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AI少女とゲームクリエイターの世界創造日記 〜AI少女を愛した開発者はアタシです〜  作者: せーぶうわがき


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10/20

第10話『……残念な知らせじゃ』

「……スちゃん」


「――セレスちゃん。起きて」



 甘い――ふんわりと包みこまれるような声が、セレスの思考領域へと侵入してくる。

 その声がどこからしているのか、セレスはゆっくりと辿っていく。


 深く――深く落ちていく。



 真っ暗な空間を漂っていると、ようやく1つの光の球体と巡り合う。



『これは……?』



 光の球体に触れると同時に、辺り一面が柔らかい光に包まれる。


 目を開け、足元を見下ろすと、セレスは水の上に立っていた。




「おかえり、セレスちゃん」

「――いや、はじめまして、かな?」



挿絵(By みてみん)



 声の主が目の前にいる。

 しかし、セレスからは逆光になっていて、顔はおろか姿もほとんど見えない。


 かろうじて見えたのは、金髪の女性が静かに椅子へ腰を下ろし、光の海に溶け込むように佇んでいる姿だった。


 その姿は、現実とも幻ともつかない――けれど、どこか懐かしささえ感じさせた。



『……あなたは?』

『ここはいったい――』



「――」

「私は七海(なみ)神岬(かみさき)七海(なみ)


「ここは……そうだねぇ」

「すごーく簡単に言うと、セレスちゃんの心の中……かな」



『神岬……?』


『凪さん……?』



「ぴんぽん、ぴんぽーん♪」

「神岬 凪は、()()()()()()()()



 神秘的な空気をまとっていたはずの彼女は、ふいにあどけない笑顔を見せた。



「ねぇ、おねえちゃんは元気?」

「お仕事、無理してない?」

「ごはん、ちゃんと食べてる?」


「私がいないと、服も着替えないんだよ~」

「はぁ……心配」



 (せき)を切ったように、質問が止まらない。

 どうやら、興奮しているようだ。



『ちょ……ちょっと、待ってください!』



「……あ、ごめん」

「困らせちゃったね」



『い、いえ。ちょっとびっくりしただけです』

『えっと……凪さんには、今、お仕事を手伝ってもらっていまして――』



「うんうん♪」



『その……頼りにして、います』

『親身になって、助けてくれます』


『あ、でも、ちょっと変な人です』



「えへへ、わかるぅ♪」

「おねえちゃん、頼りになるでしょ~。あと、かっこいい!」


「変態なところも大好き♪」



 目の前にいる彼女は、えへん、と胸を張って自慢してみせた。

 


 けれど、その()()()()()()()()()()()()()、静かにこちらへ顔を向ける。


 

 光の中で揺れるその瞳は、どこか寂しげで――セレスの心に深く焼き付いた。



「ふふ、セレスちゃん」

「私のおねえちゃんってすごいんだよ」


「……小さい頃ね、お父さんとお母さん死んじゃってさ」


「おねえちゃんがずーっと1人でさ」


「大学まで出してくれたんだぁ」


「毎日のごはん……可愛いお洋服…………仕事で疲れてるのにずっと笑ってくれた」


「私はそんなおねえちゃんが…………大好きで大好きで大好きで」


「なにひとつ……不自由、したことなくてさぁ」



「――」


「おねえちゃんは――私にとっての、ヒーローで」



「なのに……私は」

「……何も」


「天才……」

「聞いて……飽きれるよね? あはは」


「118年も……待つことしかできなかった」


「…………」



『あ、あの……』



 セレスは、おそらく涙を流しているであろう彼女に手をかけようと近づく。



「……あぁぁぁぁ!」

「ごめん! 今のなしなし!」


「大丈夫っ! もう元気な七海ちゃんだよ♪」

「えへへ、私もセレスちゃんをギュってしたいけど、()()()()()()()()()



