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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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お兄様方とのお茶会

お父様の執務室でのやりとりが楽しすぎて長文になってしまいました。

お兄様方の優しさ(?)のおかげで、お兄様方の印象が変わるかもしれません。

「アデル、おかえり。お疲れ様」

「ただ今戻りました。お出迎えありがとう存じます」

「アデルの無事な姿を見て安心したよ」

 そう言いながら、ディー兄様が私の背に手を回して、さりげなくエスコートしてくれる。


 さすが、王子様。

 11歳とは思えないスマートさがある。


「アデルと兄上、僕と三人で、今日の午後、お茶会ができないかな?」

 シル兄様が横に並んで歩きながら誘ってくれる。


 お兄様方とのお茶会は予定になかったので、どう答えたらいいのか判らない私はメアリを見る。

 するとメアリが頷きながら

「陛下への帰城のご報告が終われば、その後の予定はございません」

と答え、ディー兄様の側仕えとシル兄様の側仕えの三人で話し始める。


「アデル、急に誘ってごめんね。メアリとジュスタンに事前に言えば良かったね」


 ジュスタンはディー兄様の筆頭側仕えで、ブラン侯爵子息だ。


「大丈夫ですよ、シル兄様。メアリはこんな事で怒ったりしません」

 しばらく待つと、

「姫様、事情が判りましたので、お招きを受けてくださいませ」

と、メアリが耳打ちしてくれたので

「ディー兄様、シル兄様、お茶をご一緒させてくださいませ」

と、お招きを受けた。


 急にお茶会なんてどうしたんだろう? 

 襲撃の事を気にしてくれているのかなぁ?


 宮城に入った所でお兄様方と別れて自分の部屋に戻る。プルガーバプティーモスの完了報告をお父様にするために、すぐに着替える。

 着替えが終わったら、メアリに促されて移動を始める。

「姫様、陛下は執務室でお待ちになっておられますので参りましょうか」


 お父様の執務室に入ると、お母様、イザークおじ様に加えてグラーチェおじ様、ロベールおじ様、それにお祖父様まで待っていてくれた。


「お父様、お母様、ただ今戻りました。プルガーバプティーモスを無事に終えましたので、ご報告いたします。皆様ごきげんよう。お話中に失礼いたします」

「皆、アデルを心配して集まってくれたのだ。無事に帰って来てくれて良かった」


 お父様の言葉が終わるや否や、お祖父様が私を抱き上げ

「エルちゃん、おかえり。この前は酷い目に遭ったね、可哀想に。それなのに最後までやり遂げて偉いぞ!」

と、頬ずりしてきた。


 ぬおおお、髭が痛い!


 ちなみに私の事をエルちゃんと呼ぶのは、お祖父様だけだ。

「お祖父様、ご心配をおかけしてごめんなさい」


 母方の祖父、先代ルグラン公爵のフォルゴランスは、孫の中で唯一の女の子であるアデリエルを溺愛している。アデルの記憶の中では、大好きなお祖父様だ。

「父上、姫殿下を潰さないでくださいよ。姫殿下、お疲れ様でした」

と、ロベールおじ様がお祖父様を牽制してくれる。


「姫ちゃん、禊、お疲れ様。次は洗礼だね」

 グラーチェおじ様が優しい声で労ってくれた。ちなみに私の事を姫ちゃんと呼ぶのは、グラーチェおじ様だけだ。


「おじ様方もご心配かけてごめんなさい。無事、終わりました」


 お祖父様に抱き上げられたままの私を見て

「お父様、アデルを降ろしてくださいませ。このままではアデルにお茶をあげられませんわ」

と、お母様がお祖父様を叱る。


 お祖父様が首をすくめて私を降ろすと、今度はお父様が私を抱き上げる。

 するとお母様がお父様を横目で見て

「陛下」

と一言。するとお父様は

「私の娘だ」

と拗ねた様に言う。その間、私はクスクス笑っていた。

 

 呆れたお母様が

「さあ、皆様、お座りになって」

と皆をソファに促した。


 側仕えがお茶を出して下がるとお父様が

「何か思い出した事があったか?」

と優しく尋ねる。

「いいえ、お父様、何も思い出せませんでした。ごめんなさい」

「何も謝る必要はないぞ。ただ確かめただけだ。何も無いならそれで良いのだよ」


 あれっ? 

