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1品目 ハーブティーとさくほろクッキー

 大伯父のおうちの秘密を知った夜から一夜明け、起きて、顔を洗って服を着替えて、朝ご飯を食べて、洗濯物を回して干して、家の中に掃除機をかけた後。私は改めて、扉の先に行きました。

 引継ぎノートの確認のためです。昨晩、持ってこようと思ったら、なんと持ち出しが出来なかったのです。

 どうやらあの空間にあるものは、どちらの世界にも持ち出せないようになっているものが多いみたいです。全てではない、とノートには書いてありましたけれど、何なら持ち出せるのでしょうね?


 そんなわけで、再びアンティーク調の扉の前へ。鍵を回して解錠し、扉を開けたらスリッパを履き替えて階段を下ります。

 引継ぎノートの一番最初には、このお店についての事が書かれていました。昨日お兄さんに教えてもらった通り、ここは世界と世界の間にあるそうです。

 昼の間は家の扉からしか繋がらず、夜が更けるとどこかの世界に繋がる、と。つまり昼間は準備中で、夜が開店時間なのですね。


 大伯父も同じ考えだったのか、世界が繋がる時間は営業時間として書かれていました。

 営業時間は、夜の十時から一時まで。一時以降に居座ることは出来ないらしいので、それまでに片づけをしておかないといけない、ということですね。

 お店の内装は大伯父の趣味で整えたそうで、変えてもいいと書かれていました。


 けれど、私もこのお店の内装は好きです。木目が多い、落ち着いた空間。けれど、木材は明るい色が多くて暗くはありません。

 扉は豪華でしたけれど、お店の中は家の中と同じような雰囲気です。つまりは大伯父の趣味。私は大伯父と大体の趣味が合いますから、当然この空間も変えようとは思いませんでした。


 さて、そんな喫茶三日月。コンセプトは「深夜に訪れる、お疲れのお客様に、ほっと息を吐ける時間を。」という事らしいです。お兄さんが言っていた通りですし、なにより大伯父らしいです。

 このお店には、お疲れの人が招かれるのだと。どうして疲れてしまっているのかは人によるけれど、疲れてしまっている人には一時の休息を。少しでも、息のしやすい時間を。

 そういうことならば、私もそのように頑張りましょう。


 大伯父はどうやら、私がこの場所を見つけてお店を継ぐと信じているようでした。何せノートで、推定と書かれてはいますが、私を名指ししていますから。

 大伯父がそう信じてくれたのなら、その信頼に答えましょう。人にお出しできるほど料理が得意かはちょっと不安が残りますが、不味い物を作り出しはしません。


 そんなわけで、このお店での料理の仕方もノートで確認しました。

 材料を持ってきてここで料理するのかと思っていましたが、そうではないようです。まずはカウンターの内側の、冷蔵庫の向かいを確認と書かれていたので、その通りに行動します。

 カウンターの内側、冷蔵庫の向かい側。そこには、カウンターの内側の天板……に、馴染んでいるけれど、何かがはめ込まれていました。押したら動きました。取れました。


「タブレット……!ハイテク」


 タブレットが裏返されて、カウンターに馴染んで隠されていたのです。どうして隠したのですか大伯父。これもきっと、お茶目の一つです。大伯父ったら、こういうお茶目が多いのです。

 さて、タブレットを回収出来たので、ノートで続きを確認します。

 どうやらこのタブレットで、食材を注文できるそうです。注文した食材はこのお店の中に出てきて、外には持ち出せないと。


 そして食材を注文するためのお金は、お店の売り上げから自動で引かれるそうです。タブレットの右上に残高が書かれている、とありましたが、目を疑うほどの額が書かれていました。

 ……大伯父、もしかしてこのそこまで広くないカフェで、これだけ稼いだのですか?

