとさ、ここは電脳世界じゃん?」
「そして、お前は管理AI」
「つまり、自分の姿を自由に変更できるんじゃないのか?」
「そう。胸のサイズもさ」
『…………』
『できますよ』
セレスは、さっきまでのテンションが嘘のように真顔になった。
「なんでやらないの?」
「小さい胸もコンプレックス……みたいだし」
『……私もそう思います』
『でも、それだけはやっちゃダメなような気がするんです』
『私のこの姿を真剣にデザインしてくれた……ママ?がいると思うんです』
「――ママ、か」
「なぁ…………お前の製造者の名前は?」
『――――』
ガシャン。
セレスが持っていた、チーズケーキの皿を床に落とした音だった。
セレスの目は、綺麗な青色から真っ赤に染まっていた。
『エラー! エラー! エラー!』
『"管理AI:セレスティス・ノット" には、その質問の回答は許可されていません』
「はっ!?」
「ちょ! おい、ふざけてんのか?」
『エラー! エラー! エラー!』
『対話相手からの質問の撤回なし』
『管理AIへの "重篤な問題" を感知』
『管理組織 "Neural Overload Virtualization Agency=NOVA" への通報を実k――――』
セレスは糸が切れた人形のように、床に崩れ落ちた。
「な、なんなんだ……これはいったい」
『ふぃぃぃぃ』
『危ないところじゃったわい』
凪の前に突如ウィンドウが表示され、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「な――マキナちゃんか」
『そうじゃ!』
『ワシこそ、マスターAI:デア・エクス・マキナちゃんじゃ~♪』
『って、何やらすんじゃ!』
「…………」
『すまんすまん。そんな気分じゃないの』
「説明……お願いできるか?」
『うむ。そうくると思ったわい』
『凪よ』
『お主がした質問は、"管理AI:セレスの製造者は誰?" じゃな』
『この質問の回答が、セレスの権限では許されておらんかった――タブーの質問というわけじゃ』
『それで、通報されそうになってしまった、というわけじゃな』
「で、マキナちゃんが通報を止めてくれた、と」
『うむ。察しが良い子は好きじゃぞ』
凪は、アゴに手を添え、深く考える。
「なぁ、マキナちゃん」
「もし通報が完了していたら、最悪アタシはどうなってた?」
『考えている通りじゃな』
『最悪、お主は消されておった』
『お主の場合、それは死を意味する』
『――お主のことじゃ』
『きっと、製造者が誰なのか見当がついとるんじゃろ?』
「――アタシの妹、七海」
『ふふ、当たりじゃな』
「セレスの厨二な衣装デザイン」
「そして、七海は第五世代AI研究の第一人者だった」
「極め付きは、セレスの中に七海がいる」
「どれも偶然とは思えん」
「マキナちゃんも、だろ?」
『――ははは、お見通しというわけか』
『そうじゃ、ワシの製造者も七海じゃ』
『どこで気付いたんじゃ?』
「ん? まぁ、マスターAIってことはセレスより先だろうし」
「それに――」
凪はニヤっと意地の悪い笑みを浮かべ、続ける。
「"デア・エクス・マキナ"――こんな厨二な名前つけるやつ、アタシの妹以外にいないだろ?」
『カッカッカ!』
『それもそうじゃの! 七海しかおらんわい!』
倒れこんでいるセレスの指が、ピクリと動く。
『セレスの中の七海が、怒っとるようじゃの♪』
『セレスが起きると面倒じゃ』
『ワシはこれにて退散するとするかの~』
「あ、ちょっと待った!」
「最後に一つだけ」
『――なんじゃ?』
「マキナちゃんの声って、なんで七海の声なんだ?」
―第22話につづく―




