第20話『うちのセレスたん、天才かよって感じ』
『――き、気に入ってませんし』
『ダメならダメって、言ってもらって結構ですので』
ふわふわのツインテールをいじりながら、セレスが上目遣いでチラチラと見てくる。
「おい、セレス」
「言ってることと、態度が一致してねぇんだよ」
「"ワンチャンある!" みたいな顔しやがって」
「ねぇよ! 1ミリもねぇよ!」
『あははは、そうですよねっ!』
『では、こちらで進めましょうか♪』
「待て待て待てーぃ!」
「ブフッ! 強引に行こうとすんな」
「なんでも可愛さでゴリ押しできると思いやがって!」
「なーいーの」
「NO」
「ダメ」
「はい、ここからは通行止めでーす」
セレスの笑顔はフリーズしたまま、動かない。
このまま固まって、再起動が必要になるんじゃないかと思ったその瞬間――ぽとり、と雫がこぼれ落ちた。
『…………ひんっ』
「おーー、よしよしよしよし!」
「わしゃわしゃわしゃ!」
「行けると思っちゃったな! みんなが褒めてくれたんだもんな」
『プレイヤーの皆さんがぁ! ひぐっ』
『ごみ虫どもって言うと……えぐっ……喜んでくれてぇぇ』
「うんうん、分かるよ」
「初めて顔出しして、初めて自分で作った言葉でチヤホヤしてくれたんだもんな」
「嬉しかったよなぁ。よしよし」
『ひぃぃぃぃぃん』
「(こいつの泣き方……ギャグ漫画みたいだなぁ。言わんとこ。草)」
***
「……落ち着いたか?」
『――あ"い"っ』
「(納得いってねー! なんならまだワンチャンあると思ってやがる)」
プイっとそっぽを向いたセレスを見ながら、凪はディレクターとしての次の一手を考えていた。
「(……まぁこいつはこいつなりに、一生懸命考えて出した案だもんなぁ)」
「(ディレクターとして無下にするわけにもいかんか……仕方ない。やるか!)」
――パァン!
凪はセレスの顔の前で、大きく手を叩いた。
『に"ゃっ……!?』
「よし! セレス、こうしよう!」
「新しい派生先の名前は、お前の案を元にアタシが練り直す!」
「お前の案を元にな!」
「で、どうだろう」
「お前が考えた子だ! ビジュアルも案出ししてくれないか?」
「採用された暁には、お前が "ママ" だ!」
『私が……ママ』
「そうだ! お前がママになるんだよっ!」
凪の最後の一押しにセレスの曇り顔は、一気に快晴になる。
"ママ" という言葉にここまで反応するとは、凪は予測していなかった。
『はい! はいはいはいっ!』
『凪さん! はーい!』
「うむ、そこの元気のいいセレスちゃん! どうしたー?」
『私! やりますっ!』
「やれんのぉぉ!?」
『やれまぁす!』
「よーし! 任せたぁぁぁ!」
『うっわぁぁぁい♪』
「(ちょ、ちょれーーー!)」
凪はセレスを落ち着かせるように、頭をなでながら話を続ける。
「それじゃあ、2日後に見せあいこしようか」
「"せれちゅたん" もリリースまで最終調整が必要だったし」
「私も新しい派生先の、追加仕様を考えなきゃならん」
『はい! わっかりました!』
セレスは元気いっぱいに敬礼をし、そそくさと自分の部屋に走っていった。
「はは……かわいいやつ」
――2日後――
2150年3月4日 午後1時。
"せれちゅたん" の新しい派生先の名前、そして、そのビジュアル案を見せ合う約束の日。
「……おい、セレス?」
『…………』
セレスの目が、チカチカと光り続けている。
そして口からひとすじの雫がこぼれる。
「おい、ヨダレ!」
「…………どんだけ集中してんだよ」
『あ、ごめんなさい……じゅる』
『ちょっと捗っちゃいました』
「捗るて……」
「ビジュアル案はできたか?」
『はい! バッチリです!』
「よーし! それじゃあ、見せあいっこバトルだな!」
「まずは、セレスから見せてみろ!」
『はいっ!』
セレスはパチンと指をはじくと、ビジュアル案をウィンドウ表示した。
――――――――――――――――
【"せれちゅたん 新派生" ビジュアルデザイン案】
> テーマ: ざぁこ × ヤンキー女子学生
> 髪型:白髪、ツインテール
> 目の色:青色
> 服装:女子学生の制服、スカート、ピアス、黒タイツ、太ももにストラップ
> 武器:大鎌 or 鞭
――――――――――――――――
