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嫁して3年、子なしは去れ!と言われたので、元婚家の政敵の屋敷でお世話になります!  作者: 江本マシメサ
第四章 悪を討て

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土壇場

 国王陛下と王妃の非難するような眼差しが私達に注がれる。

 周囲の人々も、親の敵のような眼差しを向けていた。

 一応、国王陛下とは面識があった。

 けれどもそれは十四歳のときにあった社交界デビューの謁見の時間のみ。

 八年も前に行った小娘の顔など覚えていないだろうし、私自身も八年も経ったら顔立ちは変わっている。

 気付かれるわけもなかった。


「そなたらは何ゆえ、このような騒動を起こした?」

「オルデンブルク大公、聖人インゴルフの名誉が羨ましかったの?」


 その問いかけに、エーリク様は毅然と答えた。


「聖女の名声を羨ましく思っていたのは、聖人インゴルフ殿のほうかと」


 エーリク様の返答を聞いた聖人インゴルフは、くつくつと楽しそうに笑う。


「この期に及んで、まだ余裕ぶっているんだ」

「僕達は何も間違ったことはしていないから」

「偽物の聖女を引き連れて、よくそんなことが言えるね」


 聖人インゴルフが合図を出すと、聖騎士達がぞろぞろ登場する。

 彼らは剣を引き抜き、私達へ向けた。

 この場に駆けつけたのは低級聖騎士だろう。上級聖騎士は大聖堂の守備に就いているだろうから。

 そのため、私の顔を知る者はいなさそうだ。


「おめでたいこの場で、乱暴なことはしたくない。だから、平伏してごめんなさいって謝ってくれたら、優しくしてあげるよ」


 聖人インゴルフの甘言にエーリク様が屈するわけがなかった。


「戯れ言を言うな、この詐欺師が」

「――っ!」


 その言葉は聖人インゴルフの逆鱗に触れてしまったらしい。

 すぐさま聖騎士に命じる。


「あの者達を捕らえろ!!」


 聖騎士達がこちらへ向かってこようとしたものの、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 床から蔓が生え、足下に絡みついて離さない。

 聖騎士達は途端に動けなくなる。


「なっ――!?」


 姿を消していたメルヴ・ウィザードが、魔法を展開させたのだ。

 エーリク様が魔法を使ったようには見えなかったため、聖人インゴルフも目を見張っていた。


 わあわあ叫んでいた聖騎士や、ざわざわ戸惑いの声をあげる人々の口も、メルヴ・ウィザードは封じる。


 しんと静まり返った中、エーリク様が語りかける。


「実は、紹介したい者がいるのだが」


 扉が開かれ、一人の青年が転がり込むようにやってきた。


「イゾルテ! こんなところにいたのか!」


 登場したのはシモンだった。

 行方知れずだと言われていたが、どうやらエーリク様が保護していたようである。

 そんなシモンは、聖女扮するイゾルテのもとにまっすぐ走って行った。


「お前、そんな格好をして! 何をしているんだ!」


 ロイス司教がイゾルテを守るために動くも、シモンから突き飛ばされてしまう。

 若くないロイス司教の体は、あっさり放りだされてしまった。


「ち、近寄らないで!!」


 イゾルテは拒絶するように叫ぶも、シモンは聞く耳なんて持たなかった。


「ああ、やっと会えた、イゾルテ、愛している……」


 シモンにとっては奇跡の再会となったのだろう。

 けれどもイゾルテにとっては、まったく空気が読めない行動でしかない。


「私達の子は、元気に育っているか?」


 シモンはそう言って、イゾルテのお腹を撫でる。

 修道服で隠していたシルエットが、一瞬にして露わとなった。


「ヒッ――!?」


 イゾルテはシモンを押しやろうとするも、力が強かったようで離れない。


「彼女に触れるな! 私の女だ!」


 ロイス司教は果敢にシモンのもとへ駆け寄る。


「何を言っているんだ、イゾルテは私の婚約者だ!」

「違う、イゾルテは――」


 シモンに釣られて、ロイス司教までもイゾルテと呼ぶ。

 ロイス司教がその失言に気付いたときには遅かった。

 ふわりんがイゾルテのベールに糸を飛ばし、サッと引っ張る。

 すると、隠していた顔が露わとなった。

 ここでメルヴ・ウィザードが封じていた人々の声を解放する。


「あれは、舞台女優の……?」

「イゾルテ・グリームだ!」

「ああ、見た覚えがある!」


 彼女は王都で人気の舞台女優。その顔はポスターにも起用されるほどで、顔はおおいに知れ渡っていた。


 エーリク様はここぞとばかりに叫んだ。


「イゾルテ・グリーム、彼女こそが、偽物聖女だ!」


 その言葉を聞いた人々は、くるりと手のひらを返す。

 抗議の声をあげ、非難し始めた。


「――ッ!!」


 イゾルテは顔を隠し、大広間から逃げていく。

 そんな彼女を、シモンとロイス司教があとを追いかけていった。


 大きな騒ぎとなり、人々は興奮する。

 このままでは国王夫妻に危険が及ぶかもしれない。

 会場全体に、鎮静術を施す。

 すると、人々の興奮は収まった。


「みなさま、落ち着いて。どうか、気を確かに……」


 その言葉で我に返ってくれたようで、ホッと胸をなで下ろす。

 再度、注目が集まる中、誰かがボソリと呟いた。


「聖女様だ、聖女様に間違いない……!」


 その声は他の人々にも伝わり、「聖女様!」と口々に繰り返す。

 人々の注目が私達に集まる中、聖人インゴルフはいつの間にかこの場から姿を消していた。


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