第11話『絶対に守ってやる』
マスターAI "デア・エクス・マキナ" の一言により、ウィンドウに表示されていた期限が1年減少する。
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【現在:2150年2月14日 MAU】
4,525,009人
【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】
※期限:2150年3月31日まで(2/14改定)
あと5,474,991人
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※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるユーザー数
凪とセレスは、視覚的にも現実を叩きつけられた。
『ちょ、ちょっと待ってください!』
『いきなり1年も短縮される理由がわかりません――!』
最初に口を開いたのは、セレスだった。
セレスは、"デア・エクス・マキナ" の声が出ているウィンドウに向かって必死に訴える。
『……すまぬ』
『そんな――』
温度差のあるその一言で、セレスはもう覆ることはないのだと、膝から崩れ落ちた。
戦意を失ってしまったセレスを見て、凪が一歩前に出て口を開く。
「やぁ、はじめまして――かな? "デア・エクス・マキナ" ちゃん」
『――――神岬 凪、じゃな』
『2077年4月に廃業した "株式会社エッジストリーム・エンターテインメント" で、2025年から2032年まで活躍したゲームディレクター』
『認知はしておる』
「……」
「はは、さすがマスターAI。話が早くていいね」
「あのさ、さすがに説明くらいあってもいいんじゃないかな?」
「セレスたちは、自身の消滅……再構築?もかかってるんだからさ」
『……そう、じゃな』
『簡単に言うと、"ワールド:日本" に将来性がない、と判断されたからじゃ』
『そして、その原因は "管理AIセレスのワールド自治失敗" によるものと結論付けられた』
『これは、ワシの上の存在、管理者権限を持っている組織:NOVAによる決定じゃ』
『ワシには、どうすることもできん』
凪は少し考えて、また口を開く。
「ふーん……いいね」
「つまり、そいつらの鼻っぱしらをへし折ってやれば、決定は覆るってことだな?」
『簡単に言うが、残りは約1か月後』
『奇跡でも起こさんかぎり、無理なレベルじゃぞ?』
「奇跡、ね……」
「あははっ! その奇跡を呼び込むのもゲームディレクターの仕事なんだなー、これが♪』
「マキナちゃん、よく聞きな!」
「ゲームディレクターはね、諦めがとーっても悪い人種なんだ」
「あと1か月? 上等じゃーん!」
「よーく、見てなよ~? あっはっはー♪」
凪は暗くなった雰囲気を一気に吹き飛ばすように、高笑いしながら宣言した。
『…………ふむ、やはり』
『ならば、ワシから言うことはもう何もないの』
『凪よ。1か月後、楽しみにしておるぞ』
「はいはーい」
『…………』
『……凪。そやつのこと、頼んだのじゃ』
『ワシの――大事な、友だちなんじゃ』
「あぁ、分かってるよ」
最後にセレスに聞こえないような小さな声で、"デア・エクス・マキナ" と凪は約束を交わし、ウィンドウはぷつんと消えた。
「んで、セレス」
「いつまで座り込んでんの?」
セレスと目線を合わせるように、凪もゆっくりと腰を下ろし問いかける。
『…………』
『……本当に、できるんですか?』
「セレス。アタシの目を見な」
セレスは、力なく凪の目を見た。
きっとセレスの推論エンジンが無理だと告げているのだろう。
「セレス」
「最初にも言ったが、アタシに二言はない」
「やると言ったことは、絶対にやる」
「お前を消させない、って言ってるんだ」
「アタシが」
「分かるな?」
『……』
セレスは、"どうやって?" と問いかけそうになった。
しかし、その声は喉の奥で留まる。
胸の奥――心に刻まれた、ある言葉がそれを止めていた。
《何があっても、おねえちゃんを信じて》
理屈は分からない。
だが、この言葉が胸の奥で響いた瞬間、勇気が湧いてくるのを感じる。
『はい……はいっ!』
目元にあふれた涙が一粒、ぽたりと頬を伝う。
けれど、その瞳にはもう迷いはなかった。
揺るぎない、決意の光が宿っていた。
そんなセレスを凪は、優しく抱き寄せ、自分にも言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「絶対に守ってやる――絶対に」
***
「んで、セレスー」
「聞いてるか?」
『……んぐっ……んーんー』
凪はこれからの戦略を、セレスに説明していた。
しかし、セレスは声にならない声を漏らしながらもがいている。
それは、異様な光景だった。
『んー!』
『……ぷはっ』
『もう! 嫌味ですか!?』
『こんな大きな脂肪の塊を! 長時間押し付けて! 嫌味なんですか!?』
『マシュマロですか!?』
セレスはやっとの思いで、凪の胸から顔を引っこ抜くと、怒りを露わにした。
