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嫁して3年、子なしは去れ!と言われたので、元婚家の政敵の屋敷でお世話になります!  作者: 江本マシメサ
第四章 悪を討て

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王太子殿下と共にオルデンブルク大公家の屋敷へ

 その後、エーリク様は王太子殿下に話をし、オルデンブルク大公家で療養してもらえないか説得した。

 聖人インゴルフについては、触れないようにしたようだ。

 長年、王妃が信じていた相手は聖人でもなんでもなく、続けていた治療が実はインチキだったと知ったらショックを受けてしまうかもしれない。

 そのため、真実を話すのは聖人インゴルフの悪事を暴き、元気になってからのほうがいいだろうと判断したようだ。


「今後は聖人インゴルフに代わって、聖女ギーゼラが治療を行いますので」

「わか……った」


 納得してもらえたようで、ホッと胸をなで下ろす。

 アンハイサー隊長は騎士を数名護衛に付けようかと話を持ちかけたものの、エーリク様は断っていた。


「すまない、魔法使いの本拠地は他者を受け入れる余裕がないゆえ」

「ええ、存じています」


 きっとわかっていて、何かできたらと思って申し出てくれたのだろう。

 ひとまず、王太子殿下を転移魔法でオルデンブルク大公家の屋敷へ送った。

 客間の寝室で休んでもらい、メルヴ・ウィザードが傍にいて看病を担当するようだ。


「わたくしも、お世話をさせていただきます」

「ゼラ、感謝する」

「いえいえ」


 エーリク様には助けてもらった恩があるのだ。精一杯看病して、返させていただこう。

 王太子殿下の容態は落ち着き、深く眠っているという。

 騎士達が書き綴った王太子殿下に関わる記録があるというので、それを参考に看病するつもりだ。

 さっそく読ませてもらったが、病気の進行は徐々に進み、歩けなくなってしまったのはここ一年くらいだという。

 酷く老いるような見た目の変化は年を追うごとに進行していたらしく、騎士達は何度もおかしいと感じていたようだ。

 ただ、意見した者達はもれなく〝死の辺境〟送りにされていたため、見て見ぬ振りをするしかなかったという無念な思いが書かれている。

 食事量も減少傾向にあり、聖人インゴルフが行動を起こした数日前からは、ほとんど何も食べていないことが明らかとなった。

 メルヴ・ウィザードの葉っぱから作った魔法薬と、回復術の力で食欲が少しでも戻っているといいのだが。


 ひとまず看病はメルヴ・ウィザードに任せ、私は王太子殿下の療養食を作ることにした。

 蒸留室スティルルームに移動し、食材を見てメニューを決める。

 ジャガイモに、タマネギ、ブロッコリーホウレンソウ――それからブイヨンの材料を集める。

 調理に時間がかかるブイヨンは、魔導調理器で自動調理してみた。

 エーリク様に手順を教えてもらってから、使ってみたいと考えていたのだ。

 鍋にブイヨンの材料を入れ、魔導調理器の中へ設置する。それから料理名を呪文のように口にしたあと、魔石に触れて起動させるだけである。

 魔法陣が浮かび上がり、輝きを放つ。そして魔導調理器の蓋が自動で開くと、鍋の中にはブイヨンが完成していた。

 本当に一瞬で料理が完成した。なんて便利なのかと感激してしまう。

 その後、茹でてすり潰したあと、した野菜にブイヨンを溶かすように混ぜ、完成させたのがルーベン様の大好物だった療養食、野菜ピュレだ。

 飲み込みやすく、栄養もたっぷりで、意外と食べ応えもある。

 王太子殿下のお口に合うかわからないが、しっかり食べていただこう。

 数日、食事をまともに取っていないというので、完成したものをさらにお湯で薄めたものから始めなければならない。


 一応、エーリク様にも料理を確認してもらった。

 執務室に運ぶと、料理を前に驚いているようだった。


「これが療養食とやらなのか?」

「はい。数日料理をあまり口にされていないようなので、体に負担がかからないようなメニューにしました」


 療養食と聞いて、パン粥のようなものを想像していたという。


「ここ数日、重湯おもゆのようなものしか口にされていないとのことなので、固形物は難しいと判断しました」

「なるほど、そういうわけか。その辺の知識はからっきしだから助かる」


 そんなことを話しつつ、エーリク様は薄めた野菜ピュレを口にした。


「薄いな」

「今の王太子殿下には、これくらいがちょうどいいと思います」

「なるほどな」


  療養食に関する判断は私に任せてくれるという。


「ただ、試食はこの先も僕にさせてくれないか?」

「承知しました」


 許可がでた上に、ちょうど夕食の時間帯だったので、療養食を寝室に運んでみた。

 王太子殿下は目を覚ましていたようで、メルヴ・ウィザードと会話をしていたらしい。


「ギーゼラです、食事を持ってまいりました」

「ああ、あり……がとう」


 起き上がることができるというので、メルヴ・ウィザードと一緒に背中を支えて上体を起こしてもらった。


「お食事はできますか?」


 尋ねると、王太子殿下はこくりと頷く。

 メルヴ・ウィザードが食べさせたいと言うので、お願いしてみた。


「少しずつ匙に掬って、口元へ運ぶのですよ」

『ワカッタ!』


 そっと運ばれた野菜ピュレを、王太子殿下は口にする。

 いつ吐き出してもいいように、手巾を構えて待つ。

 しかしながら王太子殿下は味わうように口を動かしたあと、飲み込むことができたようだ。


 よかった、と安堵したのもつかの間のこと。

 王太子殿下はポロリ、と一筋の涙を零す。


「どうかされたのですか? もしや、お口に合いませんでしたか?」

「違う……とても、温かくて……おいしくて」


 感激の涙だったという。

 なんでもこれまで、聖人インゴルフの指示で、温かい料理は体に毒だと言われた結果、冷やされた料理ばかり食べていたという。

 口にするたびに体が冷え、震えが止まらなくなっていたらしい。

 また、味付けも苦みばかり感じるようなものだったらしく、食べられたものではなかったという。

 食事量が減っていたのは、メニューにも問題があったようだ。

 聖人インゴルフは食生活にまで口を出していたとは。酷いとしか言いようがない。

 その後、野菜ピュレを完食してくれた。

 久しぶりに満たされた食事を口にすることができた、とお褒めの言葉をいただく。

 食後は顔色に赤みが差し、快方に向かっているのだと見て取れた。

 深く安堵したのは言うまでもない。

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