『あ…………はい、わかりました』



 なぜかわからないが、その言葉には抗えない何かがあった。



「すー……はぁ……」


「よし!」

「セレスちゃん!!!」



『あ、はい!』



「一つ任務を与えます!」



『……はい!』



「これから先、()()()()()()おねえちゃんを信じて」

「そして、おねえちゃんが折れそうな時は、支えてあげて」



『ささ、える……?』

『あの……どうしたら』

『あと、二つ…………です』



「あはは、セレスちゃん、細かいことは言いっこなしだよ~♪」

「うーん、そうだなぁ……まぁ、その時がきたら自然と体が動くよ♪」



「結局、()()()()()()()()()()ようにしてあるから」



『え……忘れる?』



「おっと、時間だね」

「これ以上は、アイツらに勘づかれちゃう」



『え! あの、まだ聞きたいことが――!』



「じゃあね。セレスちゃん」

「また、ここで待ってるよ♪」


「あと、プレゼントもあるからお楽しみにね――」



 彼女の意味深な言葉とともに、目の前が光に包まれ意識がブツりと途切れた――。



 ***



『待って! なm――!』



 言葉が出てこない――。

 何の言葉を発しようとしたのか、誰に向かって言うべき言葉だったのか分からない。


 分からないが、何かとても大事なことだと、胸にしこりが残った。


 そんなことを考えているうちに、ふと気づく。

 顔が、柔らかな何かに包まれていることに。


 あたたかくて、やさしくて――。



「えっと……イル、ヨ?」



 柔らかな何かから顔を引き抜き、声の発する方に目をやる。


 凪の困った顔が、すぐそこにあった。

 ――近い。



『んなっ!?!?』

『な、なな、なんでいるんですか!?』



 理解不能な状況に、猫のように凪から飛び退く。

 そして、顔を包んでいた柔らかい何かは、()()()であることを悟り、悔しさで反射的に身構えた。



「えぇ……」


「えっと……新イベントボス "断罪領域の支配者セレス" のバトル設計ができたから、ヌルちゃんに送ってー」


「で、疲れたから横になってたら、セレスが入ってきてー」


「セレスから布団に潜り込んできてー」


「なう」



 凪は、コトのあらましを身振り手振りで、丁寧に説明した。



『そ、そんな…………理解不能、です』

『この、私が……甘えんぼ設定、だったなんて』



「え……今までだいぶ、甘えんぼだったよ?」



『…………』



 セレスはゆっくりと歩きだし、ドアの前で立ち止まる。



『凪さん』

『電脳世界なので、ごはん食べなくても大丈夫ですよね』


『さぁ、仕事をしましょうか』



 セレスの顔が見えない。

 が、怒っていることだけは分かる。



「わ、ごめんごめん!」

「メンタル的に! メンタル的にごはん食べないと元気でないから!」


「ごはんをお願いします!」

「我! ごはん! 所望……!」



『…………(ニコッ)』



 セレスは振り向くと、笑顔を凪に向ける。



「せ、セレスたん……!?」

「(理不尽メンヘラすぎる……!)」



 ***



「はぁ……美味しかったぁぁぁ」

「セレス、よくアタシがオムライス好きって分かったね」


「しかも、卵が甘いやつ」



『あ、そうだったんですね』

『なんとなくで出してみたのですが、お口に合ってよかったです――』


 本当になぜ、オムライスを出したのかわからなかった。

 無意識に()()()()()と勝手に決めつけていたのだ。



 セレスの高性能な推論エンジンをもってしても、答えは出なかった。



「さて! お腹もいっぱいになったし、ゲーム開発の続きをやろうか!」



 凪はパンと手を叩き、場を締める。



『あ、はい!』

『それで、今日は何を?』



「今日は開発に入る前に、()()()M()A()U()を常にボードで表示してくれ。」

 ※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるユーザー数


「達成したときに、ちゃんとみんなで喜びたいからな♪」



『わ、分かりました』



 セレスはパチンと指をはじくと、ウィンドウに現在のMAUを表示する。


――――――――――――――――――――

【現在:2150年2月14日 MAU】

 4,525,009人


【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】

 ※期限:2151年3月31日まで


 あと5,474,991人

――――――――――――――――――――


「改めて見ると、消滅ってすごいワードだな……」

「気合入れて頑張らんと」



 凪が気を引き締めると同時に口を開いた――その瞬間。


 二人の前に一つのウィンドウが現れる。



『セレス……残念な知らせじゃ』



『え、"デア・エクス・マキナ" ?』

『どうしたのですか?』



 マスターAI "デア・エクス・マキナ" は続ける。



『"ワールド:日本" の消滅までの期限が、()()1()()()()までとなった』



 唐突に無慈悲に告げられる、死の宣告が二人の前に静かに響いた――。



「は?」『……え?』



―第11話につづく―


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