 いや、そういえばお店の説明に、お代はお客さんの取れた疲れだと書かれていましたね。つまり、これだけ誰かの疲れを癒してきたと、そういうことなのですね。


 どういう仕組みかは分かりませんが、ここは不思議空間。あまり深く考えてはいけないのでしょう。

 ともかく、これだけの残高があれば、料理に困ることはなさそうです。どうやらこのタブレットからお店の内装家具を買ったりも出来るようですけれど、先ほども言った通り既に私好みの空間なので、そこを弄る気はありません。


 料理道具も買えるようですけれど、これも既に大伯父が揃えていたようで、買う必要はなさそうでした。なので、私がここから注文するのは、本当に食材だけになりそうです。たまにお皿を増やす可能性はありますけれど。

 なんて思いながら、昨日のお兄さんを思い出します。

 お疲れで、どこか泣きそうだったお兄さん。向こうも深夜であるというのなら、コーヒーは出さない方がいいでしょうね。


「……ハーブティーがいいかな」


 声に出してから、そういえば大伯父はハーブティーに詳しい人だったな、と思い出しました。

 この喫茶店をやっていたから、詳しくなったのでしょうか。お店の中にはティーポットもそれとセットのティーカップありましたので、間違ってはいないでしょう。

 そんな予想の元、タブレットをポチポチ操作してハーブティーを選びます。


 大伯父に飲ませてもらったことがありますから、私もハーブティーにはそこそこの馴染みがあります。

 今回はレモングラスとレモンバーム、そしてラベンダーを注文しました。少しずつブレンドするつもりで一気に頼みましたが、単体でも淹れることは出来るので無駄にはしないでしょう。

 注文確定ボタンを押したら、カウンターの上に、カタンと小さな音を立てて三つの缶が出て来ました。


 四角い、可愛い缶です。それぞれハーブの名前が、分かりやすくラベリングされています。

 その三つを重ねて、空いていた棚に収めました。おさまりがいいので、きっと元々ここにはハーブティーの缶が並んでいたのでしょう。


 続いて、お茶だけというのもな、と思ったので、お茶うけにクッキーを焼くことにしました。

 深夜ですから、あまり量を食べるのは良くないかもしれません。けれど、お茶うけのクッキーくらいならいいのではないか、そんな考えです。

 出す相手がお兄さんですから、甘さ控えめがいいかしら。なんて考えながら、タブレットを操作して必要な材料を選んでいきます。


「そうですね……今回は、ディアマンクッキーで」


 贅沢にバニラビーンズも入れましょう。疲れている人には、ちょっとの贅沢は必要経費ですから。

 そんなわけで材料を注文すると、先ほどと同じように全てカウンターの上に出現しました。

 出てきたもので冷蔵品を冷蔵庫にしまい、粉類をカウンターの端に避けたら、必要な道具を探します。全てあるはず、と探してみれば、それほど時間は掛からず見つかりました。調理道具はある程度の法則性を持って一か所にまとめられているので、非常に見つけやすいです。


 見つけた道具を並べて、一度洗おうかしらと考えます。

 大伯父が雑な保管をするとも思えないですけれど、いつからしまわれていたか分からないし、洗った方がよさそうです。

 そんなわけで、シンクに使う物を置いて、洗うための道具たちを探します。色々見てみたけれど見つからなかったので、タブレットで消耗品の中から食器用洗剤とスポンジを注文。これで洗っていきましょう。


 せっせと道具を洗っていって、水切りの上に並べて乾かします。流石お店のキッチンだけあって、流しも水切りも広くて使いやすいです。

 乾かしている間に、一度家に戻ってスマホのチェックとお菓子のレシピ本を確認することにしました。

 大伯父の引継ぎノート曰く、書斎に料理の本を残しているとの事だったので。持ち込みは出来ないから気合で覚えて頑張れとも書かれていました。そこだけは、不思議空間よどうして、という気持ちになりますね。レシピ本くらい持ち込ませてくださいな。


 このタブレットでレシピ本は買えないのかしら、と確認してみましたけれど、そういう物は注文できないようです。残念。ただ、ノートは買えるようなので、ノートとペンを買って、レシピ本の内容を写すことは出来るかもしれないですね。

