クリスマスプレゼント
香穂は悩んでいた。
数ヶ月前にサンタさんにお願いしていた人形セットはキャンセルできるだろうかと。
人形セットに代わって欲しいものができたと言ったら、サンタさんはプレゼントをくれないかもしれない。
そんな事を香穂は考えていた。
けれども香穂にとって、新しいお願いはどうしても聞いて欲しかったので、一人聖夜にベッドでサンタを待っていた。
夜勤で出ている母親の作った料理も残してあるので、サンタさんと一緒に食べながらお願いしてみようと香穂は思っていた。
やがてベッドの中で目がうつらうつらとなる香穂。
シャンシャンシャンと鈴の音が聞こえて、ああ、やっと来たと思った瞬間、香穂の目は閉じた。
そして、翌朝。
香穂の枕もとには白い大きな布の袋があった。
恐る恐る香穂は袋の中を覗いてみると、そこには人形セットは無かった。
代わりのものが入ってあった。
けれども代わりのものは、香穂の想像していたものとは違うもので、香穂はどうしたものかとまた悩んでしまった。
母親が帰るのは昼頃である。
それまで待っているという手もある。
しかし、香穂はその白い袋を持って玄関へと向かった。
一体どこへ向かうのだというのだろうか。
香穂が訪れた先は保育園。
香穂の通っているところである。
年末も忙しい親のためにそこでは二十八日まで開かれていた。
「とうのせんせー!」
香穂は保育園のインターホンを押して、自分の組の先生の名を呼んだ。
程なく東野先生は香穂の元にやってくる。
「あら、香穂ちゃん。どうしたの?お母さんは?」
「せんせー。クリスマスプレゼント」
「あら、先生にくれるの?」
香穂は首を振る。
「ううん。これ、かほの。でも、なんかヘンなの」
「そうなんだ。変なんだ。それよりも香穂ちゃんお母さんは?何処にいるの?」
「おかあさん、しごと」
「もしかして香穂ちゃん一人で来たの?」
「うん」
「それじゃあ、とりあえず園の中に入ろっか?」
「うん」
香穂は東野先生に連れられて、保育園の中に入っていく。
それから東野先生は香穂の母親の携帯に電話をかけ、連絡を取る。
いつもはたくさんの子供達がはしゃいでやかましい園の中も今日は静かであった。
「香穂ちゃん。もうすぐお母さん来るからね。お母さんすごく心配してたよ。今度からどこかに出かける時はちゃんとお母さんに言ってから出てこようね」
「うん。ごめんなさい」
うなだれる香穂。
「でも、せんせーにこれ、みてほしくて」
そう言って、香穂は持ってきた白い袋の中に手を伸ばす。
そして、それを取り出す。
「いやああぁぁぁぁーー!」
悲鳴を上げ、飛びのく東野先生。
それは、
数週間前に海外で行方不明なった父親。の首だけ。腐食が激しく、腐敗臭が出したとたんに辺りに蔓延する。頭の毛は抜け落ち、所々まばらに生えている。目はもう既に眼球は無く、その奥の肉の色と白い物体がうごめくのが見える。鼻はあるが、あらぬところに穴が開いているので、もし今呼吸をすると空気が漏れ出て、変な音がしそうである。普段は赤い唇が土気色をしている。頬を食い破りウジが一匹、二匹ぽとりと落ちる。丸々と太ったそのウジは立派なハエになりそうである。
「せんせー、みて。これ、かほのおとうさん」
香穂はそれを手に二コリと微笑んだ。