表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/60

転移陣の設置

アデルが初めて人前で魔力を使います。

とは言え、この世界での魔法とはかけ離れた神力の行使ですからね。

どうなるか楽しみです。

 翌朝、私は側仕え達が部屋の中で動く気配で深い眠りから浮上する。

 ああ、もう朝か。まだ眠い。

 閉まった天蓋の布の隙間からは光が差し込んでいる。

 私はその薄明かりの中で目を覚ました。


「姫様、目を覚ましておいででしょうか」

「ふぁい」


 まだ少し寝惚けているので、間延びした返事をしてしまう。

 身体を起こして眠い目を擦っていると、メアリが天蓋を開いて声をかけてきた。


「おはようございます、姫様。今日も良いお天気でございますよ」

「姫様、洗顔の準備が整っておりますよ。さあ、ベッドから出てくださいませ」

「メアリ、オリビア、おはよう」


 そう言って私はノソノソとベッドから降りて、オリビアが誘導するままに化粧台の前までポテポテと歩く。

 化粧台の上には洗面器にぬるま湯が張られていて、オリビアが歯磨きとタオルを持って控えている。

 私は眠い目をしぱしぱさせながら歯磨きを受け取って歯を磨く。

 

 この世界の歯磨きは、前世の物とほとんど変わらない使い心地だ。

 とは言えプラスチックのような化学合成品は無いので、歯ブラシの毛先は何かの動物の毛だし、歯磨き剤は魔法で調合された柑橘系の味の物だ。


 歯を磨いて顔を洗った後は、服を着替える。


「姫様、国王陛下からのご指示でございます。本日、転移陣の作成時には、洗礼の衣装をお召しになる様にとの仰せでございました」


 そう言いながらメアリが差し出したのは、普段着のワンピースである。


「うん。分かった」


 目が覚めきっていない私は、生返事をしながら考える。

 あれ?

 なんか変。

 

「メアリ、朝食は?」

「はい、今朝は食堂において陛下と侯爵の御三方での朝食となります。打ち合わせを兼ねてとの事でございました」

「はぁい。おっとぉ、危ない」

「姫様、よそ見をなさってはいけません」


 ふらつく体勢を足を踏ん張って元に戻す。

 メアリに叱られてしまった。

 まあ、私らしいと言えばそのとおりなのだが、余りにもいつも通りの朝だったので、メアリとの会話で今どこにいるのかやっと思い出したのだ。

 ついつい周囲を見回してバランスを崩してしまった。

 メアリは私の寝衣を脱がしながらちょっと怖い顔になっているけれど、オリビアは可愛いなぁと言わんばかりにニコニコしている。

 これもまたいつも通りだ。




 着替えて食堂に行くと、既に侯爵が待っていた。すぐに私の所に来てエスコートしてくれる。


「王女殿下、おはようございます。昨夜はよくお眠りになれましたか?」

「おはようございます、侯爵。おかげさまでよく眠れました。素敵な部屋をご準備いただきましてありがとう存じます」

「それはよろしゅうございました。王女殿下もご存知のとおり、この館は完成したばかりでございます。調度も揃わない状態ですが、王女殿下が不自由しない様に心を砕いたつもりです。もし何か不足があれば何なりとお申し付けください」


 私は侯爵の言葉に頷きながら、エスコートされて席に案内された。

 侯爵はお祖父様と同年代の方だから孫のパトリシアで少女の扱いに慣れているのだろう。優しい笑顔と仕草で椅子に座らせてくれる。


 そこに、お父様がロベールおじ様を連れてやって来た。領主館内では護衛が一人だけでも安全だという事だろう。他の側近は連れて来ていない。これもウリエル様への信頼の証である。