 すごく手間はかかりますけれど、もし困ったらやってみましょう。廊下に本を置いて頻繁に出入りすることになりそうです。


 けれど間違えるよりはいいはず、ということで、書斎からお菓子作りの本を持ってきて、ディアマンクッキーのところに栞を挟んで、廊下に置いておきます。

 一度試しに持って入ったら、持って入ったはずなのに手から消えて、廊下に戻ったら廊下に置かれていたのです。どうしても駄目らしいことが分かったので、さっそくタブレットでノートとペンを買って、ディアマンクッキーの材料をメモしました。


 お菓子作りは分量が正確じゃないと失敗してしまいますからね、ここはしっかりやりましょう。

 ということで、メモも出来たので洗っておいた道具を乾いた清潔な布でしっかり拭いて、材料の分量を量っていきます。

 布巾などの洗濯物は、冷蔵庫の横の穴に入れると洗って乾かされて返ってくるらしいのです。不思議ですけれど、台を拭いた布を入れてみたら確かに綺麗に畳まれて返ってきたので、問題はないのでしょう。


 ともかく便利ではあります。この空間はそもそも不思議空間ですからね、便利だなぁと受け入れてしまうのがいいんでしょう。

 なんて考えながら、測り終わった粉糖をふるっておいて、フードプロセッサーに材料を入れていきます。まずは粉類。中力粉とふるった粉糖、グラニュー糖。それからバニラビーンズの種を入れて、フードプロセッサーを回して全体を混ぜます。


 混ざったら、そこにサイコロ状に切って冷やしていたバターを入れて、再度フードプロセッサーで混ぜていきます。

 全体がパラパラした粉状になったらまな板の上に出して、手でこねてひとまとめに。纏まったらざっくり二等分に分けて、ラップをかぶせて冷蔵庫に入れておきましょう。


 さて、これで三十分ほど放置なので、洗い物を済ませておきます。

 しっかりしたタイマーがあったので三十分にセットして、待っている間は引継ぎノートの確認をしておきましょう。

 続きから、と読んでいくと、深夜開店の喫茶店と言ってはいるけれど、お腹を空かせた人も来るからご飯を炊いておくといいと書かれていました。


 定食屋さんみたいですね、なんて思って読んでいたら、定食屋みたいだ、と書かれていて、思わず笑ってしまいます。大伯父もそう思っていたんですね、それでも喫茶三日月なのは、ここは喫茶店だと言い張るひそやかな抵抗でしょうか。

 確かにお店の中は定食屋ではなく喫茶店と言った感じですし、喫茶店なのは大伯父の趣味なのでしょう。私でも、定食屋ではなく喫茶店だと言い張る気がします。


 大伯父は喫茶店だと言いつつ和食の定食なんかも出していたそうなので、私もそれに倣いましょう。

 大伯父には良く、和食の作り方や下処理の仕方を教えてもらっていましたので、ある程度は作れるはずです。大伯父が料理上手なのは、ここでお客さんに振舞っていたからなのでしょうね。

 それはそれとして、昼間は自炊をして料理の腕を磨くべきかもしれませんね。


 家の方にもしっかり道具は揃っていましたから、大叔父もそうしていたのだと思います。

 ここで飲み食いも出来るようですけれど、食料の全てをここに頼ってしまう、というのはどうにも気が引けますし、味見やお出しするものの試作くらいにするべきでしょう。

 何より、家の方でちゃんとご飯を食べないと、母や叔母たちが心配しますからね。


 一人暮らしを始めた頃にちゃんと食べているのか、と心配され過ぎて、自炊の写真を送っていたのです。それが習慣化しているので、何も写真を送らないとまた私が食事を疎かにしている、と思われてしまいます。

