第8話 石川五右衛門、天上にて見得を切る
東西東西──(とーざいとーざい)!
雷鳴と業火に包まれた蓬莱宮。
二郎真君の剣閃、孫悟空の金箍棒、牛頭馬頭の鉄鎖が入り乱れ、
大広間は天と地獄の修羅場と化す。
だが──五右衛門の姿が、煙のように掻き消えた。
次に現れたのは、蓬莱宮の最も高い屋根の上。
金瓦の波が月光を反射し、五右衛門の足元で煌めく。
背後では雷雲が裂け、稲光が銀の幕を引く。
さらに──巻物からこぼれた金色の宝珠が宙を舞い、舞台照明のように彼を照らす。
五右衛門、煙管をくゆらせ、ゆっくりと下界を見下ろす。
その眼差しは、天界の兵も地獄の鬼も、
さらには物語を見守る“観客”すら射抜く。
「知らざあ言って聞かせやしょう──
天下の大泥棒、石川五右衛門。
神々の宝も、仏の結界も、地獄の帳も──
盗んだ先にゃ、絶景があるってもんよ!」
雷鳴が台詞を引き立て、灰が夜風に舞う。
「浜の真砂は尽くるとも──世に盗人の種は尽きまじ。」
雷鳴がその句を轟かせ、静寂が一瞬、蓬莱宮を包む。
「 …つまりよ、天下が滅びても俺みたいな野郎は絶えねぇってことさ!」
月が一段と輝く。
「修行? 悟り? そんなもん、煙管の灰ほどの値打ちさ。
俺が盗むのは、“世界の筋書き”──
天も地も、俺の舞台にしてやるぜ!」
両腕を大きく広げ、煙管を天へ突き上げる。
その瞬間、月光・稲光・宝珠の金光が三つ巴となり、
五右衛門の影を巨大な怪盗のシルエットに変える。
「さぁ、幕を開けようか──神々の芝居の続きをよ!」
稲妻を切り裂いて悟空が跳び、
雷雲を背に二郎真君が剣を構え、
屋根瓦を突き破って牛頭馬頭が躍り出る。
屋根の上で──天と地獄の大乱戦が幕を開ける。
──第8話、幕。
「天帝の座を狙った五右衛門は、死者の影に足をすくわれ、囚われの身に。天界に響き渡るは、まさかの『釜茹での刑』……!
絶体絶命の五右衛門を救う術は、あるのか!?
そして、影で不気味に笑う悟空が握る小さな木偶人形の正体とは?
全ては、五右衛門が仕掛けた大芝居なのか……?
次回、『第9話 天下の寝首』!
盗みの流儀は、誰にも悟らせない。
お楽しみは、これからだ!」