 お父様は朝の挨拶を交わすと、すぐにお誕生日席に座った。

 食事が出揃うと、侯爵家の使用人はすぐに食堂から退出した。事前に侯爵が指示をしていたのだろう。


「先に食事を済ませよう。食後に今日の打ち合わせをする。なお、言葉遣いは礼節を弁えた範囲で崩して構わない」

「かしこまりました」

「はい、お父様」


 お父様の言葉を聞いた私は、朝食に専念する事にした。

 今朝は私の好きな半熟目玉焼きがある。塩を振ってツプリとフォークを刺せば、黄身が美味しそうにとろけた。

 半分に切ったハムをくるりと丸めてフォークに刺し、とろけた黄身を絡めて口に運ぶ。


 うーん、幸せ。

 朝は凝った料理より素材重視の簡単なのが好きなのよね。

 王宮ではなかなかお目にかかれないけども…。

 野菜サラダも新鮮でみずみずしい…うまっ。


 お父様は自分の食事が終わってしばらくすると、食べるのが遅い私に食べながら話を聞くように言って説明を始めた。

 だから私はもぐもぐしながら話を聞く。

 

「今日は午前中のうちに、この領主館と王都のタウンハウスを繋ぐ転移陣の設置を終えてしまうつもりだ。ウリエル、転移陣の部屋は準備できているのか?」

「はい、私の執務室の隣に設けました」

「うむ、執務室の隣は良いな。管理が楽だろう」


 もぐもぐ。


「転移陣の設置は消費魔力がかなり大きいと伝わっている。正直なところ、初代王以来、誰もした事がない神事だから、本当か否かはやってみなければ判らぬ。私としては念を入れて魔力回復の時間を多く取りたいと考えている。そこで、領主館と王城と繋ぐ転移陣は、明日、設置しようと思う」

「かしこまりました」


 もぐもぐごくん。


「お父様、質問してもよろしいですか?」

「ん? 何だい、アデル」

「侯爵には王都にランベール公爵邸とは別のタウンハウスを与えたのですか?」

「ああ、デクストラレクスの物だった屋敷を引き継がせた」

「では侯爵のタウンハウスには、既に転移陣があるのですね」

「そうだよ。タウンハウスの転移陣は、既に管理者の書き替えを済ませてある」

「分かりました。ありがとう存じます」

「うむ。では続ける」


 あーん、ぱくり、もぐもぐ。


「転移陣の設置は神事として行う。(ゆえ)に、アデルに神子(みこ)役をやってもらう」

「姫殿下が神子役ですか?」

「そうだ。神子役は全属性でなければ務まらぬからな」

「しかし陛下、姫殿下はまだ幼く、魔力を扱うリスクの懸念がございませんか?」

「案ずるな。アデルの魔力量はディーに引けを取らぬ」

「陛下、魔力量の問題ではございませんでしょう? 全属性と言うならば、王太子殿下が神子役をお務めになった方が現実的ではございませんか」


 ウリエル様が、幼児に何させるんだ? とでも言う様にお父様に意見する。


 ディー兄様はノビリタスコラの3年生だ。当然、魔力操作を学んでいる。

 一方、私は未就学で、体内の魔力を動かすと成長に影響がある、と言われている幼児扱いをされる年だ。

 

 もぐもぐ。


 お父様は、侯爵が何を心配しているのか解っている。

 本当の事を言えればどんなに楽だろうと思う。

 だけど、神力を扱えるのは私だけ、とか、お父様の魔力量が足りない、とか…。

 国王としてのお父様の面子を潰し、神との契約に抵触する恐れがある事は絶対に言えないだろうなぁと推察する。もぐもぐ。


 お父様は、フッと微笑んで答える。


「ウリエル、無理を言うな。ディーには王太子としてノビリタスコラの終業行事に出席してもらわねばならぬ。これは、国王の代理としての公務だ」


 それを聞いた侯爵は、ああ、という様な納得の顔になった。


 ぱくり、もぐもぐ。


「ウリエル、転移陣が出来れば試運転を兼ねて、すぐにアデリーヌ、ディー、シルを連れて来る。明日は、王太子としてディーにも同席させて神事を経験させるつもりだ」

「申し訳ございません、陛下。浅慮でございました。こちらの都合でこの日程しか取れなかった事を失念しておりました」

「いや、アデルを案じてくれた事、礼を言う。しかし、アデリエルも王家の子だ。役割を果たせるだけの力もある。其方(そなた)が案じる事は何も無いのだ」


 侯爵が心配そうに私を見るので、私も頷いてニッコリ笑う。

 