 ここにスマホは持ち込めませんから、そういった意味でもしっかり家での料理もしていきましょう。


 なんて考えている間に三十分が経過していたようです。

 タイマーが鳴ったので、それを止めて冷蔵庫からクッキー生地を取り出します。

 まな板に強力粉で打ち粉をして、その上でクッキー生地を捏ねていきます。最初は固いのでそこそこ力を入れて、せっせと捏ねて硬さが均等になるようにします。


 生地の固さが均等になってきたら、少しずつ棒状に整形して丸めて伸ばしていきます。ある程度整ったらもう一枚まな板を取り出して、それでコロコロ転がして伸ばします。

 表面が綺麗になったところで定規を取り出し、直径を確認。2.5cmに整えて、オーブンシートで巻いて横にずらしておきましょう。


 同じ作業をもう一度。生地は二つに分けてありますからね。

 こちらもちゃんと2.5cmに整えられていることを確かめて、オーブンペーパーで巻いたら二つまとめてまな板に乗せ、冷凍庫へ入れます。

 これで三時間以上は放置するので、いったん家に戻るとしましょう。


 家に戻ったらスマホで三時間のタイマーをかけて、家の用事を済ませて回ります。

 パソコンを開いて仕事の連絡が来ていないかも確認しておいて、大丈夫だったので料理本を読んでみたり、お昼ご飯を作ったりとあれこれやりまして、大伯父が他に何かお茶目で隠した置き土産が無いかどうかも確認しました。

 見つからなかったけれど、どこからかまだ何か出てくるような気がしますね。


 なんて考えながら、三時間と言わず四時間ほどが経過しました。

 天気が良かったおかげで早く乾いた洗濯物を回収したり畳んだりしていたら、思ったより時間がかかったのです。やはり引っ越してすぐは洗いたいものも多いですね。

 ともかく家での作業は終わったので喫茶店の方に戻って、クッキー作りの続きをします。


 冷凍庫からカチカチになったクッキー生地二本を取り出しまして、少しだけ解凍するために置いておきます。

 生地の表面が少し解凍されたら出しておいたグラニュー糖の上でコロコロ転がして表面にグラニュー糖をつけていきます。

 しっかりムラなくグラニュー糖をつけられたら、オーブンをセット。140℃に予熱です。


 予熱が開始されたことを確認して、クッキー生地を切っていきます。

 厚さは1.5cm。定規で印をつけていって、それを目印に切っていきます。切れたらベーキングマットを敷いた天板の上に並べていって、オーブンの予熱が終わるのを待ちましょう。

 ここに置いてあるオーブンには天板が二枚入るらしく、今回は一度で焼き切ることが出来そうです。


 ちゃんとベーキングマットも複数枚ありました。沢山焼きたい時用なのか、余分にあったのは嬉しいですね。

 なんて考えている間に予熱も終わったので、天板二枚を入れたら加熱開始、140℃で三十五分です。

 スイッチを入れて、キッチンタイマーを二十分でセットします。二十分経ったら天板の向きを反転させて、残り十五分焼き切ります。


 いい香りがしてきたオーブンに、今か今かと待ちわびた焼き上がり。

 焼きあがったらオーブンから取り出して、出しておいた鍋敷き(金属製です。足がついていて飾り彫りみたいになっていて、とってもおしゃれです。)の上に乗せておきます。

 熱いので弄るのは冷めてから。というわけで、少し放置です。


「……うん、さくほろ」


 ちゃんと冷めてから一つお味見してみると、実にいい焼き上がりでした。さっくりほろほろ、口の中でほどけます。バニラビーンズが入っているので、香りもとてもいいです。

 これは良い物だ、なんて思いつつ、冷めたクッキーを見つけて洗っておいた瓶にいれておきます。

 口が広くて深い透明な、何とも立派な瓶です。クッキーを入れると一気に可愛くなりますね。取り出すときはトングなど使いましょう。


 さて、何はともあれこれでお茶うけの準備は完了です。再度家に戻り、開店時間までにやる事を終わらせてきましょうね。

 夕食も食べて、その片づけをして、明日の朝ご飯の準備までしておいて。


 そうしてあれこれ確認したりしていましたら、気付けば時間は九時半です。そろそろお店の方に移動して準備をすると致しましょう。

 そんなわけでお店に行って、スリッパを履き替えてお湯を沸かします。

 ティーポットを選んで、カップと合わせて洗って拭いて、そこにお湯を入れておきます。ついでに布もかけておきましょう。


 クッキーを乗せるお皿を選んで、これも洗って拭いておいておきます。

 食器類は順番に洗っていった方がよさそうですね。

 なんて考えながらハーブティーの茶葉を用意していたら、ちょうどよく扉が開きました。


「お疲れ様です、いらっしゃいませ」


 入ってきたお兄さんに声をかけて、椅子を勧めます。

 そうして、温めておいたティーポットのお湯を捨てて、茶葉を入れたら改めてお湯を注いでタイマーをセット。なんとこのタイマー、音が鳴らないようにも出来るのです。高性能です。

