第15話『んぎいぃぃぃ…………ウッ』
セレスは、世界が展開されると同時に "カメラON" にした。
一片の迷いもない――否、曇りきった死んだ魚の目のツインテール少女が映し出される。
『"ワールド:日本" のユーザーの皆様』
『おはようございます』
『管理AI セレスです』
ピロン……ピロピロピロン……ピロン♪
ぎこちない通知音が鳴り響く。
─────[CHAT LOG]─────
> 眠り姫@午前二時:み、水着……だと!?
> 虚数れいな:あぁ……ただの天国か……女神よ。
> おやすミント先生:せれちゅたん!?どうした!ww
> もっちり餅きんぐ:水着とテンションが一致してないwww
> ぬるぽ民:我らが日本の女神は……迷走しておられる。
> 空飛ぶサバ缶:なんか……かわいそうになってきたなw
───────────────
「(はぁ……ヤレヤレ)」
「……おい、セレス」
「カンペだ。これを読め」
こうなることが分かっていたように、凪は一枚のカンペを差し出す。
そのカンペを見るや否や、セレスの顔は一気に青ざめた。
『……な、凪さん!?』
『私にコレをやれと!?』
「いいか? 仕事だ」
「お前の本気を見せてみろ。プロだろ」
『……な、なんのプロですか!』
『んぎぎいぃぃ――』
言葉とは裏腹に、ニヤニヤ顔を隠しきれていない凪。
そんな彼女を呪いつつ、セレスは意を決したようにゆっくりと目を閉じる。
『…………』
『あはは、嘘ですよー!』
『"ワールド:日本" の皆さん、心配かけてごめんなさい♪』
『いつも "カメラOFF" だったので、まだ慣れてないんです』
『なので、大目に見てもらえると嬉しいなっ!』
『てへぺろこつーん★』
『…………なーんちゃって』
セレスの迫真の演技に、チャットウィンドウは静寂に包まれる。
『(死にたい――!)』
セレスは真っ赤になった顔を、手で覆い隠す。
─────[CHAT LOG]─────
> 白猫みるく:やばwww
> 終末のあやめ:メンヘラ女神せれちゅたん誕生!
> おやすミント先生:なんなんこの可愛い生き物wいやAIw
> しらたき系男子:恥ずかしいんかいwww
> ぬるぽ民:皆の者……これが我らが日本の女神……すこるのだ。
> 一番弱いボスです:せ・れ・ちゅ! せ・れ・ちゅ!
───────────────
セレスが顔を覆い隠すと同時に、チャット欄が萌え上がる。
「……おい、セレス」
「お許しが出たぞ」
「……いけいけ、ほら。パンチ、キック」
凪の謎の応援――指示にセレスは、真っ赤な顔を引きつらせながら続ける。
『み、皆さーん、ありがとうございます~♪』
『ここで皆さんに重大発表です!』
『来る2150年3月1日に…………ワールド:日本大人気の "ホシ娘" を大型アップデートしまーす!』
『この大型アップデートはこちらを予定しております♪』
セレスはパチンと指をはじくと、大きなウィンドウを表示する。
───────────────
【3月1日:大型アップデート内容】
①新イベント:協力型バトルイベント
②新しい育成モード
③管理AIセレスとのコラボ
───────────────
大型アップデート内容を展開すると、一気にチャット欄がざわつき始める。
『そう! 今回は私、セレスが "ホシ娘" とコラボしちゃいます♪』
『ふむふむ。どんなコラボなのか、ですか』
『ふふふ……いい質問です』
セレスは再度、指をはじくと新ボスイラスト "断罪領域の支配者セレス" を展開する。
『協力型バトルイベントのボスとして登場します!』
『しかも、一定の条件を満たすと、仲間になるとのこと』
『仲間にして、育成して、ハウジングモードでお茶だってできちゃいますよ~♪』
『皆さんに会えるのを楽しみにしてますね♪』
『それでは、管理AIセレスからのお知らせでした!』
『あっ! そうそう』
『今回のこの配信は、アーカイブには残しませんので』
『……』
『駄々をコネてもダメですー!』
『恥ずかしいので。ダメって言ったらダメなんですー!』
『では、皆さん』
『3月1日に会いましょう♪』
そう言うと、セレスは配信を終了する。
そして、そのまま無言で自室へ入っていった。
「あはは……こりゃまた長そうだ」
***
『聞いてますかねぇ? 凪さーん』
『凪さんがぁぁ、この水着を着て、宣伝すればよかったんじゃないんですかねぇ?』