 だいじょぶだよー。

 成長が止まったら六つ柱の大神におっきくしてもらうからー。

 責任はぜーんぶ神様たちにとってもらうよー。

 もぐもぐ。


「では、ウリエル。準備が出来次第取り掛かる事にする。アデル、良いか?」


 もぐもぐ、ごっくん。


「はい、大丈夫です」

「陛下、お尋ねをしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「その神事は私共も同席する事が出来ますでしょうか」

「そうだな。部屋は広いのか?」

「いえ、ランベール家の転移の間と変わらないと思います」


 最後の一口は甘いプチトマト。

 あーん、もぐもぐもぐもぐ…ごくん。

 あー美味しかった。

 ご馳走様でした。


「ならば侯爵家の者と口が固い家臣が数名といった所か。その際は祝詞が聞こえぬ様にそちら側で盗聴防止をかけろ」

「かしこまりましてございます。以前から、王家の秘事を王家以外の者が知る事はその者にとって禍になる、と父から聞かされております」

「うむ。大叔父上の仰るとおりだ。其方らを守るためだ。頼むぞ」

「御意にございます」


「さて、アデル。朝食は美味かったか?」

「はい、とても美味しかったです。ご馳走様でした」


 とっても私好みでうまうまでしたよん。


「話は聞いていたか?」

「はい、聞いていましたよ。ちゃんと聞いていない様に見えましたか?」

「いや、余りにも旨そうに食べていたから大丈夫だろうかと心配になってね」

「それは…、本当に美味しかったのですから仕方ありません」

「王女殿下にお気に召していただけて何よりです」


 この上なく真剣な内容の話をしていたのに、なぜかお父様と侯爵の表情がすごく柔らかくなっている。

「食事が済んだのならアデルは準備に取り掛かってくれないか?」

「分かりました、お父様。侯爵、わたくしは着替えがありますのでお先に失礼いたしますね」

「承知いたしました。では後ほど」




 アデルが食堂を出た後の国王と侯爵の会話


「陛下、姫殿下が食事をしながらも真剣な目で話をお聞きになるご様子、なんとも愛らしい仕草でございますなあ」

「そうだろう? 私の癒しだ」

「しかもあの幼さで、陛下の話の内容をきちんとご理解されているご様子でした。質問も、的確に疑問を解消する為のものでございましたなぁ。いやあ、利発だ」

「うむ。私の自慢の娘だ。アデルは其方の孫娘と友達になったと言っておった。

其方の孫であれば私も安心だ。よろしく頼むぞ」

「これはまた…。陛下も親バカでございますなあ。よろしく頼まれましょうぞ」

「うむ」


※ ※ ※


 フィデスディスレクス領主館の転移陣の間は、私が一回だけ入った事がある王城の転移陣の間とほぼ同じ、と言って良い広さだった。

 お父様、私、お父様と私の側近、侯爵夫妻、侯爵子息夫妻、子どもはパトリシアだけ、侯爵の側近が2名、と結構な人数が室内に集まっている。


「今から転移陣設置の神事を行う。皆、出入り口側に寄ってくれ。そして、神事が終わるまで控えておれ。決して、私とアデルに近寄ってはならぬ」


 お父様の言葉に従い、私とお父様の側近達が入り口側の壁に背中を向けて立ち、侯爵家の人達は閉じた扉の前に並んで立った。


 私とお父様は部屋の奥に移動する。

 お父様は、念の為だ、と言って私とお父様に盗聴防止の魔法をかけた。

「さ、これで安心だ。まずはアデルが転移陣を作り、私がそれを固定する。いけるか?」


 大丈夫、イメトレは充分にやったんだから!

