第10話 天界釜茹で大芝居
東西東西──(とーざいとーざい)!
影に絡め取られた五右衛門。
次に目を開けると、そこは天帝の玉座の間。
柱には金の龍が巻き、天井には星々が瞬く。
玉座には天帝が悠然と座している。
天帝「天下の大泥棒、石川五右衛門──
天界を騒がせ、秩序を乱すその罪、万死に値す。」
五右衛門「秩序? 笑わせる。
お前の秩序は、弱き者を押しつぶす鎧じゃねぇか。」
天兵たちがざわめき、悟空は遠くから様子を窺う。
二郎真君は剣に手をかけ、牛頭馬頭は鎖を軋ませた。
天帝「情けも義理も、天の法の前では無力。
──釜茹けの刑を言い渡す!」
玉座の間に太鼓が鳴り響く。
天兵たちが一斉に五右衛門を囲む。
気づけば五右衛門は鎖で縛られ、天兵に引き立てられていた。
月は西に傾き、天界の夜が終わろうとしている。
天界の街路を、大車がゆっくりと進む。
その上には五右衛門。
天兵が左右を固め、見物の神々・精霊たちがざわめく。
道の脇には「天下の大泥棒、石川五右衛門、ここに極刑」と書かれた高札。
「……あれが五右衛門か」
「蓬莱宮をも騒がせた奴だ」
「義賊って噂もあったが、天界じゃただの賊徒だな」
──その時。
道端の物売りが木偶人形を放り投げた。
悟空が何気なくそれを足で受け止め、袖に隠す。
誰も、その一瞬のやり取りに気づかない。
河原の中央に、巨大な鉄釜。
中では地獄の業火が渦巻き、水面がグツグツと泡を立てていた。
牛頭と馬頭が釜の周囲で準備を進める。
馬頭「釜茹けの準備完了っと。地獄のレシピは天界でも通用するぜぇ。」
牛頭「五右衛門の野郎、今度こそ逃げられねぇぞ……」
その様子を見下ろしながら、二郎真君が呟く。
二郎真君「現世でも釜茹、天界でも釜茹とは皮肉なもんだな。
──だが、奴はその皮肉さえ盗みかねん。」
天帝「天下の大泥棒の最期を見るのも、また一興よ……」
天兵が五右衛門を釜の上に据える。
群衆が息をのむ。
月が薄雲に覆われ、紅く滲む。
鎖が外され、五右衛門は鉄釜の縁に立たされる。
炎の熱が空気を揺らし、頬に汗が伝った。
悟空は遠くから見ているが、動こうとしない。
天兵長「極刑、執行!」
五右衛門は月を仰ぎ、煙管をくわえ──笑う。
そのまま釜の中へ突き落とされた。
泡が激しく弾け、湯気が立ちこめる。
天帝は満足げに頷く。
天帝「これで天界の秩序は保たれた」
だが。
泡の中から浮かび上がったのは──木製の人形。
「な、なんだ……人形!?」
「いつ入れ替わった!?」
蓬莱宮の屋根の上。
月光を背に、五右衛門が立っていた。
煙管を掲げ、見得を切る。
五右衛門「知らざあ言って聞かせやしょう──
天下の大泥棒、石川五右衛門。
盗みはすれど非道はせず、情けと義理を背負って生きる。
天帝の釜も、地獄の鎖も、俺にはぬるい風呂桶よ!
さぁ──幕を開けようじゃねぇか、神々の芝居の続きを!」
神々が一斉に息を呑む。
──第10話、幕。
第11話
『寿司と桃と天界一』
釜茹での大芝居から一夜明け、勝利の寿司を頬張る五右衛門と悟空。
だが、悟空が次に狙うは『天界で一番デカいもの』だという。
その言葉が意味するものとは……?
次なる騒動の幕が、今、開く。




