土壇場
国王陛下と王妃の非難するような眼差しが私達に注がれる。
周囲の人々も、親の敵のような眼差しを向けていた。
一応、国王陛下とは面識があった。
けれどもそれは十四歳のときにあった社交界デビューの謁見の時間のみ。
八年も前に行った小娘の顔など覚えていないだろうし、私自身も八年も経ったら顔立ちは変わっている。
気付かれるわけもなかった。
「そなたらは何ゆえ、このような騒動を起こした?」
「オルデンブルク大公、聖人インゴルフの名誉が羨ましかったの?」
その問いかけに、エーリク様は毅然と答えた。
「聖女の名声を羨ましく思っていたのは、聖人インゴルフ殿のほうかと」
エーリク様の返答を聞いた聖人インゴルフは、くつくつと楽しそうに笑う。
「この期に及んで、まだ余裕ぶっているんだ」
「僕達は何も間違ったことはしていないから」
「偽物の聖女を引き連れて、よくそんなことが言えるね」
聖人インゴルフが合図を出すと、聖騎士達がぞろぞろ登場する。
彼らは剣を引き抜き、私達へ向けた。
この場に駆けつけたのは低級聖騎士だろう。上級聖騎士は大聖堂の守備に就いているだろうから。
そのため、私の顔を知る者はいなさそうだ。
「おめでたいこの場で、乱暴なことはしたくない。だから、平伏してごめんなさいって謝ってくれたら、優しくしてあげるよ」
聖人インゴルフの甘言にエーリク様が屈するわけがなかった。
「戯れ言を言うな、この詐欺師が」
「――っ!」
その言葉は聖人インゴルフの逆鱗に触れてしまったらしい。
すぐさま聖騎士に命じる。
「あの者達を捕らえろ!!」
聖騎士達がこちらへ向かってこようとしたものの、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
床から蔓が生え、足下に絡みついて離さない。
聖騎士達は途端に動けなくなる。
「なっ――!?」
姿を消していたメルヴ・ウィザードが、魔法を展開させたのだ。
エーリク様が魔法を使ったようには見えなかったため、聖人インゴルフも目を見張っていた。
わあわあ叫んでいた聖騎士や、ざわざわ戸惑いの声をあげる人々の口も、メルヴ・ウィザードは封じる。
しんと静まり返った中、エーリク様が語りかける。
「実は、紹介したい者がいるのだが」
扉が開かれ、一人の青年が転がり込むようにやってきた。
「イゾルテ! こんなところにいたのか!」
登場したのはシモンだった。
行方知れずだと言われていたが、どうやらエーリク様が保護していたようである。
そんなシモンは、聖女扮するイゾルテのもとにまっすぐ走って行った。
「お前、そんな格好をして! 何をしているんだ!」
ロイス司教がイゾルテを守るために動くも、シモンから突き飛ばされてしまう。
若くないロイス司教の体は、あっさり放りだされてしまった。
「ち、近寄らないで!!」
イゾルテは拒絶するように叫ぶも、シモンは聞く耳なんて持たなかった。
「ああ、やっと会えた、イゾルテ、愛している……」
シモンにとっては奇跡の再会となったのだろう。
けれどもイゾルテにとっては、まったく空気が読めない行動でしかない。
「私達の子は、元気に育っているか?」
シモンはそう言って、イゾルテのお腹を撫でる。
修道服で隠していたシルエットが、一瞬にして露わとなった。
「ヒッ――!?」
イゾルテはシモンを押しやろうとするも、力が強かったようで離れない。
「彼女に触れるな! 私の女だ!」
ロイス司教は果敢にシモンのもとへ駆け寄る。
「何を言っているんだ、イゾルテは私の婚約者だ!」
「違う、イゾルテは――」
シモンに釣られて、ロイス司教までもイゾルテと呼ぶ。
ロイス司教がその失言に気付いたときには遅かった。
ふわりんがイゾルテのベールに糸を飛ばし、サッと引っ張る。
すると、隠していた顔が露わとなった。
ここでメルヴ・ウィザードが封じていた人々の声を解放する。
「あれは、舞台女優の……?」
「イゾルテ・グリームだ!」
「ああ、見た覚えがある!」
彼女は王都で人気の舞台女優。その顔はポスターにも起用されるほどで、顔はおおいに知れ渡っていた。
エーリク様はここぞとばかりに叫んだ。
「イゾルテ・グリーム、彼女こそが、偽物聖女だ!」
その言葉を聞いた人々は、くるりと手のひらを返す。
抗議の声をあげ、非難し始めた。
「――ッ!!」
イゾルテは顔を隠し、大広間から逃げていく。
そんな彼女を、シモンとロイス司教があとを追いかけていった。
大きな騒ぎとなり、人々は興奮する。
このままでは国王夫妻に危険が及ぶかもしれない。
会場全体に、鎮静術を施す。
すると、人々の興奮は収まった。
「みなさま、落ち着いて。どうか、気を確かに……」
その言葉で我に返ってくれたようで、ホッと胸をなで下ろす。
再度、注目が集まる中、誰かがボソリと呟いた。
「聖女様だ、聖女様に間違いない……!」
その声は他の人々にも伝わり、「聖女様!」と口々に繰り返す。
人々の注目が私達に集まる中、聖人インゴルフはいつの間にかこの場から姿を消していた。