手だけは動いている。
「えー、泣き虫セレスちゃんをあやしながら、説明してたんだろ~?」
「感謝されこそすれ、怒られるのは筋違いじゃないかぁ?」
『んありがとうございますぅぅ! ほんとうにぃぃ!』
「あと、セレス……重要なことだから言っておくぞ」
「アタシはな。ぺったんこが好きだ」
『おい』
『取り消せよ。今の言葉』
今にも凪をDELETEしそうな目だった――。
凪は無言で土下座をした。
それは堂に入った見事な土下座だった。
『はぁ……埋もれていてよく聞こえなかったので、もう一度説明をお願いします』
『今後の戦略、でしたよね』
セレスは、凪の肩をトントンと叩き、発言を許す合図を送る。
「ありがとうございます」
「今後の戦略ですが――」
『普通に!』
「ハイ!」
「……ん"ん"っ」
「あー、今後の戦略だが、セレスには客寄せパンダになってもらう」
「もちろん、大型アプデの前宣伝としてな」
「宣伝方法はズバリ!」
「"バイラルマーケティング" だ」
凪はピンと指を立て、セレスに提示する。
『"バイラルマーケティング"……口コミによる宣伝方法ですか』
「あぁ、今ある武器は――」
「セレス、今から言うことをウィンドウに出して」
『あ、はい!』
セレスはパチンと指を鳴らすと、凪が言ったことをウィンドウに表示した。
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【今ある武器】
①管理AI:セレスの可愛い容姿
②まだ一度も姿を見せたことがない
③ワールド:アメリカの管理AIの配信切り忘れによる容姿への期待感
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『ちょっと、①は納得いきませんが続きをどうぞ――』
セレスはジト目で続きを促す。
耳が赤くなっているのを、凪は見逃していなかった。
「――うむ」
「口コミの拡散力は、情報の強さによって変わる」
「ここまで条件が揃っているんだ」
「拡散力もかなり高いと期待できる」
「そして、現在1日50万人程度のユーザーがログインしているな」
「難しい計算は置いておくが、この50万人が、1日に1.5人に拡散したとする」
「すると――」
セレスはすかさず、指を鳴らし、ウィンドウを切り替える。
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【バイラルマーケティングの拡散予測】
※前提:1ユーザー=1日1.5人に拡散
0日目→50万人
1日目→75万人
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5日目→370万人
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10日目→2,800万人
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「計算ありがと」
「んで、そのうち10%来てくれたらいい方だろう」
「つまり、2,800万人で280万人が、ログインしてくれるって計算だ」
「これだけでMAU800万人は突破する」
「大型アプデ開発は、ヌルちゃん曰く、15日だからちょうどいい日数だ」
『……なるほど。納得です』
『それで、私はいつから姿を見せたらいいんですか?』
「うーん……まだ日数はあるし、明日からだな!」
「なんて挨拶するのか考えておけよ?」
『は、はい……わかりました!』
「あ、そうそう、セレス」
「カメラはどうやって、ONにするんだ?」
『あ、それはですね――』
セレスは余裕がないのだろう。
教える必要もないのに、流されるまま、凪にカメラONの仕方を教えた。
教えているさなか、アラームが鳴りだす。
『あ! 今日の世界を始める時間です!』
「おう、頑張ってな」
『……? あ、はい!』
セレスは目を閉じ、世界を始めるコマンドを口にする。
『コマンド:メンテナンス状態を解除』
セレスが目を開くとともに、暗闇の背景に世界が展開される。
『 "ワールド:日本" のユーザーの皆s――』
「ポチっとな!」
凪はセレスの前にあるコンソールのボタンを、言葉の通りポチっと押す。
カメラONのボタンだった――。
いつも静かな "ワールド:日本" のワールドチャットが一気に火を噴く。
――――――[CHAT LOG]――――――
> 白猫みるく:え?
> 終末のあやめ:は?
> 眠り姫@午前二時:せ、セレスたん……?
> 空飛ぶサバ缶:なんだこの白髪ツインテール美少女!!!
> 虚数れいな:セレス様ー!神!ktkr!!!hshsprpr
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ピロピロピロピロン♪
通知が鳴りやまない――。
セレスは騒がしい通知音に、一瞬止まり、すべてを理解する。
そう――自分の姿が全ユーザーに公開されていることを。
『え……ちょ! えーーーー!!!』
―第12話につづく―