あれからしばらく経って、戻ってきたセレスは酔っぱらっていた。
日本酒であろう一升瓶を持って、ここ1時間くらい凪に絡んでいる。
「あのー、飲みすぎじゃないかなぁ? セレスちゃん」
「…………あとAIって酔うのかよ」
『聞こえてますらぁ……AIが酔っちゃいけないんですかぁ?』
『まーたAI差別ですかぁ』
『はぁ……これらから人類は』
『いいですかぁ? お酒を電脳化してぇ、仮想神経に流し込むことで酔いを体験できるんですぅぅ』
『これも、人類と友好関係を築くために、作られた "ぎじちゅ" なんですよぉ』
『飲まんとやってられんってもんですよ』
『凪さん! 今日は頑張ったんだからもっと甘やかしてくらさいっ!』
『そのおっぱいは何のためについてるんですか!』
セレスはそう言うと、凪の胸にドカッと頭を沈め、悠々自適に枕にした。
『なんなんですか! このふかふか!』
『それにこんな……スーハー……甘い……スゥゥゥ……匂いさせて!』
『私への当てつけですか!? 小さい私への当てつけですか!?』
『――』
『だぁぁれが小さいですかっ!』
『んぎいぃぃぃ…………ウッ』
「おい! AIが吐くのかわからんが、もうやめとけ!」
「頑張った! セレスちゃんはめっちゃ頑張った!」
「偉い! 天才! かわいい!」
「あとの仕事はアタシに任せておけ」
「なっ、はい! おやすみ~」
――次の日――
『えっと、その……昨日は、大変申し訳ありませんでした』
凪の前で女神ともてはやされた管理AIとは思えない――美しい土下座にて許しを乞うていた。
「あ、セレスさん」
「大丈夫ですよ。昨日はお楽しみでしたね」
「仕事は全部しておきましたので、気にしないでください」
『よそよそしくしないでくださいっ!』
『あと、その笑顔もやめてください!』
「あはは、ウソウソ」
「セレス、それよりMAUを見てみな♪」
――――――――――――――――――――
【現在:2150年2月16日 MAU】
5,005,009人
【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】
※期限:2150年3月31日まで(2/14改定)
あと4,994,991人
――――――――――――――――――――
※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるユーザー数
「どうだ! ざっと38万人程度増えてるぞ」
「2月14日にバイラルマーケティングを始めて、初日約10万人増」
「これはもはや現象と言ってもいいレベルだ」
『え、こんなに!?』
『水着を着て、告知しただけなのに……』
「もちろん、お前の可愛さと、告知内容が良かったってのもある」
「が、肝は配信の最後の一言だ」
「覚えてるか?」
「"この配信は、アーカイブには残しません" って言ったの」
『はい、覚えてます』
『後で聞こうと思っていたのですが――』
「"スノッブ効果" だ」
「"希少性に価値を持たせる効果" だな」
「アーカイブしないと伝えたことで、自分だけが知ってるとお前の水着姿に価値を見出した」
「きっとプレイヤーがすかさず保存した、画像や動画が出回ってるんじゃないかな」
セレスは青ざめた顔で、目をチカチカと光らせた。
どうやらネット検索――エゴサーチをしているようだ。
『…………』
『…………はぅ』
セレスの顔はみるみるうちに赤くなり、手で顔を覆った。
「ふふ、その様子じゃ、正解だったようだな♪」
『……もうお嫁にいけません』
「AIだろ」
『…………はぅ』
凪は、赤面しているセレスの顔をむにゅっと挟み、目を合わせる。
「さぁ、セレス!」
「宣伝は大成功だ!」
「あとは、情報を小出しにしていきつつ、このまま開発をガンガン進めるだけ!」
「ここからは "リリース日の3月1日" まで、一気に行くからな!」
「あ、セレスは引き続き宣伝もな♪」
『……ひんっ』
――3月1日 早朝――
暗闇の中、セレスと凪は顔を見合わせる。
「セレス、ついにこの日が来たぞ」
『はい』
「なんだよ。緊張してんのか?」
『いえ。この数週間、凪さんの開発を見てきましたから』
「ならばよし!」
「さぁ! "ホシ娘" 大型アップデートのリリースだ!」
―第16話につづく―




