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洗礼

いよいよ洗礼本番です。

一族総出と言っても過言ではない立会人に少し緊張しています。

アデルは、無事に洗礼を終える事ができるでしょうか。

 今日は、大切な洗礼の日だ。

 朝早く起きて入浴し、身なりを整えたら、自分の部屋で朝食を取る。


 洗礼のための衣装は和洋折衷で、ドレスの上から日本の古い時代の着物を重ねたように見える。

 まず、Vネックの赤いブラウスの上に、Vネックの白いブラウスを重ねて着る。襟が綺麗に紅白に見えるように着るのがポイントだ。

 次に、キュロットタイプのパニエを履いて、その上に布をたっぷり使ってタックをたくさん取ったキュロットスカートを履く。

 最後に、水干のように袖が広くて丈が膝くらいまでの上衣を着て細帯を締める。上衣は全体が白地で、裾の方に赤や金の糸を使った刺繍が施されている。


 私の前世とか、祝詞とか、この衣装とか…。

 この世界の神様は、日本の神様となんか繋がりがあるのかなぁ?


 髪はハーフアップにして白い花の飾りを付けてもらう。足元は普通に靴を履く。


 支度が済んだら、お父様の私的応接室に集合だ。今回も、王宮内の移動なので、メアリとオリビアと護衛騎士三人と一緒に移動する。


 お父様の応接室に入ると、お父様とお母様が待っていてくれた。

「おはようございます、お父様、お母様」

「おはよう、アデル。よく眠れたかい?」

「はい、よく眠れました」

「アデル、私の可愛い()。緊張しているかしら?」

「はい、少し」

「大丈夫よ。怖い事も痛い事もないわ。大丈夫、大丈夫」

 お母様が私の手を取って、ポンポンと優しく叩いてから撫でてくれる。


 そこに今日の立会人が入ってくる。

 最初は、お祖父様と現ルグラン公爵で騎士団長のロベールおじ様だ。

「国王陛下、王妃殿下、おはようございます。エルちゃん、おはよう。洗礼の衣装もよく似合ってるぞ」

「おはようございます、お祖父様。お褒めいただいて嬉しいです」


 次に入って来たのは、前ゴディエル公爵のステラルクス様と現公爵で魔法師団長のグラーチェおじ様だ。グラーチェおじ様は、前ゴディエル公爵の養子になることで臣籍降下した元王弟殿下だ。

「国王陛下、王妃殿下、アデリエル王女殿下、おはようございます」

「兄上、義姉上、姫ちゃん、おはようございます」


 最後は、前ランベール公爵のラファエル様と現公爵で宰相のイザークおじ様だ。

「陛下、妃殿下、姫殿下、おはようございます」

「…おはようございます。皆様、お揃いのようですので、陛下よりお言葉を賜ります」


 ちなみに、三人の前公爵は、お父様の相談役を務めておられる。

 もう一つちなみに、ここにいる人は、全員親戚だったりする。


 入ってくる人の挨拶に頷いて応えていたお父様が、周囲を見渡して話し出す。

「本日は、娘の洗礼の立会人となってもらう為に集まってもらった。息子二人に続いての事であるから皆も慣れていると思うが、慎重に行動して欲しい」

 皆様、真剣な顔で頷いている。


「アデリエル・ル・セス・コントラビデウス」

「はい」

「今日のこの良き日に、洗礼を受ける事を喜ばしく思う。良い結果を得られるように神と真摯に向き合う様にいたせ」

「かしこまりました」

「では移動する」


 私達は、廊下に面した扉とは反対側の、居間に通じる扉を抜け、居間の奥の扉の前で立ち止まる。お父様が首に下げていた鍵で扉を開けると

「ここから先は、王家と公爵家の者しか入れぬ。皆、ここで待つように」

と言うと、扉の中に入って行く。


 続いて私とお母様が入る。見回してみると、6畳くらいの広さで窓が無い、白い壁に囲まれた部屋だ。部屋の奥の壁一面に、魔法陣のような紋様が浮き出ている。

 全員が部屋に入ると、お父様は扉の鍵を閉めた。そして、紋様の中心に手を当て小さな声で呪文を唱える。すると、すぐに紋様がキラキラしてきて足元から浮遊感を感じた。


 周囲の人が平気な顔をしているので私も平気なフリをしているが、実は心臓バクバクなのだ。


 浮遊感が収まると、お父様が手を当てている壁が、溶けて消えた様に無くなり、デアフォルフォンスの東屋のような空気感の場所に繋がった。


「神殿に着いたぞ」


 着いたって言い方…。

 やっぱりエレベーターだ! 

 いや、物理的におかしいツッコミ所が、いっぱいあるんだけど!


 一歩足を踏み出すと、そこはドーム状の大きな洞窟になっていた。何なのか判別できない光源がドーム天井の中央にあり、洞窟内は昼間のように明るい。


 入口の真正面の奥に、6体の神像が壁に沿って弧を描くように配置されている。その前には供物台のような大きな台があるが、上には何も載っていない。その手前の床には、魔法陣のような紋様がうっすら見える。


