第2話『ゲーム開発なめてんの?』
「おーい、そこのメンヘラファッションのナビちゃん?かな」
「ここってなんのゲームなんだ?」
大きめのTシャツに下着以外なにも履いていないであろう女性が、ポリポリと気だるげに頭を掻きながら近づいてくる。
『グズっ……誰がメンヘラファッションですか』
ぐしゃぐしゃの顔から、スッと無表情に切り替えるセレス。
『私はこの 電脳世界 "ワールド:日本" を管理するAI。セレスティス・ノット』
『通称セレ――』
「え、大丈夫か?」
「涙と鼻水でべしょべしょだったけど落ち着くまで待つぞ」
「メンヘラは無理しちゃだめだ」
「ほら、ゆっくり深呼吸して……待ってるから」
気だるげな女性は、本気で心配そうに覗き込んでくる。
『私はこのワールドの管理AIです!』
『メンヘラでもありません!』
『そして、あなたが聞いてきたのでしょう!』
「おほっ、感情表現が豊かなAIだこと」
「そういうことであれば、続けてどうぞ」
ピクっと眉を跳ねさせたセレスは続ける。
『ここにはユーザーは入れないのですが、どうやって入ってきたのですか?』
『あと、どなたですか? IDを提示してください』
パチンと指を鳴らし、気だるげな女性の前にウィンドウを開く。
「……ID? 普通、初期登録からだろ?」
やれやれ、というジェスチャーをしながら答える。
『は? ハッカーが、何をとぼけてるんですか』
『サイバーセキュリティに突き出すので、ここに情報を入力してください』
『非協力的だと、罪が重くなりますよ』
『もう、世界を始めないといけないのでさっさとしてください』
パチンと指を鳴らすと、個人情報の入力欄にウィンドウ表示が切り替わる。
「やれやれ……変わったチュートリアルだなぁ」
「しかも、このナビ、ヘラってて言ってることわからんし」
「はぁ……開発者の顔が見てみたいとはこのことだ」
気だるげな女性は愚痴を漏らしながらも、入力を済ませる。
セレスは怒りを抑えながら、入力された情報をインプットするコマンドを口にする。
『INSERT』
『姓名:神岬 凪』
『個人ID:不明』
『勤務先:株式会社エッジストリーム・エンターテインメント』
『職業:ゲームディレクター』
『――ゲームディレクター?』
『それに、株式会社エッジストリーム・エンターテインメント……』
セレスの目が、文字通りチカチカ光る。
「おーい、大丈夫かぁ?」
「進行不能バグか?」
「個人情報入力させて、固まると怖いんだが」
「まさかどこかに流出させて――」
気だるげな女性――もとい、凪はセレスのほっぺをぷにぷに触り始めた。
『――おい、ほっぺを触るな』
セレスはペチっと、凪の手を払う。
「(感情……安定しないなぁ)」
『んんっ……ええ、進行不能バグでも個人情報流出でもないのでご安心を』
『あなたの個人情報に引っか……検索していただけです』
『で? あなた、どういう冗談ですか?』
『株式会社エッジストリーム・エンターテインメントは2077年4月に廃業しています』
セレスは、凪に "WikiMachina" という情報サイトのウィンドウを展開した。
「……ん? こえーよぉ。どんなチュートリアルだよ」
「今は2032年7月だろ? この前、5月にセミが鳴き始めただろぉ?」
ダルダルのTシャツの裾をつかんで、身構えながら応える凪。
『――は? 今は2150年ですが』
『…………』
『……………………いやいや、まさか』
セレスの推論エンジンが与えられた情報を元に、ある仮説を提示する。
セレスの目が、またチカチカと光り始める。
「おーい、やっぱりバグか? なんかバグのトリガー踏んじゃった?」
そう言いながら、凪はセレスの頭をヨシヨシした。
『――』
『……えっと、神岬 凪。株式会社エッジストリーム・エンターテインメント所属』
『自らが企画した処女作 "妹これくしょん~異世界妹育成計画" が大ヒット』
「……頭はOKなんか。」
頬が赤らむが、セレスは続ける。
『若干22歳にして新進気鋭の天才ゲームディレクターとして脚光を浴びる』
『雑誌記事のデータもありますね』
「おー、5年前のアタシのインタビューかぁ」
「はは、偉そうにろくろ回してんなぁ」
凪は雑誌に写っている写真のポーズの真似をする。
『……どういう原理かわかりませんが、過去からこの世界にアクセスしているみたいですね』
『凪さん、あなたには未来とも呼べますが』
「…………」
『…………』
二人の間に沈黙の時間が流れる。
「マj――」
『はい』
予測してましたと言わんばかりに、セレスが凪の言葉を遮り、肯定する。
「どうやって戻ったr――」
『さぁ?』
「これからどうしy――」
『とりあえず、私の仕事を手伝ったらいいんじゃないですか?』
セレスが置かれている "ワールド:日本のKPIの低下" と "凪の経歴" 。
セレスの推論エンジンがこの答えを導き出すのは、至極当然、一瞬だった。
「仕事?」
「……う~ん」
「………………ま、いいっかぁ」
「うん、おっけーおっけー。で、仕事って何?」
長い沈黙の後、凪はあっさりと気だるげに了承した。
『え、いいのですか? ノリで攻めてみましたが……』
ようやく頭に置かれた手を払いのけるセレス。
「もう決めた。アタシに二言はないよ」
「どうせ元の世界に戻っても待ってるやついないし――」
「ま、とにかくおっけー。戻り方わからないし、ヒマだし」
「キミも困ってるみたいだし、ね」
「――泣き虫AIちゃん、ふふ。」
『セ・レ・ス! です!』
「はーいはい。セレスちゃん」
「とりあえず、仕事内容を聞かせてみな」
セレスの頭をポンポンしながら要求する。
『かくかくしかじか、です』
まんざらでもない表情をしたセレスが事情を説明する。
「いや、めっちゃかくかくしかじかって言ったな」
「表示されたウィンドウを眺めてたら、頭に入ってきたからいいけどさ」
「どういう原理だよ」
『……2150年の電脳世界ですよ?』
「それ言っておけば、なんでも通ると思ってるだろ」
「ま、使えるもんは使うけどさ」
『はっ……! 時間を取られすぎました!』
『世界を始める時間です!』
『そのまま体験してもらった方が早いので、とりあえず "ホシ娘" をプレイして感想をください』
そう言うと、セレスは目を閉じ、世界を始めるコマンドを口にする。
『コマンド。ビルド済みのアプリケーションおよび関連リソースを、本番環境にデプロイ』
『メンテナンス状態を解除』
セレスが目を開くとともに、暗闇だった背景に世界が展開される。
文字通り、世界が目を覚した。
『 "ワールド:日本" のユーザーの皆様』
『おはようございます。管理AI セレスです』
『本日も新バージョン、ver2.3652.12をリリースしました』
『リリース内容はお知らせをご確認ください』
セレスは無表情にアナウンスをする。
「おー、すごいな」
「じゃあ、アタシも "ホシ娘" とやらをプレイしに行くかなぁ」
「そんじゃ、セレスちゃん。また後でー」
―10分後―
「あのさー、セレスー」
「ゲーム開発なめてんの?」
さっきまでの気だるげな表情からは想像できない、場が凍り付くようなトーンで凪は言い放った。
―第3話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
初回投稿に限り、2話まで投稿させていただきました!
今後は1ヵ月は毎日1話ずつアップさせていただきたいと思います(●´ω`●)
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そりゃもうドンドコドンですよ(●´ω`●)