 落ち着け、私!


 私は頭の中で、神殿で見た映像をリプレイできるように深呼吸を一つする。

「はい、いけます、お父様」


 まずはフランマルテの聖句からだ。フランマルテと同じように右手を肩の高さに上げて掌を上に向ける。

 集中して魔力を指先に集める。


「フランマプルガー(炎の浄化)ティオ」


 私が聖句を唱えると、肩の高さに上げた右の掌の上にバレーボールより少しだけ大きめの火の玉が現れた。

 火の玉はゆっくりと燃える炎に形を変え、外側の真っ赤な色から下方中心の白い芯まで美しいグラデーションを形作った。

 私の掌から1cmほど浮いた炎は、まさしく燃えているのに全く熱くない。


 うわ、これ!

 映像では見えなかった現象が起きてるよ。

 落ち着け、私!

 これはたぶん、神界と人間界の次元の差だ。

 これで上手く行ってるはずだ。

 落ち着け、負けるな、私!


 私は集中して脳内映像のフランマルテと同じ動きで魔法陣を描く。それに合わせて指先から魔力を放出するイメージを途切れさせないようにする。


 あ、これ、結構大変かも。


 掌の先から映像と同じ文字の様な紋様がビッシリと並んだ線が現れた。

 私は、腕全体を動かして魔法陣の形を描いていく。


 集中、集中よ。


 空中に魔法陣が完成した。

 なんとか魔法陣を描き終えた時、想定外の事態を乗り切った私は少し汗をかいていた。

 無意識に右手を下ろして胸の前に掌を持ってくると、炎はバシュッと音を立てて霧散した。


 よし!

 上手くいった!

 次だ、次!


 次は風の聖句だ。何が現れても落ち着いて出来るように、私は一度大きく深呼吸してから右手を上げて掌を上に向ける。


「ヴェントステク(風の護り)トゥム」


 今度は竜巻のように渦巻く風が掌の上に現れる。本来は空気は見えないのだが、風は白く光って目で見ることができる。そして、確かに風が渦巻いているのに、掌に空気の流れを感じさせない。

 

 私は集中して、脳内映像のラファーリエと同じ動きで魔法陣を描いていく。

 よく見ると、炎の魔法陣とは違う文字列の紋様になっている。


 これは近くで見ないと判らなかったね。


 魔法陣を描き終えて腕を下ろすと、掌の上の竜巻が(ほど)けて消えた。

 炎の魔法陣は空中でメラメラと燃えているし、隣の風の魔法陣はラファーリエの貴色である黄色に輝いている。


 よし!

 これも上手くいった!

 次はオークレールだね。


 再び深く深呼吸して右手を上げる。


「アークワグラー(水の恵み)ツィア」


 今度はユラユラと形を変える水の塊が現れた。

 私はおなじように、脳内映像のオークレールと同じ動きで魔法陣を描いていく。

 集中して描いていたので息を止めていたみたいだ。描き終えた時は少し息が切れていた。


 空中に浮かんだ水の魔法陣はオークレールの貴色の水色の光を放ち、しっとりと濡れた表面の水滴が光を反射している。


 よっしゃ!

 みっつめ完了!


 今度は何度も深呼吸して呼吸を整えた。まだ、全体の半分しか終わってない。

 何度も深呼吸をしていると、空気中の魔力が私の方に集まってきて、私の体内にスーッと入ってきたのが判った。


 おおー、これが例の無限魔力ね!

 無意識でこうなるなら、魔力が枯渇する事は無いね!

 話としては聞いていたけど実感すると安心するね。

 さあ、次は土だ!


 私は気合を入れて右手を上げる。


「フームスフォルト(大地の抱擁)ゥーナ」


 土の聖句を唱えると、掌の上に苔のようにビッシリと新芽が芽吹いた土の塊が現れた。


 おぅふ!

 新芽がどんどん育ってるよ!

