朝食を作ろう
まずは朝食を用意しよう。
ふわりんと共に蒸留室に転移する。
「さて、朝食のメニューを考えませんと!」
まず、食材を把握してみる。
自給自足をしていると聞いていたが、いったいどんな物を作っているのか。
食品庫にはニンジン、ジャガイモ、カブ、キャベツ、カボチャ、ホウレンソウなど、種類豊富な野菜がある。
他、乾燥キノコや魚の水煮、ジャム、小麦粉などの保存が利く物もある。
「どの食材を使いましょうか」
ひとまず、主食を作るために必要な小麦粉を手に取る。
今から調理に取りかかるので、発酵に時間のかかるパンは難しい。
もっと手軽に簡単なものを、と考えていたらハッと閃く。
「パンケーキを作りましょう!」
材料は小麦粉に砂糖、塩、ふくらし粉にバター、牛乳――それから卵。
パンケーキなんて久しぶりだ、とわくわくしながら卵を手に取ったあと、緑色の黄身だということを思い出してしまう。
「これを使ったら、緑色のパンケーキになりますわね」
卵がなくとも、パンケーキは作ることができる。別の料理に使おうと思い、そっと戻しておいた。
ボウルに目分量で小麦粉や砂糖、ふくらし粉、塩を入れていく。
「あとは牛乳を――」
床下にある地下収納を開いたが、牛乳は見当たらない。
昨日、牛乳は毎朝搾って新鮮なものがある、という話を聞いていたのだが。
「もしかして、切れているのでしょうか?」
なんて呟いた瞬間、蒸留室の床に魔法陣が浮かんだ。
「あら?」
エーリク様かと思ったが、浮かんだシルエットは小さい。
私の膝丈くらいだろうか。
光に包まれていたその姿が露わとなる。
『ンー?』
私を見て小首を傾げていたのは、二足歩行をした大根みたいな生き物。
三角帽子を被り、片眼鏡をかけていて、木の枝のような手には牛乳が入った瓶を抱えていた。
「あなたは?」
『メルヴ・ウィザードダヨ!』
「ど、どうも、初めまして。わたくしはギーゼラ・フォン・リンブルフと申します」
葉っぱの手先を差しだしてくれたので、そっと握った。
この子――メルヴ・ウィザードとはいったい何者なのか、と思っていたが、そういえばエーリク様が使い魔がいる、と話していたのを思い出した。
「メルヴさんはエーリク様と契約をされている使い魔ですの?」
『ソウダヨ!』
朝から乳搾りをして、牛乳を運んできてくれたようだ。
魔法で殺菌もしているようで、すぐに飲むことができるらしい。
「わたくし、料理に牛乳を使おうと思っておりまして、いただいてもよろしいでしょうか?」
『イイヨ!』
メルヴ・ウィザードは快く牛乳を差しだしてくれた。
「ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝えると、気にするなとばかりに手を振ってくれた。
『料理、手伝ウ?』
「よろしいのですか?」
『イイヨ!』
力仕事が得意だというので、二品目に使う卵料理のメレンゲ作りを任せることにした。
私はふわりんに見守られながら、パンケーキ作りに集中する。
先ほどのボウルに新鮮な牛乳と油を注いでかき混ぜる。
生地が完成したら、熱した鍋にバターを落とし、生地を流し込む。
表、裏ときつね色になるまで焼いて、最後に弱火で蒸し焼きにしたらパンケーキの完成だ。
次なる調理に取りかかる。カットしたホウレンソウを茹でて乳鉢ですり潰し、ペースト状にした。
『メレンゲ、コレデイイ?』
「はい、ありがとうございます!」
メルヴ・ウィザードが作ってくれたメレンゲに、緑色の黄身、それからホウレンソウペーストを加えて混ぜる。刻んだベーコンも入れて、コショウで軽く味付けをしてから焼いていく。
メレンゲを崩さないよう、慎重に焼くのがコツだ。
「上手く焼けました!」
ホウレンソウとベーコンの、スフレオムレツの完成だ。
これは緑色の黄身が気にならないように考えたメニューである。
ホウレンソウが入っていると思えば、拒絶反応もなく食べることができるだろう。
あとはソーセージを焼き、付け合わせの温サラダを添えて盛り付けたら、ワンプレートモーニングの完成だ。
「メルヴさん、ありがとうございました。とても助かりました」
『イイヨ!』
まだ仕事があるらしく、メルヴ・ウィザードとはここでお別れとなった。
エーリク様はお気に召してくれるだろうか。ドキドキしながらふわりんと共に食堂へ転移する。
まだエーリク様はいないようだ。
紅茶を淹れ、蒸らしている間にエーリク様がやってきた。
「エーリク様、おはようございます!」
「……おはよう」
エーリク様は朝が弱いのか、顔が見えなくなるくらい頭巾を深く被っていた。
「お食事を用意しました。お口に合えばいいのですが」
「これ、朝から作ったのか?」
「はい」
毒見など必要があればしてほしい、と自ら申告したものの、しなくてもいいという。
「食卓には毒に反応する魔法をかけてある」
どのタイミングで毒が混入されるかわからないため、念には念を入れているようだ。
さすがとしか言いようがない。
エーリク様は椅子にすとんと腰を下ろし、食前の祈りを始めた。
私も同じように、手と手を合わせる。
「いただくとしよう」
ドキドキしながらエーリク様が食べる様子を見守る。
まずはパンケーキから食べるようだ。
上に載せたバターがほどよく溶け、食べ頃となっている。
エーリク様は一口大にパンケーキを切り分け、ぱくりと頬張った。
「――!!」
エーリク様は突然、口元を押さえたのでギョッとする。
「あの、おいしくなかったですか?」
「違う……とてもおいしい」
その言葉を聞いて深く安堵する。
「こんなにおいしいパンケーキは、生まれて初めて食べた」
「よかったです」
他の料理もお口に合ったようで、ホッと胸をなで下ろす。
朝から頑張ってよかった、と思ったのだった。




