お友達第一号
体調を崩して寝込んでしまいました。
寒い日が続きます。
皆様も体調管理にお気を付けてくださいませ。
お父様と手を繋ぐ形でエスコートされて案内されたのは、新しい領主館の応接室だった。
そこには、フィデスディスレクス侯爵家が全員が揃っていて、周囲には侯爵家の侍女や護衛が控えていたけれど、何と言うか…
そう! こういう時にいつも感じる物々しい雰囲気が全く無かった。
お父様の姿が見えると、応接室で待っていた全員が一斉に臣下の礼をとる。
これもまた見慣れた光景なんだけど、王様に対峙する緊張感みたいなものが全く無くて、久々に親戚と会うような和やな空気が漂っている気がする。
そんな中、口火を切ったのは侯爵夫人だった。
穏やかな口調で歓迎の挨拶を始めたので、お父様と手を繋いだままだった私は、ほんの少しだけおすまししてその様子を眺めていた。
「陛下、ご無事にご到着されて本当に宜しゅうございました。私共は、陛下並びにアデリエル王女殿下のご来臨を心から歓迎いたします」
「うむ、苦しゅうない、皆、面を上げよ。サラ、ウリエルから聞いた。此度は其方にも要らぬ苦労をかけた様だな。其方らの献身、嬉しく思う。許せよ」
「勿体無いお言葉をありがとう存じます。国王陛下に忠信を尽くすのは王族の傍系貴族として当然の事でございます。陛下のお役に立てているのならば嬉しゅうございます」
侯爵夫人が心から嬉しく思っているという事はよく分かる。
何故なら感激した様に胸に手を当てたからだ。
多分、無意識だと思う。
片や侯爵夫人の言葉を聞いたお父様は、勢揃いしている侯爵家の面々を見回し、その表情を確かめて、嬉しげに二度三度と頷いて見せた。
「セラフィエル、王家に生まれ、ランベール家に嫁いだ其方は、地方に降る事など考えてもいなかったであろう。苦労をさせるが、許せよ」
「苦労だなんて…。お兄様、いえ、陛下。わたくしはフィリップ様という頼り甲斐のある夫と4人の子宝に恵まれました。お義父様とお義母様も、まだまだお元気でございます。場所が変わっても幸せに暮らしておりますわ。でも、その様にご案じくださいました事、本当に嬉しく存じます」
2歳になるエミール様を抱いたセラフィエル様は、幸せそうに微笑んで答えた。
「そうか…、ならば良い。フィリップ、これからも我が妹を頼むぞ」
「承りましてございます」
セラフィエル様に寄り添ったフィリップ様は、お父様に力強く頷いて答えると、セラフィエル様に優しく微笑んで見せた。
お父様とお母様とは少し雰囲気が違うけど、仲良し夫婦なんだなぁ、と沈みがちだった私の心をほんわかと温めてくれる。
突然、お父様の口調が崩れる。
「セラフィ、身内だけの時は、以前の様に兄と呼んでくれ」
「まぁ、よろしいのかしら?」
セラフィエル様は、夫の意見を伺う様にフィリップ様の顔を見る。
「陛下の思し召しだ。良いのではないか?」
「うふふ、そうですわね。では、お兄様、アデリエル王女殿下にわたくし達の子を紹介してもよろしいかしら?」
「ああ、頼む。皆、アデルとは初対面であろう?」
「ええ、そうですわ」
お父様は、
「アデル、前へ」
と言いながら、押し出すようにして繋いでいた私の手を離した。
セラフィエル様は抱いていたエミール様をフィリップ様に渡すと、私の方に体を向けて腰を落とし、目線を私に合わせて挨拶してくれた。
「アデリエル王女殿下、大変ご無沙汰いたしております。この度、義父がフィデスディスレクスを拝領いたしましたので、フィデスディスレクス侯爵子息の妻となりました。ですが、以前のように変わらず、セラフィおば様、とお呼びいただけますと、大変嬉しく存じますわ」
セラフィエル様は、至極当たり前の事を言っている様に話しかけてきた。
私は首を傾げて尋ねる。
「わたくしは、貴女様のことをセラフィおば様と呼んでいたのですか?」
「ええ、幼い殿下は舌足らずの可愛らしい口調で、セラフィおばちゃま、と呼んでくださっておりましたのよ。あら、まあ、覚えていらっしゃらないかしら?」
あれ?
んー、記憶を探ってみてもそれらしい記憶がないなぁ。
襲撃後の記憶喪失で失った記憶なのかなぁ?