 かいわれ大根みてーだ。面白い。

 やばい、にやけてしまう。

 ダメダメ、集中、集中よ。


 私は気を引き締めると、脳内映像のソルテールと同じ動きで魔法陣を描く。

 それぞれに違う文字列の紋様が形作る線を、腕全体を使って操っていく。


※ ※ ※


 さて、固唾を飲んでアデルを見ている周囲の者達はどうだろうか。


 アデルはただ突っ立って腕だけを動かしている訳ではない。右腕の動きに合わせてステップを踏むように足が動き、左手は右手を支える様に添えられている。

 もちろん、アデル本人は、無意識である。


 周囲の者達には、紋様入りの魔力の線も、神力の証であるアデルの掌の上の現象も、全く見えていない。全容が見えているのは、真のコントラビデウスである国王ただ一人だ。


 周囲の者達には神力を操るアデルのゆっくりとした動作が、まるで日本の巫女舞を舞っているように見えている。

 勿論この国には存在しない舞踊だ。


 奇しくもアデルが着ている衣装は、日本の巫女さんの衣装によく似ている。

 しかも、王族しか着ない衣装であり、王族の洗礼に立ち会う資格のある人にしか見る事ができない衣装だ。

 事情を知らない周囲の者達には、さぞや神秘的な神事に見えている事だろう。


※ ※ ※


 土の魔法陣を描き終えた時、私の掌の上の土の塊は色とりどりの花が咲くハーブの寄せ植えのようになっていた。


 かいわれ大根ニョキニョキからお花の寄せ植えになっちゃったよ。

 見た事ない植物だらけだなぁ。

 お花、消えないと良いのに…。


 私が腕を下ろすと、寄せ植えの花がふわっと揺れて土の塊ごと消えてしまった。


 んー、ちと残念。

 さ、気を取り直して、次は闇の聖句だ!


 再び深呼吸をして右腕を上げる。


「テネブラエベネディ(闇の安息)クティオ」


 私が闇の聖句を唱えると、掌の上に何か現れるのではなく、天井が消えて周囲が夜明け前の空のように群青色に染まった。

 掌の上には何も見えないが、神力の気配を感じる。


 ああ、ここは脳内映像と同じだわ。

 ちょっと安心、ほっ。


 私はフンと気合を入れて、脳内映像のティーネブラスと同じ動きで魔法陣を描いていった。


 闇の魔法陣を描き終えた私は、優雅に見える様に腕を下ろして深く息を吸う。

 ここまで来ればゴールが見えたようなものだ。

 私は最後の光の魔法陣に取り掛かる為に、再び右腕を上げて掌を上に向けた。


「ルークスプライシー(光の守護)ディウム」


 私が光の聖句を唱えると、夜明け前の空のようだった周囲がサッと明るくなり、私一人だけがスポットライトに照らされたように光が差してきた。

 闇と同じく掌の上には何も見えない。でも、しっかりと神力の存在を感じる。

 光の魔法陣は、一番画数が多い。

 私は気合を入れ直してから、時間をかけて脳内映像のルーチェンナと同じ動きで魔法陣を描いていく。


 光の魔法陣を描き終えた時には、肩で息をしていた。

 私は、息を整える為に姿勢を正して深呼吸する。

 深呼吸のリズムに合わせるように、魔力も供給されていく。


 さあ、息は整ったし、魔力も充分。

 最後の仕上げだ。

 いくぞぉ。


 私は、まず火の魔法陣に両手を差し伸べると、マジックハンドのイメージで魔力を放出した。

 聖句を唱えていないけど、魔力に神力が乗っている感覚がある。

 その魔力で魔法陣を捕える。

 魔法陣をゆっくりと床に降ろしてマジックハンドを離す。

 次に風、水、土、闇、光と脳内映像の順番通りに重ねていく。

 

 最後の光の魔法陣を重ねると、魔法陣が白い光を放ってユラユラと陽炎のように溶け込んでいった。

 ひとつになった魔法陣は、其々の属性の色が絡み合って息をしている様に瞬いている。


オルサ モトゥス(此処に始まり) フィニール ミグラ(此処で終わる)ティオ」

 