 お祖父様とおじ様方が怒ってる?

 怒りのオーラが渦巻いてる気がする。

 私、やらかしたのかな?


 お母様が空気を読んで、話題を変えるために、私に話しかける。


「無事に禊を終えられて良かったわね。洗礼の時にはルグラン公爵家からお父様とロベール兄様、ゴディエル公爵家は先代のステラルクス様とグラーチェステラ様、ランベール公爵家から先代のラファエル様とイザーク様が立ち会ってくださるわ。もちろん陛下と私もよ。良かったわね。これだけの方々に見守っていただければ、アデルも安心でしょう?」


「はい、お母様。洗礼の手順は、もう覚えました。祝詞があと少しですけど頑張りますね!」

 私は、ガッツポーズをしてにっこり笑う。


 それを見ていたお祖父様やおじ様方も空気を和らげ微笑んでくれた。


 お母様、グッジョブ!


「アデル、洗礼の披露目では、そなたの入場のエスコートをディーとシルに任せる事にした。あとで二人とよく打ち合わせをしておきなさい」


 あー、それでお茶会かぁー。


 メアリを見ると頷いたので、急なお茶会の理由が解った気がする。


「分かりました、お父様。あとでお兄様達とお茶会をするのでその時に打ち合わせしますね」

「うむ、それで良い。アデル、私はこれからお祖父様方と話がある。そなたも茶会の準備をするのだろう? 部屋に下がっても良いぞ」


「はい、お父様。ご配慮ありがとう存じます。皆様、これで失礼いたします」


 部屋に戻った私は、軽い服に着替えて昼食を取る。今朝早く出発したからお腹がぺこぺこだ。それでも昼食は軽めに、食後のお茶とお菓子も控えめにしてお茶会に備える。


 時間が来たのでお茶会のために着替える。何かする度に着替えるのも王女の仕事らしいので、早く慣れないとなぁ。


 お茶会の場所は、シル兄様の居間だ。王宮内の移動なので、メアリとオリビア、護衛騎士三人と共に向かう。

 あ、マルクが本日の午後から復帰しました。お母様に言われたとおり、ちゃんと労いましたよ。


「アデル、よく来たね。さあ、こちらに座って」

「シル兄様、お招きありがとう存じます。ディー兄様、ごきげんよう」

「アデルは、あいさつが上手になって来てるね。これなら洗礼式も大丈夫だね」

 ディー兄様に褒められて機嫌よく小さな丸いテーブル席に着く。


 シル兄様の側仕えがお茶とお菓子を出してくれる。お茶会の作法としてシル兄様が先にお茶とお菓子をひと口ずつ口に入れて、どうぞと勧めてくれる。毒は入っていませんよのアピールだ。


 一息ついた所で、シル兄様が

「今日、急にお茶会に誘ったのは、父上からアデルの洗礼式のエスコートについて話があったからなんだ」

と言った。それを受けてディー兄様が

「私もシルと一緒に話を聞いているよ。打ち合わせしたいと思っていたので、シルが誘ってくれて良かったよ」

と、シル兄様に向かって微笑んだ。


 ディー兄様は、次に私に向かって微笑んだ。

「アデルのお披露目会で、私達二人が君をエスコートして入場する事になったよ」

「はい、お父様から伺いました」


 ディー兄様が手招きするので、顔を寄せると

「父上とイザークおじ上が、先日の事件の首謀者の炙り出しをしたいらしいんだ」

と小さな声で言い、体を起こしたので、私も姿勢を正す。


「そこで私たちの出番だ」

「アデルは、我が国で唯一の王女だし、何よりたった一人の妹だもの。兄上と僕が守るって事を知らしめなきゃ」


 それって、子どもを囮にするって事なんじゃないの?