でも別に怖い記憶じゃないよねぇ。
んにゃ、ただ単に印象が無くて覚えていないだけかもしれない。
どっちなのか判断がつかないから、素直に覚えてないと認めよう。
「ごめんなさい、覚えていないみたいです。あ、でも、これからは喜んでセラフィおば様とお呼びさせていただきますね。わたくしの事は、アデルとお呼びくださいませ」
私はニコリと微笑んでセラフィおば様に答える。
セラフィおば様はハッと何かに気づいた様にお父様の顔を見て何かを確認した。
あの事件絡みの全てをセラフィおば様が知っているとは思えないけど、私の記憶喪失については知っているが故の反応なのだと思う。
あー、気を遣わせてすみません。
あはは、と乾いた笑いが出そうになるのを堪えて視線をそらすと、おば様の隣に控えている女の子と目が合った。
セラフィおば様も気を取り直したようにその女の子に目線を移す。
途端にセラフィおば様の表情が柔らかくなった。
「では、お言葉に甘えて以前のようにアデル姫とお呼びさせていただきますわね。こちらはわたくしの長女パトリシアでございます。ノビリタスコラではアデル姫と同じ学年になりますのよ。さ、パトリシア、王女殿下にご挨拶をなさい」
「アデリエル王女殿下、お初にお目にかかります。フィデスディスレクス侯爵子息が長女、パトリシアでございます。どうぞよろしくお願い申します」
パトリシア様は可愛らしくカーテシーをして私に挨拶してくれた。
少し緊張しているように見える。
「初めまして、パトリシア様。わたくしがトールトスディス国第一王女アデリエルです。こちらこそ仲良くしてくださいませ」
私はニッコリと笑って挨拶を返す。同級生なら友達になってくれると嬉しいなぁと思いながら。
パトリシアは、クリーム色がかった明るい茶色の髪に、緑色の瞳を持っていて、お人形のように可愛らしい容姿をしている。私の挨拶に、はにかんで笑う様子はとても可愛らしい。
しつこい様だが、重ねて言う。
パトリシアはめっちゃ可愛い。
本当に可愛い。
小動物系の美少女ってこういう感じだよね!
絶対に仲良くなりたい!
「アデル姫、パトリシアの後ろで侍女が手を繋いでいるのが、長男のニコルでございます。侍女が抱いているのが次女のアリス、そして夫が抱いておりますのが次男のエミールでございます。この子達はまだ洗礼を受けておりませんので、ご挨拶は出来ませんが、お見知り置きくださいますと嬉しゅうございます」
「ニコル様にアリス様にエミール様ですね。正式にご挨拶できるのを楽しみにしております」
私がニッコリ微笑んで返事をすると、セラフィおば様はパトリシアを残して子ども達を下がらせた。
ひと通り挨拶が終わったので、宿泊するお部屋に案内してもらう。
「パトリシア、アデル姫をお部屋に案内してくれるかしら?」
「はい、お母様。お任せくださいませ」
パトリシアと彼女の侍女が案内してくれると言うので、私は側近達を連れて部屋に向かう。
と言っても側近を引き連れたお父様一行の後ろから付いて行く訳だから、迷う事は無いのだけどね。
せっかくだから、この機にパトリシアと仲良くなりたい。
パトリシアは新しい屋敷を案内するのが嬉しくて堪らない様子だ。
これ幸いと質問して会話を心がける。
「パトリシア様、やっぱり住居部分は2階にあるのですか?」
「はい、そうです。客室も2階にございます。階段はこちらです。アデリエル王女殿下、どうぞ、こちらですわ」
「綺麗なお花がたくさん飾ってあって、華やかな雰囲気が素敵ですね」
「ありがとう存じます。まだ調度品が揃っていなくて殺風景なのでせめてお花だけでも、とお母様と話し合いました」
「まあ、お心遣いを嬉しく思います」
「わたくしのお父様はお祖父様の補佐として領内を整える為に、毎日、夜遅くまでお仕事をなさっています。家の中の事は、お祖母様とお母様が協力して整えていますが、どうしても領民達を優先してしまうので後回しになってしまうのです」
「パトリシア様は家内の事をきちんと理解されているのですね」
「はい、理解しようと努力しています。まだまだ及びませんけど…」
「貴族令嬢として努力を続ける事はとても大切ですもの。パトリシア様はしっかりしていらっしゃるのね」
私の言葉にパトリシア様が目を見開いた後、顔を赤くしてお礼を言う。
「王女殿下、こちらの絵は前の屋敷から持ってきたものです。弟のエミールが生まれた時に描いてもらった家族の絵です」
「暖かくて良い家族の肖像画ですね。こちらは?」
「はい、お父様が成人した時の家族の肖像画です。お祖父様とお祖母様がお若いでしょう?」
「まあ、本当に。こちらの絵は?」
パティが可愛らしい仕草で一生懸命に案内してくれる様子を、パティの専属侍女が微笑ましげに見守っている。
きっと使用人からも大切に思われているのだろう。
その様子を見て、パティは器量良しに加えて性格も良いのだと推測する。
よし!
