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嫁して3年、子なしは去れ!と言われたので、元婚家の政敵の屋敷でお世話になります!  作者: 江本マシメサ
第二章 聖教会での騒動

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魔導省内の案内

 魔導省内の移動のほとんどは転移魔法で行うという。


「外を漂う魔力を自動で集め、転移魔法を発動させている」


 エーリク様が私にくれた転移の腕輪は、あしらわれた宝石に魔力が付与されているらしい。


「宝石の色が薄くなったら魔力が切れかけている証だ。補充するから早めに言うように」

「わかりました」


 こうして生活に馴染む魔法に触れてみると、とてつもなく便利だと感激しっぱなしである。

 聖教会はなぜ魔法を否定するのか不思議に思うも、すぐにその理由に気付く。

 魔法による快適な暮らしに慣れると、神への信仰心が薄れるのかもしれない。

 私も以前まではこの暮らしを送れるのは神様のおかげ、なんて思っていたが、今は魔法に感謝している。

 聖教会を統べるメクレンブルク大公家が魔導会を統べるオルデンブルク大公家を敵対視するのは、神への信仰を喪うのではないか、と危惧しているからなのだろう。


 ここで眠っていたメルヴ・ウィザードが目を覚ましたようだ。


『ウーーン、ヨク寝タ!』


 その声に反応し、ふわりんも覚醒したようだ。


「よく眠っておりましたね」

『ウン、ソウ! ナンダカ眠クナッテ』

『わかる~』


 普段、あのように昼間に眠くなることはなかったようだが、大聖堂に入った途端に眠くなったという。


「言われてみれば、おかしいな」

「おかしい、ですか?」

「ああ。僕も大聖堂内で倦怠感というか、少し違和感を覚えていた」


 エーリク様は階段を上ったせいだと考えていたようだが、メルヴ・ウィザードやふわりんの話を聞いて引っかかったらしい。

 このように眠くなったり、体調が悪くなったりするのは、魔力の枯渇化現象によく似ているという。

 ひとまず、メルヴ・ウィザードにはエーリク様が魔力を付与し、私はふわりんにハンカチを食べさせてみた。すると、元気になったようでホッと胸を撫で下ろす。


「ゼラ、お前は何か感じなかったか?」

「わたくしはよくわかりませんでした」


 大聖堂には幼少期から毎日通っていたが、眠気や体調不良に襲われたことなどなかった。


「ただ、神父様の説教を聞いているときは、猛烈な眠気に襲われることがありましたが」

「それは関係ないだろう」


 エーリク様は顎に手を添え、しばし考え込むような仕草を取った。


「もしかしたら大聖堂内に、魔力を吸収する魔法が常時展開されているのかもしれない」

「魔法を否定する聖教会に、魔法ですか」


 エーリク様曰く、常時展開される物となれば、魔法に精通している者でないと扱えないようだ。


「しかしなぜ、そのような魔法が展開されているのでしょうか?」

「わからない。ただ、聖教会が他人から奪った魔力をなんらかに流用しているとしたら、それは大変な醜聞となるだろう」


 その辺の調査もする必要があるのだろう。

 メルヴ・ウィザードとふわりんが、大聖堂内で眠ってしまわなければ気付かなかったことである。

 エーリク様は感謝していた。


 その後、しばしの休憩時間を挟んだあと、魔導省内を案内してもらった。


「ここは、魔法書を保管している蔵書庫だ」


 視界のすべてが本で埋め尽くされていた。

 床までも魔法書が納められているが、踏まないように魔法でできた透明の床が敷かれているようだ。


「こんなにたくさんあったら、探すのに苦労しそうです」

「それに関しては問題ない。必要な魔法書について口にすると、自動で手元に届くようになる」


 エーリク様が題名を言うと、どこからともなく魔法書が飛んでくる。


「このように、探す必要はない」

「すごい! とっても便利ですのね」


 私も真似してみたが、対象となる本を絞っていなかったからか、二十冊以上の本が殺到してしまった。

 ふわふわ浮かぶ本に囲まれ、困惑してしまう。

 その様子を見たエーリク様は、楽しそうに笑っていた。


 続いて案内してもらったのは、〝四賢者〟と呼ばれる人達が仕事をするエリア。


「四賢者は古くから魔導省を支える者達で、長命種でもあるため、皆、百年以上在籍している」


 ハイエルフの研究員、アナマリア。

 竜神族の魔法学者、ゲングルフ。

 ドワーフ族の魔導具職人、ハープ。

 獣人族の魔法動物飼育員、インリル。

 そんな四名で構成される四賢者と呼ばれる者達は、多忙で魔導省にはあまり帰らないらしい。皆、名前だけ在籍された状態で、世界各地を飛び回っているようだ。


「唯一、オルデンブルク大公家の当主だけが彼らを呼び寄せることができる」

「一度、会ってみたいものです」

「今、呼ぼうか?」

「いえいえいえ、とんでもない!」


