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 妹のほうが可愛いのは、仕方がないと思っています。

 見た目も性格も、愛されるタイプだとわかっていますから。

 だから私は、ずっと我慢してきました。


 お母さまも、使用人も、周囲の人たちも、いつも妹にばかり笑顔で話しかけます。

 私は、話しかけられることすら少なくて、挨拶を返すだけで終わる会話ばかりです。

 でも、気にしないようにしてきました。

 だって、私がお姉ちゃんだからです。


 昔は、「どうして妹ばかり」と思ったこともありました。

 でもそのたびに、「わがままを言わないの」と叱られました。

 それからは、感情を押し殺して、黙って笑って、我慢するようにしました。


 お茶会の誘いも、気づいたら妹だけに届くようになっていました。

 「予定が合わなかったのかな」とか、「たまたまかも」と思おうとしましたが、

 私が友達だと思っていた子たちは、いつの間にかみんな妹の友達になっていたんです。


 


 ◇


 


 家業の商会の仕事も、私は真面目にやってきました。

 私は長女ですから。いずれ婿取りをして、この商会を継ぐ立場なのです。

 とくに事務仕事は、最初こそ不慣れでしたが、ひとつずつ覚えて、丁寧にこなしてきたつもりです。

 納品書の確認、帳簿の照合、棚卸しの控え……。

 最初は指摘されることもありましたが、見直して、次からは気をつけて、確認にも時間をかけていました。


 なのに、また後日「違ってます」と言われました。

 何度も同じようなことが続いたので、「どこがどう違うのか教えてください」とお願いしましたが、

 返ってきたのは「もう結構です」の一言だけでした。

 それから私は、事務の担当を外されたんです。


 その後、代わりに妹がその部署に入ったと聞きました。

 ……なんだか、背中が冷たくなったのを覚えました。

 これって、もしかして――嵌められたのかもしれないと思ってしまいました。


 


 最近は、納品の確認作業でも、空気が変わってきた気がします。

 現場の従業員たちが忙しく動いている中、私も「手伝いますね」と声をかけていました。

 でも私は、まだそこまで詳しくないので、「皆さんのほうが経験豊富ですし、私が教わる立場ですよね」って、ちゃんと下手に出ています。

 跡取り娘だからって、偉そうにはしていません。

 それなのに、次第に私が声をかけても、皆さんの態度はよそよそしくなっていきました。

 気づけば、みんな妹とは普通に話すのに、私のことは避けるようになっていました。


 ……私、何かしたんでしょうか? なぜなんでしょう?

 頑張ってきたつもりです。

 誰よりも気を使って、商会のために動いてきたつもりなのに。


 だんだん、この場所が“自分の居場所じゃない”ように感じてきて――

 正直、怖いです。


 


 ◇


 


 去年の町のバザー。

 人から避けられているかもしれない、というのは、自分でもなんとなく気づいていました。

 妹に友達を取られ始めた頃から、親しい人と呼べる相手はいなくなっていました。


 正直、参加しづらかったです。

 けれど――地域の活動は大事ですし、

 私自身のことを知ってもらえたら、少しは空気も変わるかもしれないと思って、勇気を出して参加しました。


 役目はお茶係でした。

 お客様に笑顔でお茶を差し出して、お菓子をきれいに並べて、「楽しんでいただけてるかな」と気を配りました。

 誰かが頑張っているところを邪魔しないように、自分にできる範囲で動いて、場を支えました。

 目立つ仕事ではないかもしれませんが、大事なことだと思って、私はしっかりやろうと頑張ったんです。


 ――けれど、そのあとの打ち上げには、私は呼ばれませんでした。


 「え? どうして?」と思いましたが、誰も何も説明してくれませんでした。

 妹はちゃっかり参加していたみたいで――あの子、本当にそういうところがあるんです。

 後から入ってきて、いいところだけ持っていくというか。

 ほんの少しの働きで、全部自分の手柄にしてしまう感じです。


 ……そういうのって、私、ちょっと苦手なんです。

 ……何もかも、妹に取られていく気がします。


 


 ◇


 


 婚約者のレオン様のことだって、そうです。

 うちの婿養子になる話は、ちゃんと進んでいました。

 お互いの両親も了承してくれていましたし、あとは時期の問題だけだったんです。


 最近、妹とよく話しているのを見かけます。

 笑顔で、親しげに。まるで、私の存在なんて最初からなかったかのように。

 あの子、何か吹き込んでいるんじゃないかって思ってしまいます。

 そうじゃなければ、こんなに急に距離ができるはずがありません。


 ……私の人生って、ずっとこうなのでしょうか。

 頑張っても報われない。

 要領のいい妹が、全部持っていくんです。


 


 ◇


 


 だから――もう、限界なんです。

 我慢しても、我慢しても、報われません。

 褒められるのはいつも妹。

 頼られるのも、選ばれるのも、全部妹。

 私がしてきたことなんて、誰も見てくれていませんでした。


 


 ◇


 


「なんで我慢してるの?」


 取引で時々店に来ていた彼に、いつからか、ぽつりぽつりと愚痴をこぼすようになっていました。

 私のことも、妹のことも知らない人だったからこそ、つい本音を話してしまったのだと思います。

 その彼に言われた一言が、ずっと胸に残っています。


 

 ◇


 

 だから――決めました。

 全部、私のほうから捨ててやります。


 もう、知りません。

 家族も、商会も、レオン様も。

 私の価値に気づいても、もう遅いんです。


 


 ◇


 


 ……私、ずっと我慢してました。

 誰にも言わずに、黙って、控えめに、健気に、頑張ってきたんです。

 それが認められないなら、私がいなくなってどれだけ困るか、思い知ってください。


 私、いなくなりますね。

 ――後悔、してください。

 




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