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嫁して3年、子なしは去れ!と言われたので、元婚家の政敵の屋敷でお世話になります!  作者: 江本マシメサ
第三章 聖教会の闇

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ギーゼラの腹芸

 この辺りの魔法の反応はなくなったという。あるとしたら、上の階だとメルヴ・ウィザードは話していた。

 さて、これからどうするか。

 イゾルテとロイス司教はそのまま退室していったらしい。ここから内部に潜入しようかと取っ手を引くも、しっかり施錠されていた。

 すぐ上は最上階だが、六階より上はバルコニーがなかった。

 内部から七階へと行くしかない。


「ここの鍵をどうにかするしかないようですわね」


 鍵穴を覗き込んでいたら、ふわりんが自らの毛を鋭くさせたものを貸してくれた。


『これで鍵、開くかも~?』

「ピッキングですわね」

『そう~』


 ピッキングなんてするのは生まれて初めてである。

 上手くいくものなのか。

 いや、やるしかないのだろう。

 つんつん鍵穴を突くこと五分――ガチャ、と音がして開く手応えを感じた。

 取っ手を引くと、扉が開く。


「やりましたわ!」


 なんて喜んでいたら、大聖堂の鐘が鳴ったので驚く。

 上層階で聞く鐘は迫力がありすぎた。

 胸を押さえ、はーーーーと息を吐いて呼吸を整えてから中へと入る。

 まさか鍵を開けることができるなんて。

 どうやら私は解錠の才能があったらしい。


「ふわりんの毛もよかったのかもしれませんね。さすがですわ」

『えへへ~』


 喜び勇んで中へと入る。

 ロイス司教は贅沢な部屋を与えられているようだ。

 そして、魔導具らしき品をたくさん所有していた。

 熱心に神を信仰する者達には清貧を求めているというのに、上層部の人間はそれを守っていないなんて。呆れたとしか言いようがない。

 メクレンブルク大公はどうなのだろうか?

 あのお方は敬虔けいけんという言葉を擬人化させたような人物なのだが。

 メクレンブルク大公も他の人達と同じように、ズブズブに魔導具を利用しているのかもしれない。

 だって、これだけ内部で魔導具が使われているのだ。メクレンブルク大公だけ利用していないわけがない。

 もしかしたら魔力吸収の魔法も、メクレンブルク大公の命令で展開させている可能性がある。

 聖教会を統べるお方なので、そのような魔法があっても、誰も文句など言えないだろうから。


 廊下に繋がる扉を発見したものの、おそらく守衛の聖騎士がいるのは間違いないだろう。

 どうしたものかと考えていたが、そもそも六階は関係者以外立ち入り禁止。

 通常であれば、イゾルテは入ることが許されない神聖な区画なのだ。

 それを許しているということは、担当する聖騎士はロイス司教と繋がっていて、見て見ぬ振りをしているに違いない。

 さらに、守衛聖騎士は交代時間が決まっている。きっと先ほどの鐘で、新しい聖騎士と交代しただろう。

 ならば、堂々と出ていたら怪しまれないのではないか。

 本当に? 大丈夫?

 そんな不安に襲われるも、これ以上大聖堂の上層階に長居したくない。

 ええい、ままよ! 意を決し、廊下に出る。

 想定していたとおり、聖騎士は廊下にいた。

 おそらく中には誰もいないと聞いていたのだろう、出てきた私を見てギョッとする。


「なっ、お前、どうしてそこにいた!?」


 落ち着け、落ち着けと自らに言い聞かせながら言葉を返す。


「ロイス様より部屋の中を整えるよう、命じられておりました」


 自分でもびっくりするくらい、冷静な声が出せた。

 それは説得力のある言葉に聞こえたのだろう。聖騎士は何も言い返さず、早く行くようにと返してきた。


 やった! 見逃してもらえた! 

 押し寄せる喜びと安堵が表情に出ないよう、ぺこりと頭を下げて騎士の前を通り過ぎる。

 ばくん、ばくんと心臓が脈打っていた。

 こういう腹芸は苦手だ。どうかこの先、誰にも会いませんように、と願うばかりである。

 一応、六階の区画を調べて回ったが、魔法の反応はなかったようだ。

 最後は七階を調査するばかり。

 上へ繋がる階段の前には、やはり聖騎士達の姿があった。

 七階には聖教会が保管する聖遺物なども保管されているため、警備が厳重ゆえ、そこに繋がる通路は守りが堅いのだろう。

 ロイス司教の名において、ここを通過させていただく。

 そんな心意気と共に進んだのだが――。


「おい、通過証明書を出せ!」

「名前と所属も答えるように!」


 先ほどの聖騎士のように、簡単に通してくれるわけがなかった。


「えーっと、そのー」

「どうした!?」

「早く答えろ!」


 額に汗がぶわっと浮かんだ。心臓も早鐘を打っている。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 先ほどの聖騎士のように、騙すことができる様子は欠片もなかった。

 ロイス司教の名声も効きそうにない。

 このままでは不審者扱いで、拘束されてしまう。

 転移の腕輪を使って逃げたら、掴まることもないだろう。

 ただその場合、侵入者があったとみなされて聖教会側の警備が厳しくなり、二度と潜入が叶わなくなる。

 ここはなんとしてでも、切り抜けなければならない。


「おい、なんとか言わないか!」

「怪しい奴め!」


 こうなったら最後の手段だ。

 そう判断し、変装用の魔導眼鏡を外した。


「――わたくしです」


 元メクレンブルク大公家の聖嫁の立場を利用するしかなかった。

 この聖騎士達が私の顔を覚えていますように、と祈りつつの最終手段である。

 ちらり、と聖騎士の顔を見たら、驚いた表情でいた。


「メクレンブルク大公家の聖嫁様!」

「どうしてこちらに!?」


 どうやら彼らは私の顔を覚えていたようだ。

 ひとまずホッと胸をなで下ろす。


「どうしてシスターの格好を?」

「それは――」


 普段、修道服なんて着ていなかったので、聖騎士の目には不審に映ったのだろう。


「これまでいったいどこにいらっしゃったのでしょうか?」


  そういえば私の指名手配書……ではなく、捜索依頼が出ていたのだ。

 黙っていたら、質問攻めに遭ってしまう。

 こうなったら、とひっくるめて適当な作り話をしてみた。


「実は、聖地巡礼の旅に出ておりまして、そのさい、目立たないよう修道服を着ておりましたの」

「さようでございましたか」

「よく、ご無事で」


 納得してくれたようで安堵する。


「その、聖嫁様の捜索依頼が出ていたのはご存じでしょうか?」

「どなたも、聖嫁様の所在について把握しておらず」

「ええ……。実は、夫婦ケンカをしまして、黙って出て行ってしまったのです」


 魂の穢れを感じ、聖地巡礼の旅をして癒やしにいったのだ、と説明しておく。

 少々苦しい言い訳だったか。

 念には念をと思い、小芝居を追加してみる。


「夫には愛人がいて、家にはとてもいられなくて……」


 シモンがイゾルテという愛人を傍に置いていることは、聖騎士達も周知のことだろう。

 彼らは同情的な眼差しで私を見つめていた。


「なんと嘆かわしい」

「そういうわけだったのですね」


 捜索依頼の紙を見て、慌てて戻ってきたのだと言うと、彼らは「どうぞ」と言って通してくれた。

 どうせ上にも聖騎士がいるだろう。同じ説明をするのが面倒なので、一人だけ聖騎士についてきてもらうことにした。

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