 エーリク様がにやりとほくそ笑んでいたので、からかわれたのだと気付く。

 これまで彼に対する印象は近寄りがたく頑固、だった。

 けれども数日一緒に過ごしてみると、子どもっぽいところもあるのだな、と思ってしまった。


 そんな四賢者の工房があるフロアで、気になる物を発見した。


「エーリク様、あの、あちらにある大きな金属の塊はなんですの?」

「ああ、あれは鉄アレイといって、筋肉を付ける道具らしい」


 そんな物がなぜ、魔導省に置いてあるのか。気になったので聞いてみる。


「あの道具は先代四賢者の一人、闘志族ウォーリアのマルセルが、未来の豪腕魔法使いのために残していった物らしい」


 なんだか情報量が多いお方である。

 そんなマルセルさんは、十年前、エーリク様の父君の訃報を聞いて、悲しみのあまり魔導省をあとにしてしまったようだ。

 そして新たに、インリルさんが四賢者に就任したという。


「それはそうと、四賢者だけでなく、魔導省内に魔法使いの方々を見かけないのですが、みなさんどちらにいらっしゃるのですか?」

「ああ、皆、転移魔法で移動する上に、他者との交流を望まない者も多いから、人の気配を感じたら自分の工房に戻る者がほとんどなんだ」

「そういうわけでしたのね」


 魔導省のトップであるエーリク様が戻ってきたというのに、出迎えもなければ取り巻く人達もいない。聖教会の偉い人の周囲には人が大勢いるので、その違いに驚いてしまった。


「ユーノみたいに、お喋りな者は珍しい。それゆえ、僕の補佐官が務まっているのだろう」


 言われてみれば、議会で会うときのエーリク様も寡黙なイメージがあった。

 慣れたら喋ってくれるが、そうでない人達を相手にしているときは口数が少ないのだろう。


「次は食堂だ」

「はい」


 食堂と言えば大きな長テーブルがあって、みんなで和気あいあいと食べる空間というイメージだった。

 けれども魔導省の食堂はひと味もふた味も異なっていたのだ。


「こ、これは……」


 エーリク様が食堂と言って案内した部屋には、半円状の天幕がいくつも並んでいた。


「あの、ここが食堂で間違いないと?」

「ああ、そうだ」


 なぜこのような形態を取っているのかというと食事中無防備になり、食べることに集中できなくなるので、このような個室を提供しているようだ。

 中は思いのほか広く、大人が五人くらい寛ぐことができるという。

 天幕の内部に直接転移することもできるようで、お昼時にもかかわらず、人の姿がなかったのだ。


 ちなみにエーリク様がここにやってくるのは初めてだとか。

 毒を警戒し、普段は執務室で食事を取っていたそう。


 テーブルには魔法陣が描かれており、座ると本日のメニューと書かれた文字が浮かんでくる。


 ◇魔導食堂、本日のメニュー◇

 日替わり定食(カボチャのポタージュ、白身魚のフリット、焼きたてパン、プリン)

 野菜定食(野菜スープ、山盛りサラダ、野菜炒め、野菜フライ、ケークサレ、ニンジンプリン)

 肉定食(牛テールスープ、牛肉のワイン煮込み、焼きたてパン、プリン)

 魚定食(海鮮スープ、魚のソテー、焼きたてパン、プリン)

 デザートセット(プリン、紅茶)


「おいしそうですね」

「何か頼んでみたらどうだ?」

「いいのですか?」

「ああ」


 エーリク様がテーブルに触れると、注文画面が出てくる。

 登録している魔力に反応して、オーダーできる仕組みらしい。飲食代は給料から天引きされるようで、料理も転移魔法で提供される。そのためここの食堂は誰とも接触せずに食べることができるようだ。 


「エーリク様はどれにしますか?」

「いや、僕はいい」

「お昼ですので、何か食べましょうよ」


 無理強いはよくないと思ったものの、エーリク様が食べられる物を増やすためには、少々強引に誘ってみるのも手だろう。


「お腹、空いていませんか?」

「空いてる」

「だったら食べましょう」


 エーリク様は魚定食を選んだようだ。私は日替わり定食を注文する。

 料理はすぐに提供されたので、驚くこととなった。

 エーリク様は眉間に皺を寄せ、料理を凝視していた。


「わたくしが毒見をしましょうか?」

「いや、いい。大丈夫だ」


 エーリク様の命を狙っていた兄夫婦はいない。毒の心配などしなくてもいいのだが、長年の警戒心と習慣はすぐに直せるものではないのだろう。

 気持ちの整理に時間がかかるのかもしれない。

 私は温かいうちにいただくことにした。

 焼きたてパンを千切ると、ふわりと湯気が漂う。

 表皮クラストはカリカリで、頬張ると小麦が豊かに香った。


「エーリク様、このパン、とってもおいしいです。召し上がってみてください」

「ああ」


 促されるようにして食べ始めたが、パンを口にした瞬間ハッとなる。


「いかがですか?」

「たしかに、おいしい」


 それから無言で平らげる。

 とてもおいしい料理の数々だった。


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