第9話 天下の寝首
東西東西──(とーざいとーざい)!
蓬莱宮の屋根が震え、四つ巴の影が天を裂く。
孫悟空の如意棒が風を切り、
二郎真君の剣が稲光を放ち、
牛頭馬頭の鎖が地獄の咆哮を響かせる。
だが──五右衛門は笑っていた。
煙管をくゆらせ、月光の下でニヤリと。
「秀吉の寝首をかいた時も、こんな夜だったな……
権力者の影は、いつも隙だらけだぜ。」
その時、蓬莱宮の奥から黄金の光が溢れ出た。
天帝の玉座──天界の心臓部。
そこに鎮座するのは、豊臣秀吉を彷彿とさせる威厳の男。
金冠を被り、天下を見下ろす冷徹な瞳。
「五右衛門……お前の反逆はここで終わる。
秩序を乱す者は、全て抹殺せよ!」
天帝の声が轟く。
天兵の群れが押し寄せる。
秀吉の時代、権力を固めるために非情な排除を繰り返したように──
天帝もまた「天の法」を発動。
光の壁が五右衛門を囲み、空間が歪む。
五右衛門、煙管の灰を弾く。
影を伝ってすり抜ける。
「秀吉も天帝も、同じ匂いがするよ……
権力者の寝首は、いつも甘いな!」
悟空が爆笑しながら飛び込む。
「ハハハ! 秀吉の寝首?
俺も昔、天界にツバ吐いたぜ!
お前と組めば、天帝の玉座も盗めそうだな!」
二郎真君、剣を構える。
「天帝の秩序は絶対! 反逆者ども、斬る!」
牛頭馬頭も鎖を振り、迫る。
「閻魔様の命令だ、五右衛門! お前の寝首、持って帰るぜ!」
四つ巴の混戦が再燃。
五右衛門は「金の巻物」を広げ、天帝の「天の法」の影を盗む。
光の壁が崩れ、玉座が露わになる。
「秀吉の首を狙った時も、こんな隙があった……
天帝、お前の玉座、頂戴するぜ!」
天帝の目が驚愕に染まる。
「おのれ……!」
その時、玉座の足元から這い上がる死者の影。
天帝の裏切りで処刑された魂たちだ。
「五右衛門……なぜ天帝に屈した?
秀吉のように、俺たちを棄てたのか……?」
五右衛門、煙を吐く。
影の記憶を盗み、天帝の過去──反逆者を封じた陰謀が浮かび上がる。
「天帝のルール?
秀吉の天下と同じく、偽善だぜ。
俺は寝首をかくだけだ!」
影が暴走し、天兵を襲う。
混戦は頂点に達する。
五右衛門、玉座の前に歩み出る。
月光が背を照らし、足元から黒い影が噴き上がる。
「天帝……お前の天下も、秀吉のそれも、同じ“芝居”だ。」
煙管の火が赤く灯る。
灰が宙に舞い、影に包まれる。
階段を一段、また一段と染め上げ──
最後の段に足をかけ、五右衛門が両腕を広げる。
「知らざあ言って聞かせやしょう──
天下の寝首、今宵ここで盗み申す!」
だが、口上が終わる前──
地底から這い上がった死者が五右衛門の体を取る。
雷と地獄の炎が交錯し、天帝の瞳がカッと見開かれた瞬間──
五右衛門の体が硬直し、天兵たちが一斉に取り押さえる。
鎖が音を立てて締まり、五右衛門は動けない。
玉座の間には、勝者の空気が満ちる。
天帝は冷ややかに告げた。
「この反逆者を極刑に処す。釜茹での刑だ」
天兵が五右衛門を引き立て、玉座の間を出て行く。
その背を見送る群衆の中──
悟空が、柱の陰からじっと五右衛門を見ていた。
その口元には、笑みともつかぬ歪み。
右手の袖には、小さな木偶人形が握られている。
(さて……この芝居、最後まで付き合ってやるか)
悟空は何事もなかったように、玉座の間を後にした。
──第9話、幕。
第10話 次回予告
「天下の大泥棒、天を盗む!」
神々の芝居は、五右衛門の熱き魂とぶつかり合う。
盗まれた秩序、揺らぐ天界──
五右衛門が最後に盗み出すものとは、一体何なのか?
天帝との直接対決!そして、ついに悟空が動き出す
第10話 天界釜茹で大芝居
次回もあなたのハート盗みます。