 私が締めの聖句を唱えると、魔法陣が脳内映像と同じ様に眩しく輝き始め、その光は渦を巻き始めた。光の渦は竜巻のように立ち上がり、そのまま天井をすり抜けて消えてしまった。

 それと同時に、私に乗っていた神力の気配が消えたのを感じた。

 

 床には、白い線で描かれた転移陣が完成していた。



 無事に役目を終えた私は、お父様の方に体を向けてカーテシーをする。

「お父様、終わりました」

「うむ、よくやってくれた。ありがとう、アデル。して、その辞儀はなんだ?」

「見ている方々に声は聞こえないのですから、分かりやすくお父様にバトンタッチの合図です」

「ふふふ、アデルは役者だなぁ。良い。ではバトンタッチだ」


 お父様はまず、自分でかけた盗聴防止の魔法を解除した。

 でも、侯爵がかけた盗聴防止の魔法はそのままになっている。

 お父様は、私が新しく作った転移陣の中心に進んで仁王立ちになり、厳かな雰囲気を醸しながら呪文を唱えた。


アレクディシプリナム(勅命である) エクスパウンディ(拡張)


 すると、お父様の足元から大容量の魔力が魔法陣に流れ込み、転移陣がググーッと部屋の八割くらいの大きさに広がった。


 うわー、すごい魔力量で魔法陣を広げたよ。

 あー、びっくりした。

 これがレオアウリュム様から教わった魔法なんだね。


 お父様は転移陣の大きさを確認して満足そうに頷くと、また違う呪文を唱えた。


アレクディシプリナム(勅命である) エクスパル(起動)ディシミー」


 すると今度は、転移陣がカッと光を放ったかと思うと、白い線で描かれた魔法陣が再び六色の貴色が絡み合った転移陣になった。

 今度も、中心に立つお父様の足元からすごい量の魔力が流れ込むのが判る。


 六色の貴色の光は、転移陣の縁に向かって方にスーッと移動を始める。縁の方に集まった六色の貴色の光が、虹のように並んで魔法陣の縁に1mほど立ち上り、渦を巻くように激しく回り始める。そして、いきなり貴色の光が魔法陣の縁にストンと沈んで、元の白い線で描いた転移陣に戻ったのである。

 時間にして10秒くらいの間の出来事だった。


 はへー。

 これは聖句ではなくて呪文だよね?

 お父様は神力使えないはずだもんね。

 それにしても燃費が悪い魔法だねぇ。

 一回こっきりだから仕方ないかぁ。


 私が驚きを隠しておすまし顔をしている間に、お父様は侯爵に向かって手を挙げて合図をした。


 どうやら侯爵がかけた盗聴防止の魔法が解除されたようだ。いきなり静寂が破られた。

 見ると、侯爵家の方達が一斉に膝をついたためにざわざわとしたようだ。


「陛下、我が領地の為に神聖なる神事を取り行ってくださいました事、心から感謝申し上げます」

「神事は終わったが、作業はまだ終わっておらぬ。ウリエル、ここに参れ」

「はい」


 お父様が侯爵を転移陣の中心に立たせてその肩に手を置き、徐に呪文を唱える。


「ウーエッセ アウクト(権限移譲)リタス ウリエル・ル・マキ・フィデスディスレクス・ランベール」


 今度は、お父様と侯爵が同時に転移陣に魔力を注ぎ込む。

 すると、転移陣がカッと光を放って元に戻った。これで管理者の登録が完了したらしい。


 転移陣を作るために、私もお父様もたくさん魔力を使った。

 特に私は体力も使った気がする。

 てか、魔力をたくさん使うとお腹が減るんだね。

 朝、ちゃんと食べたのに、もうお腹ペコペコだよ。

ひとつ目の転移陣は無事に作り終えましたが、もう一つ作らないといけません。

アデルよりもお父様の魔力回復が心配です。

次回は、パトリシアちゃんとお茶会をします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