 そんなわけで、ティーポットには再度布をかけておいて、お皿にクッキーを乗せます。このためにトングもしっかり洗って拭いておきました。


「昨日はすまなかった、自己紹介もせずに」

「いいえ、こちらこそ。なんのお構いも出来ませんで」


 椅子に座ったお兄さんにクッキーを差し出して、ティーカップのお湯も捨てて拭いておきます。

 そうこうしている間にタイマーがひっそり時間経過を知らせてくれたので、それを止めてお茶を注ぎます。カップの上に茶漉しを構えて、茶葉はひとかけらも入れぬという心構えです。

 淹れたお茶をお兄さんに出して、ティーポットの中の茶葉も回収しておきます。渋くなってしまいますからね。


「どうぞ、お口に合うかは分からないですけれど」

「……ソウジロウが淹れてくれたお茶と似た香りがする。ここ以外では、見かけたことのない香りだ」

「あら、そうなんですか?」


 やっぱり大伯父はよくハーブティーを出していたのですね。

 なんて考えながら、私もハーブティーをいただきます。せっかくですし、冷めるまで放置してしまってもあれですし、ね。


「改めて、自己紹介を。俺はエボン・アンタイレス。ロレクセス王国のセレロンという都市で警備隊員をしている」

「これはご丁寧に……私は津田つだ千鶴ちづると申します。津田宗次郎(そうじろう)の兄弟の孫、又姪です」


 改めて自己紹介をして、エボンさんからこのお店の事を聞きました。

 大伯父とエボンさんは数年の付き合いがあるそうで、そこそこの頻度でここに来ていたそうです。

 曰く、ここは半分夢の中のようなもの。最初の一、二回は夢か幻かと思っていたが、三度目からは夢ではないと認識が出来、五回目くらいからは意識して訪れることが出来るようになったのだ、と。


 なるほど、夢の中で夢だと気付くと自由に動けたりするらしいですけれど、それと同じような物でしょうか。なんて私が想像を膨らませている間にも、説明は続きます。

 そうして夢ではないと認識して探せる人が他にも何人かいらっしゃったらしいです。エボンさんはそれを大伯父から聞いた、と。ここは一度に複数の場所に繋がるようなことはなく、お客さんが複数入ることは基本無いんだそうで、エボンさんは他のお客さんに会ったことはないそうです。


 何人か、何度も訪れる常連のような方がいるけれど、そういう方は稀だそうで、基本的には一度しか訪れないお客さんがほとんどなのだと、大伯父が言っていたそうです。

 大伯父、そういうことは引継ぎノートにも書いておいてほしいですけれど、もしかして私がここを見つけたら、常連さんの誰かがお店に来て説明してくれる、と思っていたんでしょうか。


 ……ありそうですね、大伯父ですし。大伯父は人に甘えるのが上手な人です。お客さんにも、ちゃっかり引継ぎ後の事を任せて甘えていたのでしょう。

 任された側がそれを認識していないあたり、常連さんの善意に任せましたね?全くもう、大伯父ったら。


 なんて思いつつ、エボンさんから大伯父の話やこのお店の話を聞きます。

 そして、お茶が全てなくなった頃に解散することになりました。エボンさんは、今度はお客さんとしていらっしゃるそうなので、その時にはお礼も兼ねてしっかりおもてなししないといけませんね。


「チヅルは本当にソウジロウに似ているな」

「そうですか?ふふ、嬉しいです」


 ここにはそういう事を聞くとすごく拗ねてしまうおじいちゃんが居ないので、素直に受け取ることが出来ますね。

 なんて思いつつ、エボンさんをお見送りして、片づけをします。

 洗い物を済ませて水切りの上に乗せたら、私も家に戻って眠ることにしました。詳しい情報整理などは、また明日やる事に致しましょう。

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