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五右衛門、異世界で神と天下と有頂天を盗む  作者: 武者小路団丸


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第4話 石川五右衛門、天の宝を頂戴、仕る

 



 東西東西──(とーざいとーざい)!




 黒い影の先は、天界奥深く「天宝蔵てんほうぞう」の前。




 七重の結界けっかいはばまれ、十二天将じゅうにてんしょうが槍を構えて立ちふさがる。




 悟空「チッ、よし俺に任せろ! 如意棒にょいぼうでぶっ壊してやらぁ!」




 ──ドカーン! (結界ビクともしない)



 悟空「なんで壊れねぇんだよ!? オレの棒が泣いてらぁ!」




 五右衛門、煙管きせるをくゆらしながら笑う。




「兄ちゃん、世の中にゃ力じゃ開かねぇ“錠前じょうまえ”ってのがある。

 ……ここは“盗人ぬすっとの出番”だ。」



 天上界・蓬莱宮ほうらいきゅうの奥深く。

 七重の結界に守られ神器が納められた宝の保存館「天宝蔵」。

 そこには、千年を生きた龍のたま、世界を動かす歯車、魔法の力を持つという伝説のエクスカリバー。

 そして一度回せば春夏秋冬しゅんかしゅうとうを逆転させる“時の輪”までもが収められていた。

 宝庫の前、十二天将が警備に立つ。



 雷雲のようなよろいをまとい、槍を交差させて道を塞ぐ。



 闇の中から、足音ひとつせずしのび寄る影──裸足はだしの男。



 白き着流し《きながし》、腰の無銘むめいの刀、口元にはおなじみの煙管。



 五右衛門、煙を吐きながら低くつぶやく。



「神器は守るほど輝くもんだ……が、盗まれりゃ、もっと輝くぜ。」



 まず一人、天将の影が揺らぐ。

 次の瞬間、槍の穂先ほさきが地面に落ちた。

 五右衛門はいつの間にか背後に回り、影を“盗み”、警備兵を自分の影とすり替えていた。

 兵はその場に立っているつもりで、実際には結界の外で足踏みをしている。




 七重の結界は、悟空が破れぬように作られた至宝しほうの守り。

 だが五右衛門は悟空ではない。


 彼は結界そのものの“影”を盗み取り、壁を通り抜けた。

 天宝蔵の中は、夜空を閉じ込めたような漆黒しっこくの空間。



 棚に並ぶ珠や剣、巻物が星のように光を放つ。

 五右衛門、にやりと笑いながら手を伸ばす。



「さて……今日はどの神器を持ち帰るかねぇ。」

 その時、背後に声が落ちる。



「盗みは地上だけにしておけ……五右衛門。」



 振り向けば、そこには天界随一の武神、二郎真君じろうしんくん

 二郎真君、腰の剣を抜き放つ。

 光の刃が空間を裂き、天宝蔵を白昼はくちゅうのように照らす。



 悟空、如意棒にょいぼうを肩に担ぎながら前に出る。



「面白ぇ! おめぇもやる気満々だな!」



 五右衛門、煙を吐きつつ刀のつかに触れる。



「兄ちゃん、茶々《ちゃちゃ》は入れるな。こいつは盗人の舞台よ。」



 悟空、にやりと笑い如意棒を振り回す。



「へっ、邪魔はしねぇさ。ただし、俺は観客席で見てるから!」



 ──影と雷、棒と剣。



 

天宝蔵は舞台、俺らは役者、盗みは芝居──さぁ、幕が上がる


 ──第4話、幕。

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