002 世界の救世主、実は全然覚えてない
リチャードの言葉が、私の頭に響く。
「ユイナ様が命をかけて世界を守り、今、新たな命を授けられました。この世界で、あなたの役割を果たすために。」
私は言葉を失った。ただ、それを飲みこむしかなかった。自分が誰で、何をしていたのか、全く思い出せない。全てがぼんやりとして、遠くに感じられる。
「私が…英雄だったの?」と、私はぽつりと呟く。
リチャードは少しだけうなずいた。
「どうして、私は転生したんだろう…」と、胸の奥からわき上がる問いを口にする。リチャードはしばらく黙っていた後、おだやかに答えた。
「お嬢様、私が執事としてお仕えしている以上、私はお嬢様の過去も未来も、全ての責任を持って見守るつもりです。その答えも、必ずお嬢様の中にあります。ですが、今はただ、世界があなたを必要としたからだとだけお伝えしておきます。」
「世界が…私を?」と、私は驚きと不安をこめて尋ねる。
リチャードは私をじっと見つめ、おだやかな声で続けた。
「はい。この世界で、あなたには果たすべき役割があります。それを理解し、受け入れることが、あなたの使命です。」
その言葉を受け、私はしばらく何も言えなかった。今、自分の目の前に広がっているのは、過去でも未来でもない。ただ「今」だ。その重さが心にずっしりと響く。
「役目…」と、私はその言葉を何度も繰り返した。
リチャードは優しく微笑んだ。
「お嬢様ならできる。それを証明するために、私はここにいます。執事として、常にお手伝いさせていただきます。」
その言葉に、わずかながら希望を感じる。しかし、心の中の不安や恐れは簡単には消えない。
私は深呼吸をして、リチャードを見つめる。過去も未来もわからない。それでも、今、ここで何をすべきかだけは、はっきりと感じていた。
「私は…やらなきゃいけないのね。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。