 お父様は、私をその紋様の前に立たせると、一歩後ろに下がった。

 立会人の皆様は、お父様の後ろに四列に並んで立っている。


「ただ今から、アデリエル・ル・セス・コントラビデウスの洗礼式を始める。

トールトスディスの新たなる子よ。神の御前に進め」


 私は、床の紋様の中心に進んで左膝をつく。後ろの方でも一斉に膝をつく気配がする。私は、教えられたとおりに両手を胸の前で交差して、祝詞を奏上する。


 (あま)神留(かむづ)まり()す六つ柱の大神

 光の女神ルーチェンナ

 闇の神ティーネブラス

 火の女神フランマルテ

 水の神オークレール

 土の神ソルテール

 風の女神ラファーリエ

 六つ柱の大神の(みこと)()ちて

 神の契約者(コントラビデウス)神の箱庭(トールトスディス)安国(やすくに)(たいら)けくろし()せと事依(ことよ)さし(まつ)りき

 安国を平けく知ろし食さむ國中(くぬち)に成り()でむ益人等(ますらおら)が新たなる()を成さむと

 天つ宮事(みやごと)以ちて天つ祝詞の太祝詞(ふとのりと)()らむ


 私が奏上する祝詞に呼応するように、6体の神像が、それぞれの属性を表す色に輝き出す。光の女神は金色に、闇の神は紺色に、火の神は赤く、水の神は水色に、土の神は緑に、風の女神は黄色く輝いている。


 祝詞の奏上が終わると、天井の光源から一条の光が差し、供物台と思われた台に光が当たる。次の瞬間には、台の上に黄金の獅子が顕現していた。


「今日の祝詞は、新たなる子だね。やあ、ルーチェステラ、久しぶり」

 獅子の口は動いていないのに、声が聞こえる。

「レオアウリュム様、お久しぶりでございます」


「他の者は、シルヴァプレに加護を授けて以来だね。変わり無いようで嬉しいよ。ステラルクス、フォルゴランス、グラーチェステラ、それからアールブムビィアの子と孫、フォルゴランスの子。で、こちらの女人がフォルゴランスの子でルーチェステラの伴侶、ちゃんと覚えてる」

「はい、お久しぶりでございます」

と、ステラルクスが答える。


「今日の新たなる子は、初めてだね。女の子なんだ」

「はい、アデリエルと名付けました」

「ふーん…。君、珍しい魂を持ってるね。水の星から来たのかな」

「それは…。レオアウリュム様、差し支えなければ私の娘について、もう少し詳しく教えを賜れませんでしょうか」

「いいよ。別に悪い事じゃ無い。この新たなる子は、我らが水の星と呼んでいる別の世界で生じた魂を持っているんだ。とても(すが)しい気配で好もしい」


 うぎゃっ、バレた! 

 何でバレるんだぁ? 

 あ、神様だからか…。

 どうしよう!


「アデル、心当たりがあるか?」


 嘘ついても無駄だよねぇ…。

 観念するか。


「…はい」


 後ろが騒がしい。

 あー、逃げ出したい!


「アデル、その件に関しては、あとで話をしよう」

「はい」


「レオアウリュム様、私の娘は、ご加護を賜る事ができますでしょうか」

「大丈夫だよ。その前に、新たなる子にルーチェオチェアーノスの名を授ける」

「!!」


 再び後ろが騒がしくなる。

「なんと名を…」

「こんな事があるのか」

「過去にない事だぞ」


 お父様が小声で指示する。

「アデル、お礼を申し上げなさい」

「レオアウリュム様、名をありがとう存じます」

「うん、いいね。君、前の記憶があるね。でもこの箱庭には六つ柱の大神が定めたルールがある。そのルールから逸脱しないよう、過度な知識の流布は禁じるよ」


 おおお、見えない圧を感じる。

 これは逆らったらイカン!


「はい」

「この箱庭の運営は、ルーチェステラに任せている。それが故に、王と名乗る事を許している。その辺りは、ルーチェステラに聞いてね」

「かしこまりました」

「では加護を授ける」


 レオアウリュム様がそう宣言するように言うと、天井の光源から様々な色の光が私の頭上に降ってきた。同時に、足元の紋様に魔力を吸い出され、紋様が光り輝きだした。

 光が降り止むと、レオアウリュム様が私に、言祝ぎの言葉をくれた。

「おめでとう。君は、六つ柱の大神全てに気に入られたようだね。これで、正式にコントラビデウスの一員となった。ルーチェステラを支えて励むように」

 レオアウリュム様の言葉を合図にしたように、紋様の光が消える。

「はい、ありがとう存じます」


「じゃ、ルーチェステラ、またね」

「レオアウリュム様、格別のご配慮、ありがたく存じます。今後とも私共コントラビデウスをお導きくださいますようお願い申し上げます」

「分かってるよ。六つ柱の大神にもよろしく言っておくね。じゃあね」


 再び、天井の光源から一条の光が差し、レオアウリュム様を包み込むとすぐに、その姿が消え、一条の光も消えた。


 神殿内は、静まり返っている。


 お父様は、立ち上がると後ろを振り返って

「皆、ご苦労であった。無事、ご加護を賜った。しかし、話をせねばならぬ。皆、時間はあるか?」

と、厳しい顔をして言う。

「エルちゃんの事じゃ。わしはいくらでも時間を作るぞ」

と、お祖父様が言えば

「過去にない事が起こったのだ。何を差し置いても話をせねばなるまい」

と、長老格のステラルクス様が言った。

 他の方々も頷いている。


 うわぁ、事情聴取だ、きっと!


「では、場所を変えよう」

と、お父様が言うと、皆、出口に向かう。

 お母様が手招きして、一緒に移動する。でも、内心は大パニックだ。


 取り調べにカツ丼出るかな? 

 いや、パニクるにも程があるだろ!

まさかの事態発生!

神の化身に、アデルの転生と前世の記憶の事を暴露されてしまいました。

でも、実は名を賜ったことの方が重大なのですけど、アデルは気付いていません。

次は、親族会議です。

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