第5話 盗人にも三分の理
東西東西──(とーざいとーざい)!
盗人にも三分の理──
盗られる方にも三分の油断がある。
ましてや天の宝蔵とあらば、その油断は宝の山より高く、雲より分厚い。
稲光の中、二郎真君の剣がうなりを上げる。
その一振りは山を割り、銀河を断つ。
まともに受ければ五右衛門とて灰も残らぬ。
だが──刀は抜かれない。
五右衛門は宝棚から一つの珠を指先で弾いた。
千年龍の吐息を封じた“龍珠”が、空気を裂き、蒼い嵐を巻き起こす。
二郎真君の外套が翻る。
「宝に手を出すか!」
「盗人が宝を使わずにどうする。」
嵐に乗って、五右衛門は影へと溶けた。
次に姿を現したのは真君の背後。
だが剣が瞬時に振り返り、閃光が迫る──。
五右衛門、もう一つの宝を掲げた。
時を逆転させる“時の輪”。
光刃が迫る瞬間、時間が一拍だけ巻き戻る。
振り下ろされた剣は、まだ構えの途中に戻っていた。
「真っ向勝負は剣士の理。
人の裏を突くのが、盗人のルールよ。」
その隙に五右衛門は棚奥の黒壺を開け放つ。
“永遠の影”──入ったものの影を壺に封じ、本人を行動不能にする至宝。
二郎真君の足元から影が吸い込まれ、身体が石のように固まる。
剣が床に落ち、雷光が途絶える。
「三分の理、七分の腕、あとは運。
今日は運まで俺に味方したらしい。」
五右衛門は壺を結界の外に放り、天宝蔵の中を悠々《ゆうゆう》と歩く。
棚から一つ、金の巻物を懐に収め、煙管の灰を弾く。
「宝は使ってこそ値打ちがある──命も、剣もな。」
外では雷鳴とともに、封じられた真君の怒声が遠く響いた。
、──第5話、幕。
次回予告
「俺様の仕掛は、天も地獄もひっくり返すぜ。」
そう言い放った五右衛門の前に、最強の神々が立ちはだかる。
しかし、本当に敵は彼らだけか? 蠢うごめく影、交錯する思惑。
次回、第6話 石川五右衛門、三つ巴の乱入