「お兄様方が危険な目に遭うのは嫌です!」


 しまった! 

 つい大声が出ちゃった!


「大丈夫、ロベール伯父上とグラーチェ叔父上も協力者だからね」

 私が意味が分からないという顔をすると、ディー兄様が

「つまり、国を挙げての作戦という事だよ。それに、父上が私達を危険な目に遭わせるはずがない。父上は、アデルに二度と恐ろしい思いはさせない、と約束してくださった」

と言うと、今度はシル兄様が

「父上は自分の目で確かめたい。だから自分が動きやすい様にしたいんだよ」

と言う。


「ロベール伯父上が騎士団を、グラーチェ叔父上が魔法師団を、どの様に動かすのか私は知らない。君たちも知らない。アデルは何も心配せず洗礼式に集中してね」


 何も心配せずって、じゃあなんで話すの!

 と心の中でツッコンだ私は悪くないと思う。


「父上は、アデルに話すかどうか私に一任してくれた。私はね、アデル。君が何も知らないせいで、知らずに危険に近づいてしまう事が一番恐ろしいと思ったんだ。アデルにも、詳しい事は知らなくても、大体の事は知った上で、洗礼式に集中して欲しいと思うよ」

と、ディー兄様が私に言う。隣でシル兄様もうんうんと頷いている。


 ディー兄様は11歳、シル兄様は9歳だ。

 王の子というだけで、こんなに聡くあらねばならない子ども達が、

 頼もしい様な、かわいそうだと思う様な…。


「まだ7歳のアデルには、難しいかな?」


 いやいや、前言撤回!

 11歳のくせに腹黒だなぁ!

 挑発してるよ。ならば


「いいえ、ディー兄様、私、ちゃんと出来ますわ」


 負けず嫌いの私は、敢えて挑発に乗るのである。ニヤリ。


 ここで、気が利くシル兄様が話題を変える。

「そうだ、アデル。洗礼式が終わったら側近選びが始まるよ」

「シル兄様、側近ならメアリ達がいますわ」

「そうじゃなくて、アデルも10歳になったらノビリタスコラ(貴族の学校)に通うだろう。学校には成人の側近は入れないから、同世代の側近が必要になるんだ」


 学校で側近が必要? 

 どういう事?


「シル、それじゃ訳が分からないよ。アデル、側近の見習いを選ぶんだよ。学生の間、学校内で仕えてくれる未来の側近候補さ。お互いが主従としてやっていけると思う事ができれば、成人後も側近として仕えてくれる。最初はこちらが選ぶけど、彼らも学生時代を通して主人として相応しいか見極めるんだ」


「それはどうやって選ぶのですか?」

「最初は、お茶会からかな。交流の中でアデルに仕えてくれそうな者を選んで指名する。父上、母上、側近の意見を聞きながら選ぶといいよ」


「アデルは女の子だから結婚で王族では無くなる事を理由に、指名しても断られるかもしれないな」

「あの…、私が他国の王族と結婚すれば、王族のままだと思うんですけど…」


「ああ、アデルは知らなかったんだね。我が国は婚姻外交はしない。父上も母上もアデルを手放す事はしないよ」


 物語の王族や貴族は、政略結婚が当たり前の標準装備だけど、この国は何か微妙に違うらしい。

 これは心に留めておかねば…。


「兄上、アデルが固まってるよ。アデルに結婚の話はいくら何でも早すぎますよ」

「そうだね。あ、アデル、側近選びは私達も手伝うからね。なっ、シル」

「はい、兄上。悪い虫が付かない様に見極めないといけませんからね」

「ふふふ…」

「うふふふ…」

 お兄様方が黒い笑顔で見合って笑ってから、二人揃って私の顔を見てにっこりと笑う。


 うわぁ…。あーもー、なんかイメージが変わったわ! 笑って誤魔化しとこ…。

細かい所で政治的な影響があるのですが、アデルは全く気付いていません。

それに引き換え、お兄様方の優秀な事! お見事です。

次回は、いよいよ洗礼です。

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