愛称呼びをお願いしてみよう。
受け入れてくれると嬉しいんだけど…。
「パトリシア様、わたくしの事はどうぞアデルとお呼びくださいませ」
「え、良いのですか? ではわたくしもお母様と同じようにアデル姫とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「もちろん。ただし、公の場ではきちんと敬称を付けてくださいませね」
「はい、承知しました。それであの、わたくしの事はパティと呼んでいただけると嬉しいのです…」
うはー!
モジモジするパティがめっちゃ可愛い!
これはやられる。
破壊力凄まじい!
いかん、落ち着け!
気持ち悪って思われたらお終いだぞ、私!
「分かりました」
ふふっ、と二人で笑い合って顔を見合わせると続けて尋ねる。
「では、パティ、わたくしのお部屋はどちらでしょう」
ちょうど階段を登り切った所で立ち話をしていたので、左の方へ案内される。
パティは反対方向に家族や自分の部屋が有るのだと言い、この館の客室利用者の第一号が王族だという事が誉になると嬉しそうに話してくれた。
私が案内されたのは2階に上がって左側の奥、お父様のお部屋と向かい合わせの部屋だった。
部屋に入ってみると真新しい調度品が整えられていて、城と同じように側仕えのための部屋が続き部屋になっている。
護衛騎士には、私の部屋の隣に控室を用意してくれていた。
ロベールおじ様を除く近衛騎士には別棟の騎士用宿舎に部屋が用意されている。それを考えると、私の護衛騎士だけが特別扱いされているように思う。
あー、気を遣わせてすみません。
やっぱり私がまだ子どもだからなんだろうなぁ。
「アデル姫、お部屋はお気に召していただけましたでしょうか?」
「ええ、もちろん。様々なご配慮に感謝申し上げます、と侯爵様にお伝えくださいませ」
私のお礼を聞いてホッとした様子のパティを見て、猛烈にお茶にお誘いしたいと思った。
だってもう少しお喋りしたいのだ。
「メアリ、パティ様と一緒にお茶をいただきたいのだけど大丈夫かしら?」
「姫様、まもなく晩餐の時間でございます。姫様は旅の汚れを落として、侯爵様のご厚意に報いるためのご準備をなさらなければなりませんでしょう? パトリシア様とのお茶会は、明日以降になさいませ」
あー、お着替えですね。
はい、お着替えは王女のお仕事ですもんね。
うー、残念!
「メアリ…。分かりました」
項垂れてしまった私は、すぐに気を取り直してパティにお茶会を申し込む。
「パティ、わたくしはこの領地にいる間にパティとお茶会をしたいのです。だってわたくし、パティにノビリタスコラで親しくしていただきたいし、お友達になっていただきたいのです。いかがでしょうか」
私の申し入れに驚いたように頬に両手を当てたパティは、すぐに振り返って自分の侍女に相談をした。
そして、少し興奮気味に私にお返事してくれた。
「もちろんでございます。わたくしももっとアデル姫とお話ししたいです。わたくしの侍女とアデル姫の筆頭側仕え様と打ち合わせをさせていただきたく存じます」
「ありがとう存じます。ではメアリ、そのように」
「かしこまりました、姫様」
侍女に促されてパティが暇を告げる。
「ではアデル姫、わたくしはこれで失礼いたします」
「はい、案内をありがとう存じました。ではまた」
ヤッタァー!
お友達が出来たぞー!
お茶会が楽しみぃー!
テンション爆上げだよーん!
パティが侍女を連れて部屋を出た後、私は嬉しくてメアリの方を見て叫ぶ。
「メアリ、お友達が出来たわ! 側近ではなくお友達よ! そうよね?」
「左様でございますね。パトリシア様は姫様の従姉妹に当たられるお方ですから、家柄、お血筋、ご身分を考えても対等にお付き合いできますでしょう。よろしゅうございましたね、姫様」
メアリが嬉しそうに肯定してくれる。
「それに、姫様がパトリシア様に愛称で呼ぶ事をお許しになった時に、公の場では敬称を付けるように仰せになりましたね。メアリは、姫様がお忘れでなくてホッといたしました」
「でしょう? 私も忘れてなくてホッとしたのよ。だって、大切な事だとメアリが教えてくれたものね」
ドヤ顔で側仕え達に言うと、二人とも頷きながら微笑んでホッとしたように私を見ていた。
さっきまでの落ち込み具合はどこ行った?
あっという間にご機嫌になる自分に呆れてしまう。
でも、済んだ事をクヨクヨと考えているのは負けず嫌いの私らしくない。
明るい声で声をかけてくるメアリとオリビアに促され、楽しく湯浴みと着替えを済ませるのだった。
アデルに初めてのお友達が出来ました。
気持ちがアップして気力十分です。
次はいよいよ転移陣の作成です。