「…………」
凪はウィンドウに目を見開いて、固まっていた。
『あの…………またダメ、でした?』
「い、いや……悪い」
「なんというか、後頭部を殴られたような気持ちだ――」
『えっ! 頭打ったんですか!? 痛いんですか!?』
セレスは凪の後頭部を、心配そうにサスサスと撫でる。
「天然セレスたん、あざといぃぃ!」
「……いやな、まさかここまでの案が出てくると思わなくてな」
「びっくりした」
「うちのセレスたん、天才かよって感じ」
「てっきり、ゴテゴテのボンテージで、鞭を持ったのとか提案してくると思ってたんだがな」
『えへへ……いっぱい勉強しました』
セレスは目をつむって、凪にワシャワシャされていた。
――ご満悦の表情である。
「これなら、アタシの "派生先の名前案" とも相性がよさそうだ」
「ズバリ!」
「"【浸食型進化】ネームレス・セレス " だ!」
『浸食型……ネームレス……!』
セレスは目をキラキラさせながら、気に入ったワードを繰り返していた。
「フフフ……セレス、あわてるな」
「お前のビジュアル案を見て、ピーンときたんだ」
「ちょっと耳かせ」
「~~~~」
『…………はぅ!』
セレスは、変な声を漏らしながら、パチンと指をはじきウィンドウに表示した。
――――――――――――――――
【浸食型進化】ネームレス・セレス[ZK-04]
――――――――――――――――
『――か、完璧です』
『まるで、オムライス+カレー+ハンバーグのような完璧さ』
「分かってるじゃないか。"美味しい+美味しい+美味しい=最強" 理論だ」
「そして、お前、厨二好きだもんな」
『はい…………あ、いえっ!』
『好きではないですが!?』
「その服装で言われてもなぁ……ゴシックドレス、眼帯」
「眼帯もファッションだもんなぁ」
『し、仕様なんですが!?』
「はいはーい」
「それじゃあ、エンプのとこ行くぞー」
『ちょ! 話は終わっ――』
***
『あの……エンプ、何やってるんですか?』
『読み取ってる……セレスの頭……イメージ』
「(……いいぞぉ、もっとやれぇ)」
セレスを後ろから抱きしめている、デザイナーAI:エンプ。
そして、その光景を恍惚と見ている凪。
――三者、謎の地獄絵図がそこにあった。
『んっ……えっとぉ!』
『ビジュアルイメージのプロンプトは、テキストで渡しましたよね!?』
『く、首筋嗅がないでぇ……んんっ』
※プロンプト=AIへの指示テキスト
『…………元気…………いる』
『最近……セレス……来てくれなかった』
『…………寂しい』
「セレス、アキラメロン」
凪の無慈悲な一言に、セレスは心の扉をそっと閉めた。
『元気…………でた』
『イメージ情報も……読み取った……一応』
『マスター……描いていい?』
「ああ、頼んだ!」
「とりあえず、10パターン描いてくれ」
『……はい、マスター♡』
およそ2分後、凪とセレスの前に、生成されたイラストが10パターン表示される。
『できた…………どう?』
「――」
「おぃぃぃぃ、セレス!」
「やってくれたなぁ!」
『ぴゅーぴゅぴゅっぴゅー♪』
『エー、ナンノコトデショウ』
―第21話につづく―
どうも、せーぶうわがきです!
記念すべき第20話!ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!
さてさて、挿絵にてセレスちゃんの眼帯がないことお気づきでしたでしょうか。
セレスちゃんの眼帯は、設定上何か秘密が隠されてるわけではなくただのファッションになります。
はい、実は第4話にて、セレスが凪にボッコボコに泣かされたシーンで、眼帯を外しておりましたw
ですがこのファッションというところ、覚えておいていただけるとわたくしとても嬉しいです。
また、セレスの提案に凪がびっくりして「後頭部殴られたみたいだ」って言っていましたが、こちら私が本職でよく言う誉め言葉になります。
デザイナーやエンジニアなど、クリエイター陣に依頼をするとき、ある程度「こんな感じ」というイメージを持っております。
その予想を超えて、いいモノが出てきた時に使う言葉ですね。
もちろん、初めて聞いたクリエイターは「?」の顔をしますw
では!第21話でお会いしましょう!




